2.コンビニまでの長い道
× × ×
日差しが強い。暑い。眩しい。
いやコレ、はっきり言って、無理だろ
俺が、こんなに天気の良い真昼間に部屋の外どころか、家の外にまで出ることになるなんて、非常に不本意である。
世間からは、ニートや引きこもりの類は自室に籠もりきって、一切合切、外出などしないと思われているのかもしれないが、それは偏見だ。
ニートだって、ちょっとした気分転換に散歩に出かけたりするし、欲しいものがあれば、買い物のため、近所のコンビニや隣町の電器屋まで足を運んだりもする。
ただし、俺の場合は太陽光が苦手なので、今日みたいな快晴の日に昼間から外出することは殆ど無い。
そう、――あってはならない――ことなのだ。
「クソ、まひろめ……。俺をこんな目に遭わせやがって」
ついさっき、昼食オーダーの《床ドン》にキャンセルをかましてくれた我が妹、まひろへの恨みつらみが、つい口からこぼれる。
あいつが素直に飯さえ持ってくれば、俺がこんな辛い目に遭うことは無かったのに。
あいつが俺の快適な引きこもり生活を妨害するようになったのはつい最近のことだ。
少し前までは、俺が床を蹴れば黙って飯は持ってくるし、嫌な顔こそしても、生意気な小言や毒を吐いたり、こざかしい暴力を振るってきたりはしなかったのだが、最近になって急に強気に出てくるようになりやがった。一体なぜなのか?アレか、アレなのか?思春期特有の、家族に対してツンツン尖っちゃう系のアレなのか?
近所のコンビニを目指し、しかめっ面の壮亮が、照り返しの激しい夏のアスファルトの上を猫背気味に歩く。
くたびれた灰色のスウェットの袖と裾を捲り、ホームセンターで売っている安物のビーチサンダルを履いた彼の姿は、端的にいって、見苦しい。
そんな自分自身と、不意に目が合う壮亮。
狭い道路の端に駐車されている車の窓ガラスに映りこんだニートと目が合い、立ち止まる。
普段、歯を磨くときに洗面台の鏡に映った自分の容姿など大して気にもしないのだが、こんな風に家の外で自分自身の存在を客観視すると、何か切ないような、恥ずかしいような、嫌な気持ちになってしまい、とても気になる。
「ぅうー?」
なぜそのような声を出したのか。
それは壮亮自身にもわからないのだが、ヘンテコな短い呻き声を上げて、その場から足早に立ち去る。
俺はいったい、何をしているのだろうか。
これから将来、俺はどうやっていけば良いのだろうか。
学校は?仕事は?年収は?私生活は?彼女は?顔は?
コンビニまでの道すがら、様々な人とすれ違う。
営業中のサラリーマン、小学生の群れ、子連れの人妻、犬の散歩。
誰かが笑えば、俺のことを笑っているのではないかと。
それが自分でも馬鹿げた考えだとわかっていても、頭をよぎる。
――やっぱり世の中クソだな――
信号待ちの交差点で、顔をしかめる壮亮。
対岸の歩道には誰の姿も無く、その鋭い視線は壮亮自身の心へ向けられているのだろう。
自分以外、誰もいない交差点。一人取り残された少年。
「いっそのこと、こんな人生さっさと終わっちまえばいい」
皮肉に満ちた薄ら笑みを浮かべ、壮亮がポツリと呟く。
それは冗談半分で、本気半分なニートの強がりなのだろう。
気の抜けた「ピヨピヨ」という電子的な鳴き声が、ニートの台詞をコミカルに修飾している。
「カッコウ」の鳴き声とともに、歩き出す壮亮。もっと交通量が少なければ、おそらく信号など無視して進んでいただろう。横断歩道に食い込んで停まっている邪魔なワゴン車を避けて、対岸の歩道まで辿り着く。
コンビニまで、あと少し……。もう少しの辛抱だ……。
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