家族愛
玉座の内部では、金と赤の贅沢なカーテン、緑と銀の輝く絨毯が光っている。王が座る椅子は巨大な宝石でできていた。私は宝石を初めて見たような気がする。ホームレス生活とは無縁のものだ。王の周りには数人のガードがいる。どいつもこいつも宝石のような装飾をふんだんにあしらった武器と防具をつけている。
玉座には王様が鎮座している。王様は長い白髪を伸ばしている。白い髪の間から見える瞳は私と同じ黒色だった。私は、私そっくりのその瞳をまっすぐに見つめた。
そして、
「こんなこともうやめて! パパ!」
私は自分を捨てた実の父親に、悲しみと苦しみが入り混じった言葉の槍を突き刺した。
「あなたが私よりママのことを大切に思っているのは知っている。パパが私のことに興味がないのも知っている。でも、これ以上ママを探そうとしないで。ママはもういないの!」
王様は少しだけ戸惑った表情を浮かべた後、また無表情に戻った。
そして、
「お前、わしの娘なのか?」
「そうよ! あなたが捨てたのよ」
その後、王様は黙ってしまった。沈黙だけが玉座を飾る。そして、私は先生の方を見た。
「今まで黙っていてごめんなさい。言い出せなくて」
「いや、いいんだ。知っていた」
「え?」
「最初から全部知っていた。計画通りだ」
思えば、不自然な点はあった。私がこの王宮の地理を知り尽くし、まっすぐ玉座の前まで案内したのに、先生はそのことについてなんの疑問も抱かなかった。先生は私がここで生まれ育ったことを知っていたのだ。
そして、先生は抜刀し、私の胸に剣を突き刺した。
剣は完全に私の急所を捉えていた。全身に痺れが走る。先生からもらったボロボロの胸当ては、強力な不意打ちによって壊されてしまった。先生の剣は私の体を綺麗に貫通している。胸が悲しみで張り裂けそうだ。皮膚が苦しみで焼き切れそうだ。心に悔しさがあふれて止められない。
きっとこの記憶は、永遠に私の脳にこびりつくだろう。人生で最も深い絶望は、最も色鮮やかに脳に残る。それはまるで絶望の黒いカビ。
私の心をぐちゃぐちゃに溶かして蝕む。私にとってそれは、最も辛いことだった。
先生は勢いよく剣を私の体から引き抜いた。私の小さな体から流れた血が、大きな水溜りを絨毯に生み出す。
「どうして?」
震える声を喉から押し出す。
「なぜって、この全ては俺の復讐なんだ。実の娘を王様に殺された。その復讐劇なんだ。俺がお前のことを装備した日を覚えているか?」
私は弱々しく頷く。
「あの日俺がお前を助けたのがたまたまだと思うか? 本当に偶然、タイミングよく俺がお前を都合よく救ったと思うか?」
「違ったの?」
「俺はお前のことをずっと前から知っていた。王の娘が捨てられてどこかにいると知っていたんだ。能力を使い、脅し、洗脳し、金を握らせ、お前のことを突き止めた。俺はずっとお前のことを見ていたんだ」
先生は淡々と語る。そこに感情なんてない。
「あのホームレス狩りの時、俺はお前を装備した。正確には装備せざるを得なかったんだ」
「どういうこと?」
「お前が死んだら、俺はどうやって王の目の前でお前を殺すんだ?」
先生はもう別人だった。復讐に取り憑かれて目が完全に死んでいる。黒髪の少年の黒い瞳と同じ、絶望している目だ。
「俺の娘に何の罪もなかった。ただ王の機嫌を損ねただけで、俺の目の前で殺された。そして、その記憶は俺の脳にこびりついて離れなくなった。今でも鮮明に思い出せる」
先生は剣を再度振り下ろす。先生の攻撃は私の二の腕を激しく損傷させた。
「だから俺は復讐を誓ったんだ!」
先生は再び私の体を傷つける。先生の銀の剣が私に振り下ろされた。
「だからお前に娘と同じ名前(愛)を与えた!」
先生は私の足を切りつける。
「だから娘の使っていた防具を与えた!」
先生は私の手の甲を剣で突き刺す。
「だから娘の装備していた能力(電撃)を教えた!」
先生は剣に電撃を纏わせた。かつて幾度も見た能力だ。剣が電撃を帯びて激しく輝く。青白くて、まるで宝石のようだ。先生は大きく頭上に処刑道具を掲げた。
「死ね」
辺りがスローになる。先生の攻撃がゆっくりになって見える。走馬灯をスロー再生しているみたいだ。私はこれから先生に殺される。そう考えた瞬間、体から力が抜けた。ここで私の人生は終わる。でも、もういいんだ。これだけ一生懸命頑張ったんだ。もう諦めよう。もう苦しまなくていいんだ。
そして、
「諦めちゃダメよ」
頭の中にあの人の声が響いた。
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