蓮華祭!(1)

『お~! すごい人だし、すごく楽しそうね!』


 メイティーが浮かれるのもわかる、なんたって今日は蓮華祭当日だ。

 夕方まで一般公開されているから大人の人も多い。

 夜以降は生徒のみで、運動場の真ん中にキャンプファイヤーを盛大に燃やす。

 そして、屋外に建ててあるステージでバカ騒ぎをして締めくくる。

 それが蓮華高校の文化祭、蓮華祭。


「今年の蓮華祭も盛り上がっているね~」


「そうだね」


 神野さんの大切な人。

 それを聞いた時は色々と動揺したが、メイティーの言葉ですんなりとおさまってしまった。


『あの娘の大切な人の事を気になったから調べてみたけど、男か女かもわからなかったわ~。これ以上探りを入れるとお父様に怒られそうだし、ここまでね』


 と言っていた。

 そう、男と決めて付けていた自分は馬鹿すぎる。

 大切な人って言うのは老若男女関係ない。

 メイティーの言葉で、当たり前の事を思い出すとは思いもしなかったな。


「さて、俺等もさっさと回ろうぜ。時間がもったいないしな」


 義秋のクラスは焼きそば屋になったが、買出し班の為呼び出しがあるまでフリーらしい。

 けど俺、神野さん、香夏子、星木さんは昼からお化け屋敷で入れ替わりをしないといけない。


「だな。どこから回るよ?」


 だから、5人で回れるのは午前中の時間に限られている。

 少しでも多く回って楽しみたい。


『やっぱ屋台でしょ! 外から見て回りましょ!』


 お前には聞いていません。

 つか、どこに行っても食い物に走るんだな。


「そうね~今のうちにお腹に入れておきたいし、屋台のある外からまわらない?」


 あー確かに香夏子の言う通り、今のうちに腹に何か入れといた方がいいかもな。

 メイティーの言う通りになってしまうのは悔しいが。


「じゃあそうするか」



 お好み焼き、焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、りんご飴、チョコバナナ。

 定番の出店がいっぱいだな。


「よう、調子はどうだ?」


 義秋が焼きそば屋の前で声を掛けている。

 となると、あの焼きそば屋が義秋達のクラスの奴か。


「まあまあだな。まだ買出し班が動く事はなさそうだ」


「そうか、わかった」


 やっぱり、ここは焼きそばを買った方がいいよな。

 えーと……財布、財布……。


「焼きそば1個くださいなぁ」


 って、星木さんはもう買っているし!


「あっちょっと、私も1つ!」


「私も!」


 神野さんと香夏子も俺と同じ事を考えていたのか、財布を出そうとしている。


「俺も1つ!」


「お、4人ともありがとな。まいどありー」




「ずるずる……焼きそば、美味しいよぉ」


「うん、おいしいね」


「うま~」


「お~それは良かった。まぁ俺が作ったわけじゃないけどな」


 皆の言う通り、この焼きそばはなかなかうまいな。

 義秋のクラスに料理上手の人が居るみたいだ。


『チュルルル……モグモグ……ん~確かにおいしいけど、もうちょっとソースが欲しいわね。あと私は生卵を乗せてほしいわ』


 こそこそと俺から盗み食いしている奴が何を言うか。

 そもそも、生徒が作っているんだから色々言うのは野暮ってもんだろう。

 ……まぁそれは置いといて、気になる事が一つ。


「じゃあぁ今度作ってみてよぉ」


「はあ? 俺が焼そばを? それはまた難しい事を言うな……」


「あぁ~真っ黒になっちゃいそうだねぇ」


「失礼な! 流石に焦がすまではいかんわ!」


 義秋と星木さんだ。

 やっぱり何だか距離近いよな。


「ねぇねぇ。私思ったんだけど、何かあの2人って雰囲気良くない?」


 香夏子もそう思っていたか。


「あっ私もそう思った」


 神野さんもか。

 3人とも思っているのなら、これはほぼ間違いなしかな。


「やっぱ? ……ニヒッ」


 あー……香夏子がすごく悪い笑顔になっているよ。

 これは義秋と星木さんを茶化す気だな。


「ヘイヘ~イ、お2人さん~此間から仲が実に良いねぇ~」


「「へ?」」


 やっぱり。

 こういうのはあまり茶化さない方がいいと思うんだけどな。


「いっその事、付き合っちゃえば? な~んて……」


『あっ!』


 なんか、メイティーが両手を口に押さえているぞ。

 おいおい、食い過ぎか? こんな時に辞めてくれよ。


「あー……えーと……」


 ん? この義秋の反応は何かおかしい。

 困ったようで、照れ臭そうで……あれ? まさか、これって……。


「わたしたちぃもう付き合ってるよぉ」


「――っ!?」


 俺は予想通りの回答が出て来た事に絶句し。


「――えっ?」


 神野さんは驚きのあまり焼きそばを落としてしまい。


「……」


 香夏子は笑顔のまま固まってしまった。


「そうだったんだ! おめでとう! いつ? いつから付き合っていたの?」


「ありがとう~付き合い出したのはぁ夏祭りの時だよぉ」


「あの時からなんだ! ねっねっどっちから告白したの!?」


 神野さんが質問攻めしている。

 意外だ、こういうのは神野さんより香夏子が食いつきそうなのに。


「……えと、俺から……」


「おお! どんな告白をしたの!?」


「メイっち! 少し落ち着いてよぉ」


 神野さんが、こんなにも興奮するとは。

 にしても、義秋と星木さんがねぇ……全然気が付かなかっ……あ、待てよ……さっきメイティーの様子がおかしかったのって、2人が付き合っていた事を知っていたからか!?


「っ!」


『ハッ! ピュ~ピュ~』


 俺がメイティーを見た瞬間、メイティーは目を逸らしてわざとらしく口笛を吹き出した。

 間違いない、知っていたんだ! だったら教えてくれよなー減るもんじゃなあるまいし。

 あーでも、こういうのは当人から聞いた方がいいか……複雑な気分だ。


「……」


 つか香夏子の奴、まだ固まっているし。

 とりあえず、肩を揺らして目覚めさせよう。


「おーい、香夏子。いい加減、目を覚ませ」


「――はっ! あれ? 今私夢を見ていた? 義秋と美冬が付き合って……」


 そう思うくらい衝撃的だったのか。


「夢じゃない。現実だ」


「……そっか、夢じゃないんだ………………羨ましいな……」


 ……最後の香夏子の声は聞こえなかったことにしよう。

 その方がいい……お互いに……。

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