蓮華祭!(2)

「……はあぁ~……」


 明らかにテンションがガタ落ちの香夏子。


「神野ちゃん、流石に美冬に対してどんな告白をしたのか言うのは恥ずか……」


「みっみみみふゆ!! きゃ~~~! 聞いた!? 美冬だって!」


 どんどんテンションが上がっていく神野さん。

 こういう話は好きなのかな?


「メイっち、恥ずかしいってぇ~! もう~!」


 普段あまり感情を出さない星木さんが、顔を赤くして両手を振っている。

 いやはや、こんな女子3人を見たのは初めてだな。

 ある意味貴重な瞬間に俺は立ち会っているのかもしれない。

 

「もう2人はもうキスしちゃったの!?」


「ブッ!」


 ちょっと!? 神野さん!?

 いくら何でも、その質問はぶっこみ過ぎでしょうに!


「キッ!? ちょっとメイっちぃ! 何を言っているのよぉ!」


 おいおい、神野さんが暴走をしだしているぞ。

 早く止めなければ、ヤバイ発言をしかねん!

 こういう時は香夏子の出番――。


「はあぁ~……」


 駄目だー! 今の香夏子は全く使い物にならない!

 というか、その原因は俺じゃないか!

 

『神野 命は恋愛話が大好きっと……メモメモ』


 俺の頭上ではのんきにメモっている奴がいるし!

 もうこの場はめちゃくちゃだよ!


「神野ちゃん、今日はそこまでにしない? ほら、時間も無いんだしさ!」


 義秋が神野さんと星木さんの間に入った。

 ……すまん、冷静に考えるとその役目は俺がするべきだよな。

 色々とありすぎて頭が追い付かなかった。


「そ、そうだよ。この場で話す事じゃないと思うな」


 とりあえず、神野さんには冷静になってもらわないと。


「あっ! ご、ごめんなさい! 私ったらつい熱くなっちゃって……」


 ふぅ良かった。

 どうやら、落ち着いてくれたようだ。


「そういうのは、女の子が集まっている時でしないと」


 本当にそうなのだろうか……。

 俺には全くわからんけど、神野さんがそういうのならそうなんだろう。


「じゃあ美冬ちゃん、次のお泊り会を楽しみにしているね」


「……」


 神野さんの言葉に星木さんが絶句している。

 こんな絶望をした顔の星木さんを見るのも初めてだな。



 にしても、校舎を回っていると各クラスは色々と工夫をしているな。

 メイドカフェもあればプラネタリウム、芸術作品、研究発表などなど。

 まぁ俺らのクラスのお化け屋敷も負けてはいないと思うけどな。

 神野さんが作り出した芸術以外は……だけど。


「それじゃあ、次はあのクラスに行ってみようよ!」


 蓮華祭の雰囲気に香夏子もすっかり元気になってくれた。

 良かった、あのままだとこっちまで気が沈んでしまいそうだったからな。


 ――ピロン


「おっ?」


 俺のスマホにメッセージがきたぞ。

 誰から……ああ、クラスのグループだ。

 という事は交代の時間か。


「あちゃ~もう時間みたいね。美冬、走るわよ」


「お化け役も大変だぁ~」


 香夏子と星木さんはお化け屋敷の中で驚かせる役だから、衣装の着替えとかの準備で急がないといけない。

 俺と神野さんは受付だから、あの2人みたいに走る必要もない。

 その辺りは非常に楽だ。


「それじゃあ俺達も行くわ」


「おう、俺も頃合いをみて後で行くからなー」


 あいつは恐怖系とか強いからな。

 果たして義秋は俺らのお化け屋敷でどんな反応してくてるやら。

 ……あれ? そういや、メイティーの姿が途中から消えたな。

 一体何処に行ったんだろう……見えない事は不安でしかないが今は探す暇はない。

 頼むから変な事を起こさないでくれよ。



 お、俺らのクラス前に結構人が並んでいるな。

 良かったー閑古鳥が鳴いていたらとどうしようと不安だったけど、その心配はなかったみたいだな。

 えっと……今の受付は馬場と鹿野か。


「馬場、鹿野、ご苦労さん。交代の時間だ」


「おっそうか。すみません、交代しますので少しお待ちください」

「やれやれ、後はまかせたぜー」


 馬場と鹿野が肩や腰を鳴らしながら歩いて行ったが……受付をやっていただけなのにあんな風になるか? ちゃんと受付をしていたのか不安だな。


「よし、お客を呼び込まないとね! いらっしゃいませ~! 恐怖のお化け屋敷で~す! 入ってみてくださ~い! 楽しいですよ~!」


 神野さん、その呼び込みはどうなのよ。

 恐怖感が全く感じ取れないんだけど。


「もういいですか?」


 おっと、俺の仕事もちゃんとしないとな。


「はい、お待たせしました」


「大人2人です」


 女性2人組か。

 見た感じ大学生っぽいしOBかな?


「2名様ですね、400円になります……いってらっしゃいませー」


 客を入れた後はストップウォッチを押して3分ずらしてっと……。


「次の方どっ――」


《ぎゃああああああああああああああああああ!!》


 なんだ、お化け屋敷の中から叫び声が聞こえたぞ。

 まぁお化け屋敷なんだから聞こえるのは当たり前なんだが……なんかこう、鬼気迫る叫びというかなんというか。


 ――バン!


「ぜぇ~ぜぇ~!」

「ハァ~ハァ~!」


 さっき入って行ったOBらしき女性2人が、勢いよく出口の扉を開けて出て来た。


「……あ~……怖かった……」

「……だねぇ~、私達の時と比べ物にならないよ……」


 血の気が引いて顔が真っ青だ。

 怖がってくれたのは嬉しいけど、正直そこまで怖くはないと思うんだけどな。

 結局は素人が作った物なんだし……。


《ぎゃああああああああああああああああああ!!》

《うわああああああああああああああああああ!!》

《ぴぎゃあああああああああああああああああ!!》


 しかし入る人、入る人、叫び声をあげて顔面蒼白で出てくる。

 どうやら、俺が思う以上にお化け屋敷内が怖いらしい。


「すごい! みんな驚いて出てくる! もしかして、私の作ったお化けに驚いちゃったのかな?」


 それはないと思う。

 別の意味で驚きはするだろうけど。


「随分と怖いみたいじゃないか。高校生1人よろしく」


「お、義秋か。200円な」


「ほい、200円。さてさて、一体中はどんな感じかな」


 義秋がお化け屋敷の中に入って行った。


「大林くん、どんな反応をしてくれるのか楽しみだね」


 正直、義秋が叫ぶって事をするのが想像できないんだよな。

 今まで入って行った人は叫んではいたが、あいつは果たして……。


《うぎゃああああああああああああああああああ!!》


 おお、お化け屋敷内から義秋の叫び声が聞こえたぞ。


 ――バン!


「ハァ~ハァ~! なんだよ、あれ……」


 義秋も今までの人達と同様に飛び出して来た。


「あーこわかった……」


 義秋が額の汗を拭いながらこっちに来た。

 よほど怖かったらしい。


「いやーすごいな! めちゃくちゃ怖かったぞ!」


「そこまで怖がってくれるなんて嬉しいわ」


「そりゃ怖いって! いきなり地面から無数の手が飛び出して、影の中に引き摺り込もうとするんだぜ!?」


「「……えっ?」」


 地面から無数の手?

 影の中に引き摺り込もうとする?


「俺は下半身まで埋まったが、一体あれはどういう仕組みだ? 教室の床に穴なんてあけられるわけがないし……って、どうしたんだ2人とも? そんな驚いた顔をして」


 そりゃあ驚くよ。

 だって、そんな仕掛けなんて……。


「……私、知らないよ……そんなの……」


「はあ? いやいや、何を言って……」


「……俺も知らない……」


 そんな手品みたいな事が出来るクラスメイトもいるわけがない。


「……えっ? いや、確かに引き摺り込まれる感触が……あったんだが……え、マジ? 本当に知らないの? じゃあ、あれは何だったんだよ!? おい!!」


 それは俺が聞きたい。

 このお化け屋敷の中で、一体何が起こっているんだ。

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