夏休み最後の……(2)

 にしても、集合場所はこのタコ公園か。

 ネコカフェの時といい、神野さんの時といい、最近よくここに来るな。


「えーと……香夏子達はっと……いたいた」


 あれ? 公園のベンチに座っているのは、香夏子だけだ。

 神野さんと星木さんはいないみたいだけど、今は席を外しているかな?

 にしても、香夏子がすごく不安そうな顔をしている気がするけど気のせいかな。


『……あの感じは、やっぱり……アタシはここで見守っているし、口も出さないからね』


「はあ?」


 何を言っているんだ、こいつは?

 意味がわからんのは前からだけど、今日は特にひどいな。


『ほら、早く行く!』


 そんな事を言われなくても行くっての。


「おっす」


「あっ……よっ」


 なんだ、なんだ?

 香夏子の奴、俺の顔を見た時一瞬目を逸らしたぞ。


「……」


「……」


 ……沈黙。

 まるでメイティーに時を止められたかのように静かだ。


「……えと……立ってないで、座ったら?」


「ああ」


 香夏子が右手でポンポンとベンチを叩いている。

 立ったまま待つのは疲れるだけだし、俺もベンチに座るとしよう。


「……」


「……」


 そして、また沈黙である。

 んーこれは俺から話題を振った方がいいのだろうか。


「あー神野さんと星木さんはどこに行ったんだ?」


「へっ? 2人はここに来ていないよ?」


「えっ? そうだったのか」


 じゃあ、香夏子一人で俺を呼んだのか。


「ご、ごめんね。急に呼び出しちゃって」


「いや、そんな事は気にしないが……」


 やっぱり、なんか様子がおかしい。

 メイティーの奴に、なにかされたんじゃないだろうな?


「あのね……その~来てもらったのには理由があって……え~と……ちょ、ちょっと待ってね! す~は~す~は~」


 香夏子が立ち上がって、深呼吸をしだした。

 どうしたっていうんだ? 香夏子の身に何が起こっているんだ。


「……よしっ! ――ハル!」


 香夏子が俺の真正面に立って、真剣な顔つきで俺を見ている。


「どうし――」


「私、ハルの事が好き」


「……へっ?」


 今、なんて言った?

 聞き間違いじゃなかったら、香夏子は俺の事を好きって……。


「小学生からの付き合いで、この気持ちに気が付いていなかった。でも、海へ行った時にわかったの」


 あのナンパ事件の時か。

 確かに、あの時の香夏子はいつもと違ったが……まさか神野さんじゃなくて、香夏子の気持ちを揺さぶっていたとは。


「ナンパ男に腕を掴まれた時は本当に怖くて、心の中でハルに助けを求めてた……そうしたら、本当にハルが助けに来てくれて……」


 心が苦しい。

 なにせ芝居だと思ってやった事だし、神野さんにいい所を見せようとしてやった事だし……そう思うと、非常に心が苦しい。


「ハルの事を想うと胸が苦しくて……自分の気持ちがもう抑えられなくて……私はハルが好き」


 香夏子が俺の事を……?


「だから、私と付き合ってほしい」


 香夏子は真っ直ぐ俺の事を見ている。

 ここは誤魔化さず、ちゃんと返事をしないといけない。

 例え……。


「……香夏子の気持ち、すごく嬉しい……俺なんかを好きになってくれて……」


 例え……香夏子との関係が壊れてしまったとしても、俺の本心を伝えないといけない。


「でも、ごめん……俺には他に好きな人が居るんだ……だから、その気持ちには答えられない……」


 そうでないと、本心をぶつけて来てくれた香夏子に失礼と思うから。


「……そっか」


 香夏子が下を向いてしまった。

 これで良かった……んだよな……。


「…………あ~すっきりした! なんか告白して心のモヤモヤが取れた感じ」


 顔をあげた香夏子は笑顔だった。

 けど、その笑顔は無理やり作ったよう感じる。


「……あのさ、虫のいい話なんだけど、まだ私と友達でいてくれる?」


 香夏子がそう言ってくれるのが素直に嬉しい。

 俺からじゃあ、そんな事は言える立場じゃないし。


「もちろん! 大切な幼馴染なんだから!」


「うん、ありがとう……えと、ごめん……今日はもう帰るね」


「ああ……」


「じゃあ、またね。ハル」


 香夏子が手を振りながら足早にタコ公園から出て行った。

 一方俺はしばらくここから動けそうにない。


「なあメイティー、これで良かったんだよな……? ……あれ? メイティー?」


 あいつの姿が見えない。

 おいおい……こんな時にどこ行ったんだよ。


「……告白……か」


 果たして、俺にできるだろうか。

 神野さんにフラれたら、俺は香夏子の様に振舞えるのだろうか……。



◇◇◇◇◇◇



 何故だろう、金森 香夏子が公園から出ていくのを見てつい追いかけて来てしまった。

 あの娘にはアタシの姿は見えないし、声も聞こえない。

 あの後ろ姿を見ていると、今すぐにでも抱きしめてあげたいけど何もできない。

 どうして、そんな気持ちになっちゃうんだろう。


「カナカナ」


「……えっ?」


 街灯の下に人が居る。

 あれは星木 美冬?


「……み、美冬? どうしてそんな所に居るの? 義秋の所に行ったんじゃ……」


「ハルルンのお家から別れた後、カナカナに用事があったのを思い出してぇ後を追いかけのぉ。そしたら、カナカナが真剣な顔をしていたからぁ気になって後をつけて来ちゃったぁ」


「つけて来ちゃったって……何よそれ、私が気を利かせた意味ないじゃない」


「ごめんねぇ」


「……公園で見ていたの?」


「ハルルンが公園に入って来た時、わたしが居ちゃいけないと思ってぇここで待っていたのぉ」


「……私がここを通らなかったかもしれないのに?」


「あぁ~そこまで考えていなかったなぁ」


「あははは、美冬らしい…………あのね、私、ハルに告白した」


「……うん」


「……けど、フラれちゃった」


「……」


「でも、私の事は大切な幼馴染だって――」

「――っ!」


 星木 美冬が走って金森 香夏子にぎゅっと抱きしめた。


「へっ? 美冬? どうしたの?」


「……!」


 星木 美冬は何も言わず、抱きしめたまま放そうとしない。


「ちょっと、そんなに強く抱きしめられると苦しいってば……だから……放し……て……みふ……ゆ……はな……し……うう……ひっく……うああ……うわああああああああああああああああああああああ!」


『ぐすっ』


 抱き付き合って泣いている2人を見ていたら、アタシまで涙が出て来ちゃった。

 ……よし、決めた! 何が何でも、あの子と神野 命の2人をくっつけてみせる!

 この恋愛の女神・メイティーの名にかけて!!


『金森 香夏子の流した涙を無駄にしてたまるもんですか!』

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