夏休み最後の……(1)

「もう8月24日か……」


 なんだかんだで夏休みもあと1週間で終わりか。

 今年の夏休みは色々とあって楽しかったな。


『どうしよう……どうしよう……どうしよう……どうしよう……どうしよう……』


「……」


 メイティーの奴は、夏祭りの花火以降どうも様子がおかしい。

 まぁ、おかしいのはいつ通りなんだが……今回は特におかしい。

 ずっと、どうしようとつぶやきながら聖書という名の漫画を何冊も読んでいる。

 最初は作戦が全く思いつかずに頭を悩ましているのかと思ったんだが、あの感じはそうではないっぽい。気にはなるが、聞いても何も答えてくれなからどうしようもない。


「……っと、今は掃除掃除」


 今日は俺、というかメイティーが言い出したみんなが俺の家に集まる日。

 神野さんに関しては、初めて俺の部屋に入る事になる。

 普段からも掃除はしている方だが、今日は髪の毛1本も見逃さないぜ!



 ――ピンポーン


 お、みんなが来たみたいだ。


『――ビクッ!』


 何でメイティーの奴はチャイムを聞くなり、クローゼットの中に飛び込んだんだ?

 別に見えない隠れる必要はないだろうに。


 ……まぁいいか、最終確認、床よし、窓よし、机よし。

 特に問題はないな、みんなを出迎えよう。


「いらっしゃい」


「ういーす」

「おじゃましま~」

「お邪魔しま~す……お~こんな感じなんだ」

「お邪魔しますぅ……へぇ~ハルルンってちゃんと掃除しているんだぁ」


 俺の部屋に入った事のない神野さんと星木さんが辺りをキョロキョロと見ている。

 検査や調査でもないのになんでこんなに緊張するんだ。


「さて、さっさと宿題を終わらせてみんなで遊ぼうぜ」


 と言って、義秋のカバンからほぼ手付かずの罰休みの宿題一式が出て来た。

 これはさっさと終わらず、みんなで遊べないパターンだな。




「……」


 宿題を始めてから数十分。

 夏祭りの花火後に感じた、あの違和感がまたある。


「ねぇ、ここはぁ?」


「ん? えーと、そこはだな……」


 義秋に質問をする星木さん。

 こんなにこの2人って近かったかな。


「……」


「……」


 それとは対照的に、よくしゃべっているはずの神野さんと香夏子は黙ってモクモクと宿題をしている。

 こっちの2人は距離を感じるな。うーん、本当に何があったのやら。

 聞いてみたいけど、聞いてはいけない気がするし……どうしたものか。


 ――チャララ~


 この着信音は義秋のだな。

 義秋は最近流行りの歌ではなくて、昭和の歌を着信音にしている。

 だから、聞いた瞬間にすぐだれのかわかってしまう。


「おっと、わりぃな……ん? 母さん? 何だろ……もしもし、どうした? …………えっ!? それマジかよ!」


 義秋が驚いた顔をしている。

 一体何があったんだろう。


「……うん、わかった。すぐ帰るよ」


 今すぐ家に帰らないといけないという事は、結構な事があったに違いない。


「何かあったのぉ?」


 この場にいる全員が不安な顔をしている。

 身内の不幸じゃなければいいが……。


「……父さんが、物置から荷物を出そうとしてぎっくり腰になったらしい」


「「「へっ?」」」


 ぎっくり腰?

 ここ数カ月よく聞く言葉だな。


「で、今すぐ必要な物なんだが重くて母さんだと運べないから、俺に運んでほしいんだと」


 なるほど、それで帰らないとなのか。

 良かった、不幸な事じゃなくて……いや、親父さんがぎっくり腰になっちゃったから良くはないか。


「てなわけで、一足先に帰るわ」


「あっ……」


 星木さんが、帰り支度をしている義秋になにか言おうとしてやめた。

 んー? やっぱりこの2人って……。


「……あ~時間も時間だし、私達も今日はここまでにしておく?」


 今の時間は17時か。

 まぁキリのいい時間ではあるな。

 香夏子の言う通り、今日はここまでにした方が良さそうだ。


「そうだな。今日はここまでにしておこう」


「うん、そうね」


「はぁ~い」


「……何か俺のせいで悪いな」


 みんなの帰り支度をしているところを見て、義秋が申し訳なさそうに言っている。

 別に義秋のせいじゃないし、気にする必要なんてない。


「いやいや、気にすんな。親父さんに宜しくな」


「ああ、じゃあな」


「お邪魔したぁ、ハルルン」


「またね。種島くん」


「……」


 何だ?

 香夏子が俺の顔を見て、なにか 言いたそうにしているが。


「どうした? 俺の顔に何か付いているのか?」


 もしそうなら最初っから言ってくれよ。

 今さら言われても遅いんだが。


「……ううん、なんでもない。じゃあね」


「? おう」


 何だ、違うのか。

 じゃあ今のは一体何だったんだろう?

 ……まっいっか、重要な事ならさっさと言っているだろうしな。


「んー! さて、みんなも帰っちゃったし夕飯の買い物でも行くかな」


 ――ピロン


 お、メッセージだ。

 誰からだろう。


【あのさ、時間があるなら今からタコ公園に来てくれない?】


 香夏子からだ。

 タコ公園に来てくれって……あーもしかして、さっき言いかけたのってこれの事か。

 本当はみんなと遊びたかったけど、あの雰囲気からそれが言えなかったわけと。

 だとすれば、神野さんと星木さんもいるだろう。

 なら、行くしかない!


【大丈夫、今から行くよ】


【待ってる】


 これでよし。

 後は、クローゼットに引きこもっている女神だが、どうしようかな。

 調子が悪いみたいだし、留守番をさせた方がいいかな。


「おーい、今から俺は出かけるから留守番をよろしくな」


『……待って、どこに行くの?』


「うひっ!!」


 クローゼットから、顔を半分出して訪ねてくるなよ!

 すんごい怖い絵面になっているぞ!!


『どうしたの?』


「いっいや、何でもない……」


 ここで幽霊みたいだと言ったら、怒ってギャーギャーうるさいのは目に見えている。

 今から出かけないといけないのに、そうなると非常に面倒だから黙っておこう。


「タコ公園だよ。香夏子から来てくれって連絡が来たんだ」


『――っ! あの金森 香夏子から!?』


 あの金森 香夏子です。

 どうして、そんなに驚く必要があるんだ?


『なら、アタシも一緒に行く!』


 ついてくるってか。

 ここは大人しく留守番をしていてほしいな。


「最近調子が悪そうだし、お前は大人しく……」


『行くったら行くの!』


「わ、わかった! わかったから、少し離れてくれ!」


 急に神野さんの顔が目の前に来たから、さっきの幽霊とは別の意味でドキっとしたわ。

 まったく、一体どうしたっていうんだ? ただ遊びに行くだけだというのに。

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