波乱の夏祭り(3)、の女神サマ

 まったく、もうすぐ花火が始まるというのになんで1人ぼっちになっているのよ。

 アタシの予定では、ここであの娘と2人っきりになって花火を見る。

 そして、アタシの魔法で花火をハート型に変えて良い雰囲気になった2人は……って、なるはずだったのに!


 ――ポロン


『ん? あの子からのメッセージ?』


【みんなとはぐれた! みんなを探してくれ!】


『……』


 なんでアタシがそんな事をしないといけないのよ。

 そもそも、こんな数の人の子が集まっている中を見つけ出せって言うのが無理なのよ。

 これはもう無視して、花火でも見ながら次の作戦を考えましょう。


 ――ポロン


 しつっこいわね。

 なんと言われようが、アタシは1歩も動かな……。


【見つけてくれたら、お好み焼きを追加するぞ】


『……あの子が4人の前を歩いていたのは見ていたし、周辺を見わたしてもいない』


 となると、いるなら後ろの方になるわね。

 早く見つけないと屋台が……じゃなくて花火が終わっちゃうわ。

 さっさと見つけるわよ!



 と、気合を入れたものの……4人の姿は見当たらず。

 人の子が多すぎてアタシでもマジでわからん。

 せめて、人の子が少ない場所に居てくれればいいんだけど。


『おっ?』


 人の子の集まりから少し離れた路地裏に、アサガオ柄の浴衣を着た娘と金髪でヒマワリ柄の浴衣を着た娘が2人いるわ。

 たぶん間違いないだろうけど、念の為に近くによってしっかりと顔を確認っと。


『ジ~……うん、間違いないわね。お好み焼きゲット!』


 後の2人の姿は見当たらないけど、とりあえず報告をしに戻りましょう。

 特に神野 命を見つけ出したのは大きいわ、これはお好み焼きだけじゃなくてじゃがバターの追加を要求してもいいかも。


「香夏子ちゃん、2人っきりで話があるって言っていたけど、なにかな?」


 む? 2人っきりの話とな。

 ……これは非常に気になる、報告はこの話を聞いてからでもいいか。

 さてさて、一体どんな話なのかしら~。


「あ~……うん……」


 ――ヒュルルル


 あら、この音は花火がうち上がる音だわ。

 あっちゃ~花火が始まっちゃったか。


 ――ドオオオオオオオオオオオオン!


 お~綺麗な花火が夜空――。


「……私さ、春彦の事が好き」


「……えっ?」


『――にッ!?』


 ちょっまっええっ!?

 今、金森 香夏子がとんでもない事をいませんでしたか!?


「……え、えと……な、なんで私にそんな話を?」


 ――ドオオオオオオオオオオオオン!


 神野 命も突然の発言に動揺している。

 というか、アタシの方が動揺しているわよ!


「ん~命だけには、この事を話しておかないといけない……そう思ったからかな」


「……」


 ――ドオオオオオオオオオオオオン!


 あわわわわわわわ! どっどうしよう!?

 アタシとしてはあの子が想う娘とくっつけてあげたいけど、別の娘が好意を持っていたのなら、それを無下に出来るわけもない!


 ――ドオオオオオオオオオオオオン!


 まさか、こんな展開になるとは流石のアタシでも思わなかったわ!

 え~と……う~んと……何かいい解決策は……。


 ――ドオオオオオオオオオオオオン!


『ああ、もう! さっきから、ドンドンとうるさいわね!』


 花火の音のせいで、全然考えがまとまらないじゃない!

 仕方ない、色々と邪魔されない為にここは一度家へ帰りましょう。

 え~と……家はっと~……こっちの方角ね。

 まったく、どうしてこうなっちゃったのかしら。


「花火が綺麗だねぇ」


「……そうだな」


『ん?』


 ちっちゃい公園に、茶髪のイケメンの男と青い蝶柄浴衣を着た娘が2人。

 大林 義秋と星木 美冬はこんな所にいたのね。


 ――ドオオオオオオオオオオオオン!


 4人はそれぞれに集まっていたのか……本当ならこの子に伝えて、お好み焼きとじゃがバターと唐揚げをゲットしないといけないけど、今はそんな場合じゃない。

 今は1秒でも早く家に……。


「……今日、返事をくれるんだよな」


「……」


 返事? 何の事だろう。

 すごく気になる。


『ちょっとくらい、いいわよね』


「……いいよぉ」


 星木 美冬は頬を紅くしている。

 なにやら照れている様子。


「本当か! やったぜ!」


 そして、大林 義秋はガッツポーズをとって喜んでいると。

 ん? ん? この流れって……まさか……。


 ――ドオオオオオオオオオオオオン!


「でもぉ、本当にわたしなんかでいいのぉ? カナカナやメイっちの方が……」


「俺は星……美冬が好きなんだ」


「はうっ」


 やっぱり、告白の返事イベントが発生しとる!!

 あの子はまだ告白イベントすら出来ていないのに、こんな所で別のカップルが成立しちゃってるよ!

 なんで、こんな事になっちゃっているの!? 恋愛の女神のアタシを置いて、どんどんと各自で物語を進めないのでよおおおおおおおお!


 ――ドオオオオオオオオオオオオン!

 ――ドオオオオオオオオオオオオン!

 ――ドオオオオオオオオオオオオン!



「あーやっと見つけた。みんな、どこへ行っていたんだよ。花火終わっちゃったじゃないか」


『ハッ!』


 色々と起こりすぎて、意識が飛んでいたみたい。

 家に帰るつもりが、いつの間にかみんなの集まりの中に戻っていたわ。


「すまんすまん。俺も人で動けなくて、その場で見ていたわ」


「でもぉちゃんと花火は見てたよぉ」


 その後、カップルになった事は言わないんだ。

 ん~……アタシも今日あった事は当分黙っておきましょう。

 まだ頭の中が混乱しているし、ちゃんと整理したい。


「あ~私も動けなくてさ、ごめんね~」


「私もはぐれちゃって、ごめんなさい」


 そして、金森 香夏子と神野 命の2人から何とも言えない空気が漂っている。

 まさに陰と陽。


「? なんか、みんなの様子がおかしい気がするんだが……」


 そう思うわよね。

 貴方が知らない所で色々あったんだから。


「そう? いつも通りだと思うけど……そんな事より、他の回っていない出店に行こうよ」


「あ、ああ……(なぁお前はみんなを探しに行っていたんだろ? 何があったんだよ)」


 大林 義秋と星木 美冬は近い距離で歩いている。

 逆に金森 香夏子と神野 命はちょっと遠い距離で歩いている。

 そして、置いてけぼりこの子。


『……今は何とも言えないし、アタシの口からは言ってはいけない。貴方に言える事はそれだけよ』


(はあ? なんじゃそれ)


 知らぬが仏、この言葉に尽きる。

 そして、すべてを知ってしまったアタシは頭が痛いわ。

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