6章 とある女神サマ、夏休みを堪能(下旬)

今日はバーベキュー!

 気付けば夏休みももう半ば。

 今日はバーベキューをする為に、近くにあるキャンプ場にみんなが集まった。

 そして神野さん、香夏子、星木さんの女子3人は食材を切りに行き、残った俺と義秋の男2人は……。


「ぜぇーぜぇー」


「全然つかんぞ……」


 頑張って、焚火台の中に向かってウチワを扇ぎまくっている。

 しかし、一向に着火剤の火が炭に広がっていく気配がない。

 ちゃんと着火剤は燃えているし、煙も出ているのに何故だろう。


「やっぱり、着火剤は全部使うべきだったんじゃないのか?」


 義秋の奴が来年もするかもしれない、そう言って着火剤を半分しか使わなかったが……。

 こういうのってケチると駄目な気がする。


「だって、ここまで燃えないとは思わなかったんだもーん」


 だもーん、じゃないよ。

 可愛く言って誤魔化したつもりだろうが、男のお前が言っても殺意しかわかんわ。


「……とにかく、着火剤を増やしてみようぜ」


 しかし、今は殺意とかわいている場合じゃない。

 女子達が戻ってくるまでに、火を付けておかないといけないからな。

 絶対にって訳では無いんだが……ついてないとなんか格好が悪いし、こう男としてのプライドもある。


『まだ火がつかいの? 何をやっているのよ~』


 こっちは必死に扇いでいる頭上で寝転がりながらプカプカと浮いて、手伝いもしない奴がウダウダと言うな。

 くそ、どうにかしてこいつに手伝いをさせる方法はないだろうか……あっそうだ、あるじゃないか。

 すごく簡単に動かせる方法が!

 さっそくメッセージを打ってっと……。


【火が付かないと、肉が食えないぞ】


 これでよし、こいつの食い意地を考えたら――。


「うおっ! あっつ! あっつ! 何だ!? 急に火が燃え上がったぞ!」


 メイティーがスマホを見た瞬間、焚火台に向かって手をかざしたら火柱が上がった。

 なんて素早い反応なんだ……こいつの食い意地はマジで怖いな。

 というか、確かに火はついたがこれはやりすぎだ! 少しは考えてほしい!


「おまたせ~どう? 火はつい……って、これは燃えすぎでしょう! なんて事をしているのよ!」


「おぉ~すごいねぇ」


「これだとお肉が炭になっちゃうよ」


 丁度、女子3人が戻ってきた。

 というか神野さん、思うところはそこですか。

 こんな状況でバーベキュー自体が出来るわけないでしょうに。


「いやいや! 俺等のせいじゃなくて、いきなり燃え上がったんだよ! おい、春彦も見ていないで火の調整を手伝え!」


「お、おう!」


 急いで一部を端に寄せたり、炭を細かく砕いたりして調整せねば。

 メイティーを動かせたのは良かったが、これはこれで大迷惑だ。

 お肉パワー恐るべし。




「ん~おいしい~」


「あっ美冬ちゃん、野菜も食べないと駄目だよ」


「ちょっとぉ母親じゃないんだからぁ、お皿にわざわざのせないでよぉ」


「うめぇーやっぱバーベキューの肉は最高だな」


 なんだかんだあったが、なんとか開始できた。

 俺もみんなに負けない様に食べていかないとな。


「ん? おい、春彦! ここにあったいい感じに焼けていた肉を盗るなよ! 俺が狙っていたのに!」


「はあ? 俺は取ってないぞ」


 今は焼きに徹していたから、食べる暇なんてないっての。

 義秋の奴、何を言っているんだ。

 自分で食ったのを忘れているんじゃないのか?


「ふふ~ん……あれ? 私の肉が無い! ちょっと誰が食べたのよ!」


 香夏子が誰と言いつつも俺を睨みつけている。

 なんで、さっきから俺に矛先が向くんだよ。


「いやいや、俺は食ってなんだよ! ほれ、持っている割り箸はまだ汚れてないだろ?」


「……本当だ。ん~おっかしいな」


 濡れ衣を着せといて、それだけかよ。

 にしても、何で肉が無くなって……。


『モグモゴモグ。ん~おいひぃ~』


 俺に濡れ衣を着せた犯人が分かった。

 姿が見えないからって、女神が盗み食いをするなよな。

 器用にみんなの目が網にいっていない時に、肉を取って行ってやがる。

 くそっ犯人はこいつです! って言えないのが辛い。


『しあわふぇ~……』


 あーそういえば、今日は絶好のイベントなのにメイティーから何も作戦を聞かされていないな。

 後から無茶な事言われると困るし、今からでもメッセージで聞いた方がいいか。


【今日の作戦は何をする気なんだ?】


 送信っと。

 メイティーがスマホを見て……もう返事が返ってきた。

 えーと、何々……。


【あるわけないじゃない。食事の邪魔されたくないし】


「……」


 俺の恋愛より己の食欲を取りやがった。

 これはもう恋愛の女神じゃなくて、食欲の女神と名乗った方がいいのでは?

 まぁいいや、俺も今日は素直にバーベキューを楽しむとしよう。


「ありゃ? もうジュースがないぞ」


 2リットルのペットボトルを買ってあったが、2本だと足りなかったか。

 まぁ今日は暑いし、みんなよく飲んでいたものな。

 今は義秋が焼きに回っているし、女子達に行かせるのもあれだし。

 しょうがない、ここはひとっ走り買ってくるか。


「なら俺が買ってくるよ」


「悪いな、よろしく頼むわ。金は後でまとめて渡すから」


「おう」


 さて、自動販売機はキャンプ場の管理棟にあったよな。

 大きなペットボトルは売っていないだろうし、多めに買う事を考えると袋を……。


「あっ持つの大変だろうし、私も一緒に行くよ」


 立候補してくれたのは神野さん。

 え? これって……もしかしなくても……。


「今度は祭りか~楽しみだね~」


「うっうん、そそそうだね……」


 神野さんと二人っきりで歩いているうううううううう!

 おおおおおお、めちゃくちゃ動揺しているのが自分でもわかる!

 落ちつけ……落ちつけ……冷静になって何か話題を……。


「……ねぇ種島くん」


「はっはいぃ!」


 うっ声が裏返っちゃった。


「あの、良かったらなんだけど……お祭りの日は一緒に集合場所に行かない?」


「へっ?」


 それって、今と同じで2人っきりって事だよな。

 え? マジで!?


「……駄目、かな?」


「だっ駄目じゃないよ! いいよ! 大丈夫!」


 流石の俺でも、ここでヒヨったら駄目なのがわかる!

 つか、これって本来は俺から誘うべき所だよな。

 結局そこに関したら駄目駄目だ。


「良かった~じゃあ、時間とかまたメッセージで送るね。……あ、自動販売機があったわ」


 神野さんが自動販売機に駆け寄って行った。

 これは夢なのだろうか。

 神野さんから誘ってもらえるだなんて。


「……いふぁい」


 頬っぺたをつねったら普通に痛い。

 つまりこれは夢ではないって事だ。

 うおおお! 最近、神野さんとの距離が縮んできた気がする!


「このままいけば――ハッ!」


 辺りにメイティーの姿は……無いよな。

 なら、今の話はメイティーには黙っておこう。

 知ったら絶対にめちゃくちゃになるのが目に見えているし。

 ああ……祭りの日が待ち遠しい。

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