波乱の夏祭り(1)

 今日はみんなで夏祭りに行く日。

 ……なのだが、俺にとってはすごい緊張する日になってしまった。

 なんたって先に神野さんと待ち合わせをしているからな。

 神野さんとは何回も会っているが、2人っきりは初めてだ。


「この服装で大丈夫かな……ダサイと思われないだろうか?」


『なに今さらそんな事を言っているのよ。普段と変わらないじゃない』


 今日はまた違うんだよ、みんなと2人っきりではな。

 まぁメイティーにはこの事を話していないから、そう言うのも仕方ないが。


『あ~やっぱり駄目みたいね……しょうがない、今日は諦めるしかないか』


 メイティーが肩を落としている。

 どうも夏祭りで、またしてもナンパ計画を立てていたらしい。

 しかし、肝心のマーチョとマッソー兄弟は用事で来れず。

 他の知り合いにも声を掛けたそうだが……あの感じだと、全員駄目だったみたいだな。

 にしても、またナンパ作戦だったりバーベキューの時は肉に流れたりと最近雑になって来ているのは気のせいだろうか。


「おっと、もう17時か。そろそろ、出かけるぞ」


 神野さんとの約束の時間は17時半だから、待ち合わせの場所を考えるとそろそろ出かけないと。


『あれ? もう出かけるの? 皆との集合時間まではまだまだじゃない』


 みんなとの集合時間は神社前に18時だものな。

 確かにそう考えると早いわな。


「ちょいと訳ありなんだ」


『訳あり? ……もしかして、アタシに黙っていた事があったんじゃないでしょうね!?』


 正解、だがもう遅いんだよな。



 集合場所のタコ公園に到着っと。

 えーと、神野さんは……よし、まだ来ていないみたいだな。

 待たせるのは悪いから早めに家を出て正解だった。


『? 公園? 一体どういう事なのよ』


 そこに関したら、俺も疑問に思った。

 お互いの家から祭り会場まで考えると、タコ公園の位置って微妙に遠回りになってしまうからな。

 まぁ神野さんの指定だから文句はないけどね。

 待っている間に、ジュースでも……。


「種島くん!」


「あ、神野さん」


 アサガオ柄の浴衣を着た神野さんが、小走りでこっちに来た。

 うおおおおおおおおおお……制服や普段着と違って、浴衣姿もまたグッと来るものがあるな。


「はぁ~はぁ~……ごめんね、待たせちゃって」


「全然気にしないで! 俺も今来たところだし!」


 髪もいつもと違って後ろに束ねているから、また印象も変わるなー。

 可憐で美しい……それしか言葉が思いつかないよ。


『ちょっと、何よこれ! もしかして、アタシに黙っていた事はこれなの!?』


 同じ顔でも、後ろでギャーギャーと喚いている奴とは大違いだ。


『ちゃんと言いなさいよ! この時の為に最高の作戦を考えたのに!』


 だから言わなかったんです!!

 最高どころか最低になるのは目に見えていたからな!


「だったら良かった。わ~周辺は変わったけど、公園の中は全然変わっていないんだね」


 ん? 神野さんからここへ集合と言ってきたのに、それだと久々に来たような言い方だな。

 どういう事なんだろう?


「私ね、昔ここで遊んでいたの」


「え、そうだったんだ」


 やべぇ全然記憶にない。

 小学生時代とはいえ、神野さんがここで遊んでいたら気付きそうなんだが……。


「うん。でも、私が小学生の時にお父さんの転勤で引っ越したの。1年前にこっちへ戻って来て、蓮華高校に進学したの」


 なるほど、そうだったのか。

 通りで記憶にないわけだ。


「俺も小学生の頃、この公園で遊んでいたよ。いやー神野さんと一緒に遊べなかったのは残念だったな」


 引っ越しもそうだが、恐らく遊ぶ時間帯も違ったんだろう。

 うーん……本当に残念だ。


「……そう……だね」


 神野さんが顔を曇らせている。

 俺と同様に遊べなかったのが残念だったのかな?


「……」


「……」


 まずい、なんか変な空気になってしまった。


『……何この重い空気は……ちょっと、どうにかしなさいよ!』


 どうにかって。

 こんな空気を変えるのも、恋愛の女神サマの仕事じゃないんですかね!?


「あー……そ、そうそう! 小学校の頃と言えばここでえいくんって子とよく遊んだけど引っ越したんだよね。神野さんと同じだねー」


「……」


 ……だああああああああああ! 神野さんと同じだねって、何を言っているんだ俺は!

 ここはえいくんとの思い出が強いからえいくんの話をしたけど、余計な事まで言っちゃった。

 やってしまった、これじゃ余計に……。


「……そのえいくんって、どんな子だったの?」


 おっと、予想外の展開。

 神野さんがえいくんに食いつてくれたぞ。


「活発で優しくて面白い子だったよ、遊んでいてすごく楽しかったなー。あっそうそう、面白いといえばそこに生えている草は食べられる奴だって言って食べちゃってね。その時は、ものすごく苦そうな顔をしてトイレにかけこんで行っちゃったよ」


「……っ!」


 ん? なんか神野さんの顔が赤くなっているぞ。

 まさか、この暑さで!


「神野さん、顔が赤いけど大丈夫!? 何か冷たい飲み物を……」


「え? あっ! だっ大丈夫だから! 気にしないで!」


 気になるんですけど。

 本当に大丈夫かな。


(……そっか、そんな事……………………)


「?」


 神野さんが小声でボソボソって言っていたけど、最後辺りがよく聞こえなかったな。


「今なんて言ったの? 最後までよく聞こえなかったんだけど」


「……ううん、何でもないよ」


「……そう?」


 今日の神野さんは、やっぱり何かおかしい気がする。

 けど、それをつつくのもあれだよな。


「あっ、そろそろ待ち合わせ場所に行かないと遅れちゃうわ!」


「え? あっ!」


 時計を見たら、もう40分じゃないか

 思い出話をしていたら、つい時間を忘れてしまっていた。

 これは急がないと18時に間に合わないぞ。


「種島くん、早く早く!」


「あ、待って!」


 小走りで先を行く神野さんの後ろ姿を見て思う。

 さっきの神野さんのつぶやきは、聞き逃していけなかった。

 何故だか、そんな気がする……。



『そんな事まで覚えていてくれたんだ……あの娘ってばそう言っていたけど、どういう意味だろ? う~ん…………考えてもよくわからないし、まぁいっか。アタシも後を追いかけないと!』

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