女神サマとの出会い(3)
『まったくこれだから人の子は……まあいいわ、時間もないし、どうしてその光栄な加護を貴方に与えたのか、そしてアタシが目の前に降臨したのか説明してあげる』
光栄ねえ……これっぽっちも感じない。
正直、これ以上この自称女神に関わりたくないんだけどな。
とは言っても、一体なにをしに俺の目の前に現れたのかも気にはなる。
ここは黙っては話を聞いてみよう。
『ズバリ、貴方の恋を成就させる為なの! その為にアタシの存在がわかる様に加護を与えたわけ!』
メイティーが俺に向かって指をさした。
恋を成就させる……?
それって――。
「俺と神野さんとつっつつつつき合えるって事か!?」
『そうよ!』
うおおおお! マジかよ!
神野さんと……うはっ嬉しすぎる。
「それって、お前が神野さんに対して俺に好意の気持ちを向けてくれる様にしてくれるのか?」
『無理。人の子の心を捻じ曲げる行為なんてしたら、お父様に怒られちゃうもの』
あー……それもそうか。
神野さんの心を、俺の気持ちで捻じ曲げるのは流石に駄目だよな。
だとすれば……。
「じゃあ、俺の顔をかっこよくしてくれるって事か?」
『無理。アタシ、人の子の姿を変える力は使えないの。人間界の整形外科に行ってちょうだい』
さっき全知全能の女神とか言ってましたよね。
加護を与えたり、空中に浮いたり、時間を止められたり出来ているのに、それは無理って意味が分からん。
「じゃあ、俺のこの奥手な性格を変えてくれるとか?」
『はあ? あんた馬鹿じゃないの? それじゃあ心を捻じ曲げる行為と同じでしょ! そもそも、そんなものは自分自身で治しなさいよ!』
ド正論をかまされてしまった。
うう……自分で治せるものならとっくに治しているよ。
何なんだよ、なんで俺が傷つかないといけないんだ。
「これも無理あれも無理って、じゃあ何をしてくれるんだよ」
『アタシが出来る事は、貴方の相談役となり恋愛のアドバイスをする事ね』
「……」
それってただの恋愛相談だよな、そんなの別に女神じゃなくても出来るし。
というか、神野さんの事を神野さんそっくりな人……じゃなくて女神に話すのもなんだかな。
「えーっと……色々言いたい事があるけど、そのアドバイスって具体的には?」
とはいえ、今の現状をどうにかしたい気持ちはある。
聞くだけ聞いてみよう。
『フッフッフっフ、それはね……え~と……あれ、なんだっけ? ちょっと待ってね……ふむふむ……』
メイティーが後ろを向いて何かを見ているようだ。
……なんだか嫌な予感がする、ちょっと覗いて見よう。
『なるほどね~』
「……本?」
メイティーはどこから出したのか、分厚い本を読んでいる。
もしかして、数多の恋愛の知識が詰まっている本なのかな。
『……だとすれば~』
いや、違う! あの本には絵がある、吹き出しがある!
つまり漫画だ! しかも少女漫画!
「少女漫画を読んでいるんじゃねえええええええ!」
あっ、つい勢い任せでメイティーから少女漫画を取り上げてしまった。
『――っ!? ちょっと! アタシの聖書を返してよ!』
この少女漫画を聖書と言いますか。
こいつに少しでも期待した俺が馬鹿だった。
「……もういいよ。これを返すから、さっさと俺の前から消えてくれ」
疲れた。
早く家に帰って休みたい。
『そうもいかないわ。貴方の恋が実るまで傍に居ないといけないし』
「えっ?」
今こいつ、恐ろしい事を言ったような。
「それはどういう意味だ?」
『そのままの意味よ。これはお父様から受けた試練、貴方のとその神野さんだっけ? が、くっ付くまで天界に帰れないわ。じゃないと不合格になっちゃう』
何だよそれ。
はた迷惑な試練すぎるぞ!
「人の恋路をお前が独立できるかの試練に使うな! そんなもの、却下だ! そもそも、どうして俺が選ばれたんだ!? ただの平凡な高校生だぞ!」
『まあ~その辺りは色々な事情があるわけよ。あと、貴方が選ばれたのは~これよ』
メイティーが小さい正方形の紙を取り出した。
その紙には416041って数字が書いてある。
「この紙がいったい……」
『貴方の番号よ』
「番号?」
マイナンバー的な?
でも、俺の番号ってこの数字だったかな?
普段気にしていないからわからん。
『そう。で、この箱の中には人間界約70億人分の番号が書かれた紙が入っていて、そこから1枚引いた番号が416041番。つまり貴方だったわけ』
つまり、俺は箱に入ったクジで選ばれたわけだ。
しかも約70億分の1の確率で……なんという無駄運。
こんな事で運を使うならもっといい事で使いたかった、宝くじが当たるとか。
「はあ……」
色々な事情も気になるが、もうこれ以上こいつと関わるのはよそう。
『あれ? どこ行くの?』
「家に帰るんだよ……」
じゃないと、俺の身が持たん。
あー関わるべきじゃなかった。
『帰るって、まだ貴方をくっつける作戦を話していないんですけど』
「そんな事知るか! ――っ!」
ここは走って逃げるのみ。
これ以上、こいつと関わりたくない!
『あっ! ちょっと待ちなさいよ!』
誰が待つか!
※
「ぜぇーぜぇー……」
俺が住んでいるマンションに到着。
蓮華高校と近いから、走ればすぐ帰ってこれる。
『人の子って飛べないから不便よね~』
これるが、すっかり忘れていた。
こいつは空を飛べたから、走って逃げるなんて無理な話じゃないか。
わざわざ俺が住んでいるところに案内したようなものだ。
『けど1階の101号室じゃなくてもっと上の階の方がよかったな~、高いところから夜景を見たかったわ』
「っ!? なんで俺の部屋の番号を知っているんだ?」
まだ、マンションの入り口なのに。
『そりゃある程度貴方の事を知っとかないといけないもの。種島 春彦、男、誕生日は4月13日、身長は166cm、体重は57kg、今はこのマンションの101号室で一人暮らし、趣味は誰にも見せない小説を書――』
「わあああああああああああ! ストップ! ストップ!」
ある程度の度がすぎないか!?
いくら何でもそこまで知る必要はないだろう。
『どうしたの? そんなに慌てて……あっ安心して貴方の事だけだから! 貴方の心の内や親兄弟、友達といった他の人の子についてはプライバシーの侵害になるから調べていないわ!』
おかしい、お前の言う安心しての言葉は非常におかしい。
そこまで俺の事を知っている時点でプライバシーの侵害しかないし。
そもそも、恋愛の女神なら、むしろ俺の心の内を調べる方が大事じゃないのか?
ああ……俺の恋路も……こいつの試練も……もう駄目だな。
失敗の2文字しか頭にない。
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