女神サマとの出会い(4)
色々ありすぎて本当に疲れた。
これ以上は俺が倒れてしまいそうだし、これ以上考えるのはよそう。
えーと……部屋の鍵、鍵っと。
――ガチャ
「言いたい事は沢山あるけど、俺はもう疲れたから部屋に帰るわ。それじゃあ明日な……」
出来れば今日限りにしてほしいところだが、状況的に無理だからあきらめよう。
――バタン
――ガチャ
鍵も閉めたし、これで良し。
「ふぅー」
やっぱり、自分の部屋は落ち着くな。
はあ~今すぐにでもベッドに飛び込んで寝たい。
けど、夕飯の準備を……あっしまった、あの女神のせいで夕飯の食材を買って帰るのを忘れていた。
冷蔵庫に何が入っていた……。
『へぇ~ここが貴方の家か~』
……か……な……?
え? 背後から声?
「――うえっ!?」
いつの間にか背後に神野さん、じゃなくてメイティーがいる。
『? どうしたのよ、変な声を出して』
そりゃあいきなり背後に居たら変な声も出るわ。
確かにドアの鍵は閉めたし、ドアの開く音なんて全く聞こえなかったぞ。
「どっどどどどうやって中に入って来たんだよ!?」
『どうって…………こうやってだけど?』
「んなっ!!」
メイティーがドアをすり抜けて外に出て、またすり抜けて中に入って来た。
よく幽霊が出てくる漫画でこんな場面があるが、それを現実に見る事になるだなんて思いもしなかった。これも女神の力なのか?
『なんだ結構綺麗にしているじゃない。男の1人暮らしの部屋だからゴミだらけだと思っていたわ』
俺が呆然としているのをしり目に、部屋を飛びながら見て回るメイティー。
失礼な、何だその偏見は? 普段からちゃんと掃除しとるわ。
いやいや! 問題はそこじゃなくて!
「どうして、俺の家に入って来ているんだよ!?」
『どうしてって、アタシは天界に帰れないのよ、だったらアタシの家はここになるじゃない』
なにがどうなって、そんな暴論になるのか理解できません。
女神なんだからその辺りは自力でどうにかしろよ。
こいつを今すぐに部屋から追い出したいけど、それだと神野さんを追い出すみたいで……うーん。
『よっと』
――ピッ
俺が悩んでいるのを無視して、ソファーに寝転んで完全にリラックスモード。
おまけに、テレビをつけてチャンネルを回しまくっている。
『ん~特に面白いのはやってないわねぇ~』
女神が面白いと思うテレビ番組なんて存在するのだろうか。
いや、こいつの場合はバラエティーが好きそうだ。
『……あっそうだ!』
メイティーがポンと手を打つポーズをとった。
何か思いついたみたいだけど、俺には嫌な予感しかしない
『ねぇ。貴方が気になっている娘のフルネームを教えてちょうだい』
何だいきなり。
「……神野 命さんだ」
あまり言いたくないが、それはそれでギャーギャーとうるさそうだから仕方ないな。
『ふむふむ、神野 命ね。え~と、神野 命~神野 命~……どうやらこの街には1人だけね』
という事は、別の街には同姓同名がいるのか。
まあいても不思議じゃないよな。
『それじゃあさっそく、このテレビで見てみましょう』
そう言って、メイティーがテレビの上に手を置いた。
テレビで見てみるって一体どういう事だろう。
『はいっ!』
「……え?」
テレビに映ったのは、住宅街の道を自転車で走る女の子。
それはどう見ても……。
「神野さん!?」
まるで監視カメラの様にくっきりと神野さんが映っている。
そうか、この力を使って俺を見ていたわけか……こわっ!!
『へぇ~中々、かわいい娘ね。でも、どこかで見た事があるような気がする……』
そりゃそうだ、同じ顔が俺の目の前にあるんだからな。
時間的に帰宅中かな?
『あっ家に入っていくわ』
立派な一軒家に入って行く神野さん。
ここが家なのだろうか。
《ただいま~》
やっぱりそうだった。
へぇー神野さんの家って、ここだったのか。
《命、おかえりなさい》
上品な女性が居間から出て来た。
あの人が神野さんのお母さんだな。
いやー美人な人だな……って、これは完全にアウトだろ!!
これはただの盗撮だ!!
「アホかああああああああ!!」
――ブツン!
『あっ! なんでテレビの電源を切っちゃうのよ!?』
「犯罪行為なんてするな!」
『犯罪? アタシはただあの娘の行動を……』
「それが犯罪! もう見るのは禁止!」
『む~~~~~』
メイティーが不服そうにベッドの上に飛んで行った。
『もういいわよ! ――フンッ!』
で、布団にくるまりやがった。
ちょっと待て、その布団は俺のなんだが。
「おい、俺のベッドで不貞寝するなよ」
『今日からこのベッドはアタシの物です。ベ~っだ!』
メイティーがひょこっと顔を出して、あっかんべーをしやがった。
そして、さらっととんでもない事を言い出しやがったよ。
「なんでそうなるんだよ!」
『何よ? 貴方は女神のアタシに地べたで寝ろっていうの?』
「うぐっ」
こいつを地べたで寝ようが別に何とも思わない。
しかし、こいつの顔のせいで神野さんを地べたで寝かせるみたいでなんか嫌だ。
くそっ顔を変えてほしい。
グ~……。
包まった布団の中から、大きな腹の虫が鳴るのが聞こえた。
『お腹すいちゃったな~』
その音でわかります。
『お・な・か・が~すいちゃったな~』
そして、その口調から察するに俺に作れと。
『お~な~か~が~』
「わかったよ! うるさいな!」
このまま無視し続けるのは俺的にも良くない。
飯も食えば多少は静かになるだろう……多分。
『わ~い、それじゃあハンバーグがいいわ』
文字通りメイティーが飛び起きて来た。
「残り物だよ! 今日はお前のせいで買い物できなかったんだからな!」
※
『あ~食べた食べた。……よいしょっと』
メイティーが夕飯を食い終わり、即ソファーに寝転んだ。
「おい。食べてすぐ横になるのは……」
『すぴ~すぴ~』
「……嘘だろ」
爆睡していやがる。
大口を開けて涎をたらしているし……神野さんの顔でそんな事をしないでほしいな。
さっさと起こして、ベッドに……いや、待てよ。
別に起こす必要はないよな? このまま寝かしている方が静かだし俺もベッドで寝られる。
そうしよう、このまま起こさずソファーで寝てもらおう。
ただ、神野さんに申し訳ない感じもする。
「……せめて、上に何かかけてやるか」
こうして、自称・恋愛の女神と出会った1日が終わった。
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