女神サマとの出会い(2)

 どうして、神野さんが空中に浮いているんだ。

 どうして、神野さんがえらい派手な姿になっているんだ。

 わからない……頭の回転が追いつかない。


『カミノサン? 貴方が何を言っているのかよくわからないけど、アタシはメイティー! 人の子たちの恋愛を司る全知全能の女神メイティーよ!』


 神野さんがよくわからない事を言いつつ、バッと両手を広げてポーズをとった。

 そして、ポーズをとったまま静かに地面に降り立った。

 メイティー? 人の子たちの恋愛を司る女神?

 ただでさえ頭の回転が追いつかないのに、数多くの情報を出してこないでほしいんですが。


「おい、君。突然こけたけど、大丈夫か?」


「へっ……?」


 中年のサラリーマンが背後から声を掛けてきた。

 いや、この状況ならこけるに決まっているじゃないか。

 

「えと、大丈夫です」


「そうか? ならいいんだが……」


 そもそも、この人は何で平然としているんだ。

 人が空中に浮いているのだから、俺よりそっちを注目すると思うんだが……待てよ、もしかして……。


「あのーつかぬ事をお聞きしますが、あのピンク髪の女の子が見えますか?」


「ピンク髪の女の子? ……どこに居るんだい?」


 中年のサラリーマンがキョロキョロと辺りを見渡している。

 俺の目の前にヘンテコの神野さんが居るのだから気が付かないはずはない。

 気付かないふりをしていたとしても不自然さが無い。


「あーいえ、俺の気のせいでした、気にしないで下さい」


「? よくわからないが、気を付けて帰るんだよ」


「はい、ありがとうございます」


 やっぱり、あの人には見えていないんだ。

 いや、あの人に限らず周りに居る人全てが見えていないみたいだ。

 という事は、あれか? 俺の目の前に居るヘンテコの神野さんは俺が作り出した幻影か何かか?

 やばいな……幻影を見るほど精神的にきているって事だよな。

 これはさっさと家に帰って寝た方がいい、そうしよう。


『え? へっ? ちょっ! ちょちょちょっと、待ちなさいよ! なんでアタシを無視して素通りにしようとしているのよ!?』


 ……幻影であるはずのヘンテコの神野さんに肩を掴まれてしまった。

 この感触は幻影なんかじゃない、本物の感触だ。これは一体、どういう事なの?

 

「あっあの……神野さん、これは一体……」


『だから~アタシはそのカミノサンじゃなくてメイティーだってば』


 そう言われても神野さんは神野さんだし。

 いや、このままじゃわけのわからないままし……仕方ない、状況がつかめるまで話を合わせるとしよう。


「それじゃあメイティーさん……? 貴女は一体何者ですか?」


『はあ? それも言ったじゃない、アタシは全知全能女神。だから、アタシの事は全知全能女神メイティー様と呼びなさい!』


 俺の知っている神野さんはお淑やかな人だから女神と言われても違和感はない。

 けど、このヘンテコの神野さんが女神だと言っても何故か違和感しかない。

 そもそも、自分の事を全知全能女神と言い張る時点でおかしいだろ。

 普通そんな事を自分で言うか? 自意識過剰じゃねえの?

 

『あっ! その目は信じていないわね!?』


 信じろという方が無理でしょ。

 まあ、普通の人ではないのは確かだけど。


『いいわ、ならアタシの力を見せてあげましょう。ん~けど、どうやってアタシの偉大な力を見せてあげようかしら~……』


 メイティー? が目を瞑って腕組みをしながら何やら考え出した。

 今のうちに逃げた方がいいのかな。


『……そうね、貴方には色々説明しないといけないし、ここだと雑音も多いから静かにさせましょうか』


 言っている意味がわからない。

 静かにさせるって、ここ商店街なんだから深夜にならない限り静かには……。


『時よ! 止まりなさい!!』


「うわっ!」


 メイティーが右手を突き上げたと同時に、右手からすごい閃光が!

 これだと、眩しくて目を開けていられない。


『これで良しっと』


 光が収まった。

 これで良しって、別に変化は――。


「え?」


 辺りが妙に静かだ。

 さっきまで人の声や物音で騒がしかったのに。


「……えっ!?」


 老若男女問わず、人が固まっている。

 しかも人だけじゃない、猫もこちらを見たまま固まっているし、空中を飛んでいたツバメもその場所で固まっているじゃないか!


「メイティーさん! 何をしたんだ!?」


『何って、時間を止めたのよ。ちなみに私は10分くらい時間を止められるわよ』


 時間が止まっているのに時間で表現するのはおかしいような気もするが、これについて触れない方がいい気がするのでやめておこう。

 何にせよ、確かに時間は止まっているようだ。

 人はともかく動物、ましてや鳥を空中で止める事なんて不可能、つまりこの自称・女神の力か……すごいな。


「……あれ? 時を止めたのに俺は動けるのはどうしてだ?」


 俺も止まっていないとおかしいよな?


『ああ、それは貴方に加護を与えたからよ』


「加護?」


 加護って、あれだよな。

 不思議な力で様々な能力を得られるって奴!


『そう、このメイティー様の加護よ。その加護がある限り、アタシの意思で貴方が魔法に干渉するかしないかを決められるの。だから今時間停止でも動けるわけ』


「おお! すげぇ!」


 やっぱりそうなのか。

 という事は、他にもすごい力があるのか?

 ラノベの主人公みたいにチート能力が得られるわけか。


「他には? そんな力があるんだ?」


『後はアタシの姿が見える上、声も聞こえる様になるのよ』


「……」


『……』


 あれ、メイティーから次の言葉が出てこないぞ。


「……えーと……他には?」


『ん? 他?』


 何故メイティーが首をかしげているんだ。


「いや、俺にも魔法が使えたり、身体能力が上がったり、運が上がったりは……」


『はあ? そんな事があるわけがないじゃない』


 何だって!

 無いのかよ!


『馬鹿じゃないの? ここは漫画やアニメの世界じゃないのよ、現実を見なさいな』


 いやいや、漫画やアニメの象徴である女神が何を言うか。


「本当に、加護の力ってそれだけなの……?」


『ちょっと! それだけとは何よ! 偉大なるアタシの姿が見えてと声も聴けるのよ? それだけですごい力じゃない!』


 使えねー! この加護は全く使い物にならないじゃないか!

 というか、よくよく考えたらメイティーの意思で魔法に干渉するかどうか決められるってそれ完全に支配下に置かれたって事じゃないか!

 こんなクソな加護なんていらないよ!!

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