5-5、雷岩巨人《キュクロプス》


「ハハハハハ! 満身創痍のお前が戦おうというのか⁉︎ お前ではこのリースレインを動力とした岩巨人ゴーレム——雷岩巨人キュクロプスにすら敵わんのだ!」


 ベレスのそばで控えていた岩巨人ゴーレムの一つ目が光り、ゆっくりと動き始めた。その腕の周囲にバチバチと雷光が走り始める。

 あれが雷の力。リースが目覚めた勇者の力だ。リースは閉じ込められて、人を傷つけるためにその力を利用されている。

 雷岩巨人キュクロプスか。忌々しい名前だ。


「待ってろ、リース。すぐに冷たい石の牢獄から解き放ってやるからな……!」


 罠を張って受け身な戦い方をするオレにしては珍しく、自分から前へ出た。短剣ダガーを逆手に構えると、岩と岩の継ぎ目を狙って刃を振るう。

 リースが見出してくれた岩巨人ゴーレムの突破法。そいつを使わせてもらう。


「ダメっス、シグルイくん! そいつに近づくと……!」


 ユイファンの警告の声が聞こえた。直後に雷岩巨人キュクロプスが纏う雷光が膨れ上がり、一気に広がる。


「っ……! 職能アーツ〈翠風旋回〉!」


 オレは風で足場を作り出し、無理やり後方へ跳ぶ。左足が雷の範囲に入って焼けるような痛みが走ったが、なんとか直撃は避けることができた。

 ユイファンの声がなければ危なかった。近づくと四方八方に雷撃をばら撒いてくるのか。だが、距離を取って攻めようにも、あの頑丈な体が相手では飛び道具や術は効きづらい。

 雷の力とはこれほどまでに強力なのか……!


 雷岩巨人キュクロプスが地面を揺らして前へ進んでくる。動きは鈍重だ。距離を取っていれば、少なくとも攻撃を受けることはない。


「しぐるい、上……!」


 今度はフィオの声がした。その通りに上を見ると、小さな光の玉がオレの頭上に浮かんでいた。嫌な予感がして横に跳ぶと、光の玉から雷が生まれオレが立っていた場所に落ちた。


 小規模の雷が地面をえぐり、煙が上がる。

 リースの勇極戦技ブレイブアーツ〈天破雷斬〉ほどの威力はないが、連続で撃たれるとなかなかきつい。


 だが、ユイファンとフィオが教えてくれた情報で、なんとかオレは戦えている。2人が立ち向かったことは、決して無意味じゃなかったんだ。

 相手の手札は見えた。あとは、崩すだけだ。


「なぁ、リース。お前は自分の自由が奪われるのが嫌で、家を飛び出してきたんだろ?」


 雷を避けるごとに、体が軋んで激痛が走る。もともとぶっ壊れかけていた体を動かしてるんだ。限界はとっくの昔に超えている。


「もっと広い世界へ飛んでいけ。お前のいるべき場所は、そこじゃない……!」


 オレは〈銀糸鋼線〉で糸を生み出すと、短剣ダガーの柄に巻きつける。糸を振り回すと、短剣ダガー雷岩巨人キュクロプスに向かって投げた。

 狙いは当然、弱点である岩と岩の継ぎ目だ。微妙なズレは〈銀糸鋼線〉を操作して調整する。短剣ダガーの刃が、雷岩巨人キュクロプスの腹部へ刺さった。


「そんな脆弱な刃が刺さろうと、雷岩巨人キュクロプスは微塵も揺らがん」


 静観していたベレスが鼻で笑った。


「ああ、そうさ。だから——覚悟決めんのはこっからだ!」


 オレは地面を駆け出して行く。地面から伝わる反動で体が悲鳴をあげたが、なんとか耐えた。

 雷岩巨人キュクロプスに近づくと、やつは反射行動で周囲に雷撃を放った。今度は避けない。むしろ加速して、正面から飛び込んで行く。

 身体中に雷撃が走る。一瞬意識が飛びかけたが、歯を食いしばって持ちこたえた。


「あと、ちょっと……!」


 オレは、雷岩巨人キュクロプスに刺さった短剣ダガーへ手を伸ばす。


 もう少しだ。もう少しで、お前に手が届くんだ……リース!

 雷撃を食い続けた体が裂けて血が噴き出す。だけど構うものか。ここで引いたら二度とリースは解放されない。


 待ってろ、リース


 今から助ける


 オレが


 この手で……!


職能アーツ〈蒼狼天爪〉!」


 短剣ダガーの柄を掴んだオレは、瞬間に蒼の職能アーツを発動させた。内部に刺さった刃から巨狼の爪が生まれ、内側から雷岩巨人キュクロプスを破壊する。


 こうすることでしか、届かなかった。だってオレは、そんなに強くないから。

 足掻いて

 もがいて

 体を張って

 それでようやく掴むことができるんだ。


「リース……!」


 石の牢獄から解放された勇者の少女が、雷岩巨人キュクロプスの残骸と一緒に降ってくる。オレは短剣ダガーを鞘に戻し、両手でその小さな体を受け止めた。

 腕の中の少女は、意識こそなかったがちゃんと呼吸をしていた。穏やかに眠っているかのようだった。


「リース、リース……!」


 オレは目から涙をこぼしながら、リースの体を抱きしめた。

 この愛おしい命は、もう二度と奪わせまい。そう心に誓うのだった。

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