4-6、パレードが来る
その目は、真剣そのものだった。
自分の心の底を伝えたいと、そう思っている顔だった。
そうか、こいつはそんなことを考えていたのか。だったら、ちゃんと答えないといけないな。
「……悪かったよ。確かに、オレは別の人の影を見ていた。もっとお前に向き合わなきゃいけないなって、オレも思っていたところだ」
オレは中腰になって、真っ直ぐにリースと視線を合わせた。
「だからさ、オレもしっかりお前のことを“勇者”だって見るようにするよ」
「え……勇者……?」
リースはなぜか拍子抜けしたように固まった。
「あぁ、なんていうかさ……オレは、昔の
オレがリースの面倒を見ようと思った一番の理由は、もしかしたらそこなのかもしれない。こいつなら、あいつ——オルテシアみたいな勇者になるかもしれないって期待。
オレの前から消えてしまった大切な人の面影を、オレはこいつに投影してしまっていた。現実から目を背けるように。
「だけど、そいつはお前に対して失礼なことだって、ようやく気付いたよ。だから、もっとリースのことを見る。家を飛び出してきた、小さな勇者のリースのことを」
オレはいいことを言ったはずなのに、リースは釈然としない顔のままだ。
あれ?? なんか変なことでも口走ってしまったのか?
当のリースは「もっと女の子っぽい贈り物の方が良かったのかな……」などと呟いている。しかし最後には顔を上げ、ちょっと無理した笑顔を浮かべた。
「で、でも、勇者としてのボクを見てくれるのは嬉しいです! シグさん、これからもよろしくね!」
若干、噛み合わなかった気がするが、うまくまとまったのでよしとしよう。
さて、宿に戻るとするかな。ユイファンとフィオも心配していることだろうし。
歩き出そうとした時、ゴーン、ゴーンと街の鐘が響き始めた。
「あ、お昼を知らせる鐘だね。確か、この後に岩の勇者ベレス様が
そういや、そんなことを聞いたな。だが、ベレスのパレードなんて見ていても何も面白くもないだろう。この街の住人や、リースみたいな勇者好きからしたら違うんだろうが。
考えている間も、鐘は鳴り響き続けている。リースが怪訝そうな表情を浮かべた。
「あれ、お昼の鐘ってこんなにたくさん鳴ったかな……
不安を掻き立てるように、鐘は鳴り続ける。
必死に、何かを伝えようとしているかのように。
オレはようやく察した。これは時を告げる鐘じゃない——異変を知らせる警鐘だ!
「リース、街の中で何かがあったんだ! 様子を見てみよう!」
「は、はい!」
裏通りから広い道に出ると、通行人は皆空を見上げて何かを指差していた。
そちらの方を見ると、黒雲を引き連れて鳥の群れのような塊が空を飛来してこの街に迫ってきている。
鳥にしては、やけに大きい。あれは、魔物だ! 鳥の魔物の大群がこの街に押し寄せてきているんだ!
徐々に混乱が広がっていく。恐怖に駆られた者たちから、魔物の一群とは逆の方向へ逃げ出していく。
その時、地面が大きく揺れた。オレはとっさにリースの手を掴む。
地響きと共に、割れた地面から複数の岩が繋がってできたような巨人が這い出てきた。岩の巨人は誕生を喜ぶかのように、両手を空へと掲げる。
空から、地中から、破壊を撒き散らす怪物が押し寄せてくる。
なんだ、なんなんだ!
一体何が起きてるってんだ!
オレの疑問に答えるかのように、どこからか声が聞こえたような気がした。
「さぁ、戦争を始めよう。この時より、この地から! 進軍せよ、進軍せよ! あの日の地獄を、あの日の怨念を現世に招来するのだ! 逃げ惑え、愚者どもよ。これが私の
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