4-7、無職なオレと仲間たち


      *  *  *


 なぜだ?

 なぜだ?

 なぜだ?

 なぜこんなことになった⁉︎


 疑問符が頭を覆い尽くす中、オレとリースは逃げ惑う人々の流れに沿って、街外れに向かって走っていく。

 ひとまずは、宿にいるユイファンとフィオと合流するのが先決だ。あいつらもオレたちのことを待っているだろう。


「シグさん……こんなことって、あるの? 突然、魔物が空から襲ってきたり、地面からも襲ってきたりなんて……!」


 オレの隣を走りながら、リースが青ざめた表情で呟いた。


「普通にはあるはずがない……! 誰かが裏で糸を引いているんだ。恐らくは、山羊の悪魔バフォメットの男に魔術を教えて、針鎧巨人グレンデルを操ってドアテラさんを狙ったやつがな!」


 この街とその周辺に散らばっていた混沌ケイオスの破片が、固まり集まり形になった。それがこの襲撃だ。

 今のところ、空から飛来してきた魔物はほとんどが偽竜ドレイクだ。姿形はドラゴンに似てはいるが、小型で火は吹かない。力もそこまで強くないことから、危険度は3級下位とそこまで高くない位置に指定されている。


 だが、大群で襲いかかればそれだけ脅威も大きくなる。少なくとも、50匹はいるだろう。

 もう一つの脅威は、地面から生まれた岩巨人ゴーレムたちだ。こいつらは数こそ多くないが、一体一体が硬く手強い相手だ。しかも、普通の岩巨人ゴーレムとは違う何かを感じる。


「リース! 今は戦うことを考えるな。とにかくユイファンたちとの合流を急ぐぞ!」


「……はい!」


 リースは、逃げる人たちの助けになるため踏みとどまって戦いたいようだった。だが、そんなことを許すほどオレは甘くはない。

 敵が大群ならば、こっちも群れて戦わなければ始まらないのだ。


「いた! 2人が帰ってきたっス!」


 宿の前で待っていたユイファンが、オレたちの姿を見つけて叫んだ。その後ろには、杖を持ったフィオがいる。

 リースはユイファン、フィオと合流すると、3人で無事を喜び合った。


「さて、これからどうするよ。幸いここは魔物どもに狙われてる中心部からは外れた場所だ。逃げるなら今のうちだが」


 ここにいるのは青銅級ブロンズが1人と銅級カッパーが2人の初心者一行パーティだ。そして、今みたいな混乱した状況では経験がモノを言う。正直、こいつらでは荷が重い。

 一番初めに口を開いたのは、意外にもユイファンだった。


「……この街は、自分が一番長く生きた大切な街っス。できることなら、この街を守るために何かをしたい。自分は、そう考えてるっス」


 幼い頃に故郷を追われ、この街の道場に拾われたユイファンにとっては、カーマヤオが本当の故郷のようなものなのか。


「ボクも、この街にはお世話になった。だけど、そうじゃなくても、見過ごすわけにはいかないよ。もしも誰かがこの騒動を引き起こしているなら、それを許しちゃいけない。ボクは……そう思う」


 リースがぎゅっと自分の手を握りながら言った。

 正義感の強いリースらしい言葉だ。多分こいつは1人でも突っ走って、戦いを始めちまう奴だからな。


「フィオは、よくわからない。街のこともあまり知らない」


 杖を両手で握るフィオが、表情を変えないまま口を開いた。


「だけど、フィオはリースたちの仲間。リースとユイが街のために戦うなら、フィオは2人のために戦う。一緒に」


 表情は変わらないが、声に力強さが感じられる。こいつなりに考えた結果なのだろう。自分の思いを口に出すことができたなら、こいつにとっては大きな成長だ。

 最後に3人娘の視線がオレに集まった。ええ……オレも何か言わなきゃいけないのか?

 オレは咳払いをすると、3人に向かって言う。


「……正直、オレはお前たちに逃げてほしいと思ってる。まだまだ成長途中で経験も足りてないのに、魔物の軍勢に自分から飛び込んでいくのは無茶な行為だ」


 どれだけ強い正義感を持っていても、力が伴っていなければ意味はない。そしてこいつらはまだ、力を蓄えている時期なのだ。


「だけど、よく考えた上での決断だってなら、オレはお前たちの選択を尊重する。そして頼りないかもしれないが、オレがお前たちを死なせはしない。一応その……仲間だからな」


 改めて口に出すと、照れ臭い。

 あんまり恥ずかしいから顔を逸らしてしまう。まさか、自分からこいつらのことを仲間だなんて呼ぶ日が来るとは思わなかった。


 オレの仲間は3年前に別れてしまった“あいつら”だけだって、思い込んでいた。新しい仲間ができるなんて、そんなこと考えたこともなかったんだ。

 違和感はどうしても拭い切れない。だけど、オレはここにいていいんだって、居場所を見つけることができた気がする。


「……って、なんでお前らニヤニヤしてるんだよ!」


 リースたちが面白そうな笑みを浮かべてオレを見てきたので、恥ずかしさの余り声を荒げる。


「いやー、シグさんがボクたちのことを仲間って呼んでくれたから感激しちゃって」


「いつも一歩引いた距離にいたっスからね。なんかこう、心を開いてくれて嬉しいっス」


「フィオ、本で読んだから知ってる。これは、“でれ”」


 わぁあああああ! 恥ずかしいからやめろって!

 と言うかフィオ、お前は何を読んでいるんだ!


「とにかく! 無理と無茶はするなよ! 討伐よりも、街の人が逃げるまでの時間を稼ぐ意識だ。複数を相手にするな、一行パーティで一匹ずつ戦っていくからな!」


 オレは3人の生温かい視線から逃げるように背を向ける。リースたちは元気よく声を揃えて返事をしてきた。


 まったく……オレも変な奴らに懐かれちまったもんだ。

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