3-9、手負いの獣
棍棒代わりの樹木を振り回し、巨体が突進を始めた。だが、こっちも奴の行動くらい想定済みだ。
「爆ぜろ、〈紅爆結晶〉!」
「土霊術〈荊ノ鞭〉」
地面から生えた4本のいばらが、
体勢を崩し、さらに拘束された
「顕現せよ、火霊術〈炎ノ絶槍〉」
細く鋭く収束した炎が渦を巻き、巨体の一点に突き刺さる。やはり炎の術は有効だ。あれだけの強靭さを誇った
『ガ、グ、アァアアアアア!!!!』
怒髪天に突く、とでも言うように
怪物は体に巻きつくいばらを無理やり引きちぎり、手に持った樹木をフィオに向かって投げようと後方へ右手を振りかぶる。
その刹那、一陣の風が走った。
「交差一閃〈隼の辻〉!」
身軽なリースが
攻撃は止まらない。木を駆け上がって怪物の真上を取ったユイファンが、落下の力を乗せて拳を振り下ろす。
「空撃〈豪墜牙〉!」
獲物に食らいついた狼が牙を閉じるように、上から下へ叩きつけた打撃は右肩を深く抉った。
鎧が剥がれた場所に二連撃を受けて、
「よっしゃ! 武器落としたっス!」
「やったね、ユイちゃん!」
リースとユイファンが視線を合わせて頷き合う。まだ
「若いっていいねえ」
思わず、そんな年寄りくさいことを呟いてしまう。
隙が生まれた
よし、このままなら押し切れる。そう考えが頭によぎった時、
『ガ、グ、ガァアアアア……!』
動きを邪魔され続けてきたことに苛立ちを覚えたのか、巨人は全身を小刻みに震わせている。逆立つ棘もそれに合わせて振動を始めていた。
いや、これは苛立ちではない——攻撃の予兆だ!
「全員伏せるか木の裏側に隠れろ! デカイのがくるぞ!」
オレの声にすぐさま反応したのは、リースとユイファンだ。2人は身を縮めて地面に伏せ、防御姿勢を取る。
だが、ドアテラとフィオは戸惑っているようだった。冒険者と、そうではないやつの差が出たか。ドアテラは頑丈そうな樹木の体だ。多少の攻撃ならば耐えられるだろう。だったらやるべきことは……!
「フィオ、伏せろ!」
オレはフィオを抱えると、押し倒すようにして地面に伏せさせる。
直後、爆発音のごとき轟音が響く。
それはまるで矢の一斉掃射のようだった。飛び出した針は木々や地面に深々と刺さっていく。
当然、針はむき出しのオレの体にも突き刺さっていく。背中に鋭い痛みが走る。1本、2本……3本……体に針が突き刺さるごとに声が漏れそうになったが、なんとか耐えた。
針の一斉掃射がやんだ。オレは抱えていたフィオからそっと手を離して、立ち上がる。
「しぐるい……?」
フィオの目が大きく見開かれる。
背中に2本、わき腹に1本の針が突き刺さったオレの体から血が流れ出し、足元に赤黒い血だまりをつくっていた。
ろくなもんを食べてないオレに、よくこんだけの血が詰まってたもんだなと他人事のように思った。
「……んな目で見るなよ。言ったろ、頼りないがオレもいるって。オレはオレの仕事をしたまでだ」
なんだか、自分でも違和感のある言葉を使ってしまった気がする。仕事なんて、もうしてないのにな。
あぁ、ちくしょう。それにしても痛え。体を蝕む激痛が、かつての感覚を思い出させる。毎日毎日死にかけの傷を負いながら戦っていた時代の自分の感覚を。
オレが冒険者だった頃の感覚を——
『ガルグルアァアアアアアア!!!!』
すっかり身体中の棘を撃ち切ってしまった
奴も苦手な火霊術を立て続けに食らって満身創痍だ。さらに鎧代わりとなっていた棘も攻撃に使ってしまい、ほぼ丸裸も同然となっている。
オレも
「ったく、人の体にブスブス穴を開けやがって……! きっちり落とし前はつけさせてもらうからなぁ!」
オレは逆手で
オレが
それが——
「
振るった
それがとどめの一撃となった。
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