3-3、フィオロの森の怪異
* * *
「はぁ……まぁためんどくさい
オレはため息をつきながら、トボトボ歩を進めていく。
突然話しかけてきた青年の話を要約すると、いつも商品の仕入れで通っていた森の中の道が“ある理由”で通行することができなくなっているという。
このままでは掻き入れどきである
んで、問題はその“ある理由”というのが……
「ねぇ、嘘だよね……見間違いだよね……暗い森の中で火の玉がフヨフヨ浮いて、『タチサレ、タチサレ』なんて声が響くなんて……!」
カーマヤオ北門から続く街道を歩きながら、リースが青い顔をしながら呟いた。
そう、森の中の道が通れなくなっているのは、怪奇現象が相次いで報告されたからだ。曰く、木々の間を人魂が飛んだり、不気味な声が響いたりといったことが起きているらしい。
青年は『フィオロの森の怪異』という名前で
「まぁ、どうせ人魂は
オレは頭の後ろで手を組み、再度ため息をつきながら言った。
この手の怪異話は、噂話に尾ひれがついたようなものばかり。蓋を開けたらなんてことはない現象だったなんてよくある話だ。
「まぁまぁ、報酬も上積みしてくれましたし、簡単に解決できるならそれでいいんじゃないっスかね」
ユイファンが軽い口調で話に混ざってきた。
「お前はこういう怪談系は大丈夫なのか? ユイファン」
「人狼が幽霊を恐れてたら世話ないっスよ」
それもそうか。こいつはそもそも怪談に登場する側だった。
「リースはビビってるみたいだな」
オレが声をかけると、リースがビクッと身を震わせた。
「小さな頃にお城の中に潜む幽霊の話を本で読んでから、恐い話は苦手なんです……『ヴァレルト城奇譚』という題名なんですけど、城の住民が次々と恐ろしい惨劇で死んでいって、最後に城にまつわる血に濡れた歴史が明かされるんです。その作者の本は全部読んで、読むたびに恐くなって後悔するんですけど、つい読んでしまって……ああ、恐ろしい!」
「なんだ、好きなんじゃねえか」
自分の体を抱きしめブルブル震えるリースを見て、意外な一面を発見したような気がした。
「うーん……好きってわけじゃないけどさ……何かこう、つい読んじゃうんだよね、恐い話って。シグさんはないの? この
「オレは本を読まないからな。あぁ、だけど芝居とか戯曲とかを聞いて、なぜか毎回グッと心にくる話はあるな」
人にはどうも感動のツボのようなものがあり、それは人それぞれ異なっている。オレもある
「へー、シグさんもあるんだ。どんなお話?」
「恥ずかしいから教えない」
「けちー!」
リースに軽く背中を叩かれた。
しばらく歩いて行くと、山が近くに見えるようになった。前回の
依頼のあったフィオロの森は、山間に広がっていた。
森は魔物と
「さぁ、着いたっスね」
ユイファンが森の入り口を示す高い木々を見上げて呟いた。
鬱蒼と木々が生い茂るフィオロの森の中は暗く、怪物が口を開けているような印象を受ける。
「さぁ、行きましょう!」
威勢のいい声を出すリースだが、オレの後ろに隠れて背中にピタリと張り付いている。歩きにくくてしょうがない。
だが、恐れていてもしょうがないのだ。こいつらが冒険者を名乗って、この先に
オレたちは森の中へ足を踏み入れるのだった。
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