1-14、夕焼けの帰り道


 林を抜けて街道に出ると、太陽が山の向こうに沈もうとしているのが目に映った。

 すっかり夕暮れの時間だ。空は茜色に染まっている。どこからか、鳥の声が聞こえてきた。


 オレンジ色の光が投げかけられた街道を、オレとリースは並んで歩いていく。心なしか、リースが歩いている距離が行きの時よりも近くなっている。


「シグルイさん」


「なんだよ」


 呼ばれたので声の方を向くと、リースは真っ直ぐにオレの顔を見てきた。


「シグルイさんが言ってくれた、勇者になるとは力を授けられることじゃない、試練を与えられることだって言葉……ボクはあの言葉を聞いたから、シグルイさんに冒険者のことを教わりたいって思ったんです」


 リースの言葉にオレは首を捻る。

 まるで、以前にオレの口から聞いたみたいな言い方だ。オレが話したのはついさっきのことだってのに。


「覚えてませんか? 雨が降る日、あの人たちがボクが勇者であることを笑った時に、シグルイさんが言ってくれたんです」


 説明を聞いて、オレはようやく思い出した。

 山羊の悪魔バフォメットの男とその仲間たちがリースに因縁をつけてきた時、オレは奴らに向かって確かに何かを言った。それがさっきの言葉だったのか。

 酔っていてあんまり覚えていなかったが、そうか……オレはそんなことを言っていたのか。


 かつての仲間から飽きるほど聞いたその言葉を、オレは無意識のうちに自分の言葉として使っていたみたいだ。

 なにもかも無くしたはずなのに——武器も、戦職クラスも、仲間も——それでも何かがこの体には残っていたのか。呪いみたいに染み付いたオレの職能アーツのように。


「シグルイさん」


「今度はなんだ?」


 再び名前を呼ばれて視線を戻すと、リースが恥ずかしそうに俯いていた。夕暮れの光を受けているからか、頬がほんのり紅潮している。


「また、ボクと一緒に冒険に行ってくれますか……?」


 そう尋ねられ、オレは返答に困った。

 正直、面倒くさいというのが本音だ。こんなことはできれば今回だけにしてほしい。

 だが、この才能溢れる少女の成長を見てみたいという気持ちもないわけではない。放っておくとどうなってしまうかわからない危うさもあることだしな。


「……まぁ、この街にいる間だったら考えといてやるよ」


「やったぁ!」


 曖昧に答えたはずだったが、リースは飛び上がって喜んだ。その勢いで、オレの腕に抱きついてくる。


「こら、やめろ。久しぶりに動いたせいで体がボロボロなんだ」


「えへへー」


 腕を振るが、リースはオレの腕を離さない。なんだか嬉しそうな様子だったので、仕方ないからそのままにした。非常に歩きづらい。


 道の向こうに、城壁に囲まれたカーマヤオの街が見えてきた。斜光を受けて、街からは長い、長い影が伸びていた。

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