1-10、銀の糸
『貴様、コレハ……“糸”ダナ! 糸デ俺ヲ木ニ縛リ付ケテイルナ!』
「ご明察。視認しにくく、かつ丈夫。束ねりゃ空飛ぶ竜すら絡み取れる。それがオレの
オレは右手を前に出すと、それぞれの指先から一本ずつ糸を生み出して見せる。
木々の隙間から差し込む光を反射し、糸が銀色に輝いた。
『
奴の言うことも最もである。しかし、物事には例外があるもんだ。
「転職って知ってるか? 今の
なので、複数の
「オレも前は冒険者をやってたんだ。その時に身につけた
現に今使った〈銀糸鋼線〉の結界も、張り巡らせるのに随分時間がかかっちまった。リースが踏ん張ってくれなきゃ間に合わなかったかもしれない。
『コレシキノ糸ナド引キチギッテヤル! コノ、コノ……!』
「あ、兄貴……今、助けます!」
遠巻きに見ていたごろつき2人が地面に落ちていた剣を拾い、恐る恐る
『オオ、ソウカ……! オ前タチ、助ケテクレルノカ……』
嫌な予感がする。
『ナラバ、俺ノ糧トナレ!』
唯一自由に動く口が開き、そこから長い舌が飛び出した。舌はごろつき2人に絡みつき、宙に持ち上げる。
舌に巻きつかれたごろつき2人が、みるみるうちにシワだらけになり老化していく。まるで命を搾り取られているみたいだ。
「あ、兄貴……どう、して……」
それが最期の言葉だった。
老人のようになったごろつき2人は砂になって崩れていく。その手から剣が離れ、虚しく地面に突き刺さった。
「うそ……仲間を食べたの…?」
リースが信じられないものを見るような目で、風に巻かれて消えていくごろつきたちの残骸を眺めていた。
魔術の本質は対価だ。何かを捧げることで、力を生み出す。こいつは仲間2人を生贄にして、自分の力に変えやがったんだ。
体だけじゃない、こいつは心まで悪魔に堕ちてしまった。
『ククク……! 俺ハ本当ニ良イ仲間ヲ持ッタ。力ダ! 力ガ溢レテクルゾォ!』
悪魔の体が肥大し、オレが張り巡らせた〈銀糸鋼線〉が音を立てて切れていく。
あー、これはやっべえなあ。こうもあっさり自慢の糸を千切られると自信をなくしてしまう。オレが衰えているだけかもしれんが。
「リース、下がってろ。こっからはオレが戦う」
「で、では、ボクの剣を使ってください! 丸腰では戦えません!」
リースが剣を両手に乗せて、横向きに差し出してくる。オレはそいつを手で制して断った。
「大事な剣なんだろ? 無くさねえようにしっかり持っときな。オレは落ちてるやつを再利用するから大丈夫だ」
持ち主を失ったボロボロの剣が、地面に突き刺さっている。
兄貴分に裏切られ、命を落とした馬鹿野郎どもの武器だ。
別にごろつきどもがどうなろうと知ったこっちゃない。間違えた道を歩んだ結果の、ただの自業自得だ。
だが、仲間を平然と生贄にしやがったクソ野郎が高笑いしているのを見ると虫酸が走る。
カスみたいなオレだって知ってるんだぜ? ゴミはゴミ箱へってな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます