1-3、辺境の街カーマヤオ


      *  *  *



 この街カーマヤオは山々に囲まれた豊かな自然の土地に広がっている。


 一帯は降雨量が少なく、晴れの日が多いことから農作物の栽培が盛んだ。特に果物は味が濃縮された一級品が出来上がるという。

 オレがこの街を無職生活ワンダフルライフの拠点に選んだのも、気候が温暖なので野宿をしても死にはしないだろうという目算と、果実がうまいということはいい酒ができるだろうという期待があってのことである。


 中央通りメインストリートには、軽食や果物、装飾品を並べる露店が並んでいる。その道の真ん中を、リースは鼻歌交じりに上機嫌に歩いていた。オレはその後ろを体を小さくしてついて行く。

 周囲の目線が気になって仕方がない。一体オレはどんな風に見られているんだろうか。


「そういえば、シグルイさんはどんな武器を使うんですか?」


 リースがくるっと振り返ってオレに尋ねてきた。


「あー、武器か。昔は短剣ダガーとか、戦棍メイスとか、色々使っていたが、今は何も持っていない。正真正銘の丸腰だから、戦闘はあんま期待するなよ」


 現役時代の装備はとっくの昔に売り払って酒代に消えちまった。戦闘になってもこのままでは囮くらいしか役割がない。


「じゃあ戦職クラスは近接戦闘系だったんですか? ちなみにボクの戦職クラス軽装剣士フェンサーです!」


 リースが胸を張って、聞いてもないことを教えてきた。


 戦職クラスは秩序の女神イサナから冒険者に贈られる役割だ。剣を扱う者には剣士の、術を扱う者には術士の戦職クラスが与えられる。登録のためにはイサナ教の教会に相応の金を払わなきゃならないけどな!

 戦職クラスを得た者には“加護”が与えられるため、多少の出費があっても冒険者ならば必ず登録している。


 軽装剣士フェンサーは、装備を軽くして身動きを取りやすくした剣士の戦職クラスだ。素早さと手数で押していくのが強みで、身軽そうなリースのイメージには合う。

 確かにオレもあるクソみたいな戦職クラスに就いて冒険者として戦っていたことはあった。だが、それも今は昔。職がなければ戦職クラスもない、正真正銘ただの無職だ。


「オレの現役時代の戦職クラスは……秘密だ。どうせ教えたってわからないさ。知名度が低いやつだしな」


「えー、逆に気になるよ!」


 リースの「教えて教えて!」連呼をあしらいながら歩き続けていくと、円形広場に出た。広場に面した通り沿いに建つ、一際立派な建物が目に入る。

 さて、ここに来るのもいつぶりだろうか……オレは懐古心と嫌悪感を抱えながら、その建物を見上げた。


 冒険者組合ギルドである。

 魔物退治などの依頼クエストを民間や国から受け付け、冒険者に斡旋する組織。冒険者に加護を与えるイサナ教とはズブズブの関係……もとい、一心同体であり組合ギルドと教会の建物は隣接していることが多い。


 緊張しながら木製の扉を開けると、懐かしい匂いが漂ってきた。

 汗と熱気と、そして金属の匂い。


 冒険者組合ギルドカーマヤオ支部には5、6組の一行パーティが滞在していた。それぞれ掲示板に張り出された依頼クエストを眺めたり、テーブルに座って談笑をしている。


 ここの組合ギルドに入るのは初めてだが、どこも雰囲気は変わらない。ふと、昔の自分の姿がそこにあるような錯覚を覚えた。

 まだ希望が先にあると、無邪気に信じられていた頃の姿だ。


「……くっだらねえ」


 オレは首を横に振って、雑念を頭から追い出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る