<想い-永遠乃->
「なぁ、ほんとにあつしはこんなところ通ったのか?」
永遠乃に連れられて山に入ったしょうたは、隣を歩く永遠乃の手を握りしめる。
日の傾き始めた山の中は、思っていた以上に薄暗い。
「あいつ、臆病もんだから、こんな暗いとこなんて絶対入らないぞ。」
「へぇ・・・・よく知ってるんだね、あつしの事。」
「べっ、べつに・・・・」
怒ったようにそっぽを向くしょうたに、永遠乃は小さく笑いを漏らす。
「でも、あつしはここを通ったんだよ。一人ではないけど。」
「えっ?」
「大丈夫だよ、優しい人と一緒だから。」
長い睫毛を伏せて、永遠乃は言った。
「僕の大切な人と、一緒だから。」
「大切な人?」
「うん。」
「永遠乃は、その人に会いたいのか?」
「・・・・うん、そうだね。」
俯いた永遠乃の顔は、髪に隠されてしょうたには見えない。
「ずっと、会いたかった。」
何故だか胸が痛くなり、しょうたは泣きたいような気持になった。
(なんだろう、これ・・・・)
困惑して永遠乃を見ると、揺れた髪の隙間から、永遠乃の頬が濡れているのが見えた。
「・・・・永遠乃?」
「あぁ、ごめんね。」
素早く袖口で涙を拭い、永遠乃は笑う。
「僕、泣き虫だからさ。」
「ふぅん・・・・あつしみたいだな。」
「あつしは、泣き虫なの?」
「うん。あいつ、木登りしたらすぐ落ちて泣くし。鬼ごっこしたらすぐ転んで泣くし。泣くな!って言ったら、また泣くし。めんどくせぇって思って置いて行ったら・・・・」
しょうたは言葉を切って俯き、小さな声でつぶやく。
「いなくなりやがった。」
「それで、心配して探してたんだ?」
「しっ、心配なんかっ・・・・」
「してるよ。」
立ち止まり、永遠乃は腰を屈めてしょうたと目線を合わせた。
「すごく、心配してるよね。だって、あつしを探して何回も同じ道を走り回って。あつしのために、あんなに重たい石、一生懸命どかしたくらいだし。今だって、全然知らない僕なんかと一緒に、こんな薄暗い山の中まで入って、あつしを迎えに行こうとしてる。」
「そ、それは・・・・」
「しょうた、僕はね。」
永遠乃はしょうたの瞳を覗き込み、言った。
「大切な人の手を、自分から離してしまったんだ。離さなければいけないって思ったから。でも、それはもしかしたら、正しいことではなかったのかもしれない。僕はただ、大切な人を守りたかっただけなのに、傷つけてしまったから。だからしょうたは、大切な人の手は、絶対に離しちゃダメだ。僕みたいになっちゃ、ダメだよ。」
永遠乃の発する圧に押されるように、しょうたは無言で頷く。
安心したように笑い、永遠乃は再びしょうたの手を取って歩き始めた。
「僕の言ったこと、忘れないで。今はまだ分からないかもしれないけれど、時が来れば必ず分かるから。」
「・・・・うん。」
「でも、あつしって、随分どんくさい子なんだね。」
「うん。」
「僕の大切な人に、似ているかも。その人も、お坊様なんだけど、全然お祓い姿が様になってなくてねぇ。」
「お坊さん?」
「うん。すぐそばに不浄のものがいても、全然気づかないくらい、どんくさいお坊様。」
「なんだそれ。」
可笑しそうに笑う永遠乃につられ、しょうたも笑う。
「どんくさいくせに、僕の邪魔ばかりして。最初は恨んでたはずだったんだけど。」
笑顔を浮かべたまま視線を遠くへ向けて、永遠乃は呟いた。
「いつの間にか、大切な人になっていたんだ。」
しばらく歩くと、急に視界が開け、小さな寺が姿を見せた。
(こんなとこに、寺・・・・?)
不思議に思うしょうたに、永遠乃が言った。
「あつしは、あそこにいるよ。」
「えっ?」
見れば、本堂の縁側に腰かけ、若い僧侶と話しているあつしの姿がある。
「義連・・・・」
小さく呟くと、永遠乃はしょうたの手を離して、言った。
「行こう。」
永遠乃が走り出す。
しょうたも負けじと走りながら、名前を叫んだ。
「あつしーっ!!」
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