<出会い-永遠乃と少年しょうた->
「・・・・それで、そのお坊さん、どうなっちゃったの?」
おそるおそる尋ねるあつしに、僧侶は言った。
「ほれ、そこの仏像の前。ちょうどさっき坊やが座っていたあたりじゃな。わしが寺へ帰ってきてみたら、あそこで座したまま既に絶えておった。己を許すことができなかったのじゃろうなぁ・・・・」
ふいに冷たい風があつしの首筋をなで上げ、思わず首をすくめる。そしてあつしは気づいた。
「えっ・・・・じ、じゃあ、さっき僕をここまで連れてきてくれたお坊さんって・・・・」
「ふぉっふぉっふぉ。」
怯えるあつしに、僧侶は口元に皺を寄せて笑う。
「少々怖がらせてしまったかのう・・・・おや、もう飲んでしまったか。どれ、代わりを持ってきてやろうかの。」
僧侶は、既に空になったあつしのグラスを手に、本堂の奥へと消えた。
一人になったあつしのまわりの空気が、一瞬ざわめいた。
(いやだなぁ・・・・もう、帰ろうかなぁ・・・・)
いつしか空は、どんよりと曇り始めていた。
(ったく・・・・どこ行きやがったんだ、あいつっ!)
苛つきながら、しょうたはもう何度も通った道を繰り返し捜し歩く。
既にもう夕方近く。いつもなら、家に帰る頃だ。
雲行きもあやしくなってきている。
置いていってしまったものの、気になって戻ったその場所に、あつしの姿は無かった。
家に戻ったのかと訪ねてみても、まだ家には戻っていないという。
(ちくしょー、あつしの奴っ!絶対一緒になんか遊んでやらねぇっ!)
心の中で罵りながら、それでもしょうたはあつしの姿を探し続けた。
そして、あつしを置いてけぼりにした沼のほとりに来た時。
(まさかあいつ、ここに落ちたとか・・・・)
「ふふふっ・・・・」
恐る恐る沼を覗き込んだしょうたの耳に、すぐ側から笑い声が聞こえてきた。
見れば、いつの間にかすぐ隣で、大分年上と思われる美しい少年が、しょうたを見て笑っている。
「大丈夫だよ。ここには落ちてないから。」
「なっ、なんだお前っ!」
心の中を読まれたようで怖くなり、しょうたは慌てて少年から距離を取る。
「そんなに心配なんだ?あつしのことが。」
「お前、あつしを知ってるのか?」
少年の口からあつしの名前が出たことに、しょうたは警戒を緩めて少年に近づく。
「まぁ、ね。」
「あいつがどこに行ったか、知ってるのか?」
「うん。知ってるよ。」
そう言うと、からかうような笑みを浮かべ、少年はしょうたに尋ねた。
「教えてあげようか?」
「うんっ!」
勢いよく頷くしょうたに、少年は足元の石を指さす。
「じゃあ、この石、どかしてくれない?」
「・・・・これ?」
その石は、大人でも動かすことが難しそうな大きな石。
「こんなの、無理だよ。」
「へぇ、そんなに簡単に諦めるんだ?あつしの事。」
薄笑いを浮かべて、少年はしょうたを見る。
「悪いけど、この石をどかしてくれないなら、僕はあつしの居場所なんて教えてあげないよ。」
(なんだ、こいつ。)
少年の挑発的な物言いに、しょうたは少年を睨みつける。
「でも、僕が教えてあげないと、きみはもう二度とあつしとは会えないかもしれないね。」
さあ、どうする?
とでも言いたげな表情で、少年はしょうたを見た。
「なんだよ、それ。二度と会えないって、どういう意味だよ。」
「そのままの意味だよ。もう、あつしには一生会えないかもしれない、ってこと。」
(なんだよ、それ・・・・一生会えないって・・・・)
『ねぇ、お願いだよ、一緒に遊んでよ・・・・』
泣き出しそうなあつしの顔が、声とともにしょうたの脳裏に浮かぶ。
(・・・・ちくしょうっ!)
沸き起こった苛立ちに両手を握りしめ、見るからに重たそうな石と少年を交互に睨みつけた後、しょうたは言った。
「わかったよっ、どかせばいいんだろっ、どかせばっ!」
思ったとおり、少し力を入れたくらいでは、石はビクともしない。
(あつしの奴っ・・・・もう絶対遊んでやらねぇからなっ!)
そう心の中で毒づきながらも、しょうたは全身に渾身の力を込める。と、ようやく石が動いた。
「これで、いいか?」
「うん。上出来。」
しょうたが動かした石を少しの間静かに眺め、少年はしょうたに向かって優しく微笑む。
「ありがとう。」
その笑顔は、まだ幼いしょうたでさえ、ドギマギしてしまうほど艶やかだった。
「約束だ、あつしがどこにいるか、教えろ。」
「そうだね。ねぇ、きみ。名前は?」
「しょうた。」
「そう。僕は、永遠乃っていうんだ。じゃ、行こうか、しょうた。」
「えっ?」
差し出された永遠乃の手に、しょうたは戸惑いの表情を浮かべる。
「会いたいんでしょ、あつしに。僕が連れて行ってあげる。」
永遠乃と名乗った少年は、優しい笑顔を浮かべてしょうたの手を取る。
「僕もね、会いたい人がいるんだ。だから、一緒に行こう。」
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