<出会い-義連と少年あつし->
夏。
蝉の声がうるさいくらいに辺りに響き渡る。
真っ青に澄み渡った空には、綿菓子を思わせる様な入道雲が広がり始めていた。
どこにでもある、のどかな田舎の風景。
「待ってよ、僕も連れてって!」
「やーだよー。おめぇはすぐ転んで泣くし。都会っ子は家ん中で遊んでろっ。」
「ねぇ、お願いだよ、一緒に遊んでよ・・・・」
山の麓の沼のほとり。
子供が一人、友達に仲間はずれにされ取り残されていた。
のどかな田舎の景色に似合わぬ、洗練された雰囲気を身に纏った少年。
「なんでだよ・・・・一緒に遊んでよ・・・・」
今にも泣き出しそうな顔で、少年は沼の淵にしゃがみ込む。
と、沼の水面に自分以外の人影があるのを見つけ、顔を上げた。
そこには、丸めた頭と袈裟姿から、僧侶と思われる一人の若い男の姿があった。
男は、沼に向かって手を合わせていた。
「お坊さん、何してるの?」
少年の声に振り向いた僧侶は、優しい-しかしどこか寂しげな-笑みを浮かべていた。
「お祈りをしているんだよ。」
「おいのり?」
「そう。昔ここで亡くなった、哀しい魂が成仏できるように、御仏にお祈りをしているんだ。」
「え・・・・ここで死んだ人がいるの?」
少年は襟元を掻き合わせ、不安そうな表情を浮かべる。その姿に、僧侶は苦笑いを浮かべた。
「これは悪いことをした。怖い思いをさせてしまったね。それより、君はなぜ一人でこのようなところにいるのかな?友達と一緒に遊ばないのかい?」
「僕、一緒に遊んでもらえないの・・・・」
「それはどうして?」
よっこらしょ、と、僧侶は少年の隣に腰を下ろした。
穏やかな、優しい瞳が少年を包み込む。
とたんに、少年の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「わかんないの・・・・わかんないけど、みんな僕と遊んでくれない。僕、ここに引っ越してきたばかりだから早くお友達作りたいのに、一緒に遊びたいのに、遊んでくれないんだ。みんな、僕のこと都会っ子、って言って、遊んでくれないんだ。どうしてなんだろう・・・・僕、何にも悪いことしてないのに・・・・」
しゃくりあげながら、少年はつらい胸の内を吐き出す。
「都会っ子って、悪いことなの?僕、みんなとお友達になれないのかな・・・・」
「君、名前は?」
「あつし。」
「じゃあ、あつし。もう泣くな。あつしが泣くことは無い。あつしは何も悪くはないよ。」
「ほんと?でも、じゃあなんでみんな僕と遊んでくれないの?」
「それは・・・・そうだな、ちょっとしたすれ違い、といったところかな。」
「すれちがい?すれちがいって、何?僕、よくわかんない。」
「そうだなぁ・・・・」
僧侶は腕組みをして天を仰いだ。
「あつしにはまだ難しいかな。気持ちの裏返し、と言ってもわからないか。そうだな、もう少し大きくなればわかるかな。ただ、これだけは言える。あつしと遊んでくれない子、名前はなんていうの?」
「しょうた。」
「そっか。しょうたはきっと、あつしのことが好きなんだよ。」
「えっ・・・・」
僧侶の言葉に、あつしは驚いて目を見開いた。
「そんなこと、そんなことないよ!だって、じゃあなんで、しょうたは僕と一緒に遊んでくれないの?」
「それは、大きくなったらしょうたに聞いてごらん?きっと、ちゃんと答えてくれるよ。」
「なんで、大きくなってからじゃないとだめなの?今じゃダメなの?」
純粋な瞳で見つめる問いに僧侶は思わず苦笑し、あつしの頭にポン、と手を載せると立ち上がった。
「残念ながら、今じゃまだダメそうだ。大きくなればきっと分かるから、それまで待ってみてくれないか?」
「・・・・うん。じゃあ僕、大きくなるまで待つ。僕、早く大きくなりたいな。そうしたら、しょうたは僕と遊んでくれるんだよね?」
「ああ、きっとな。さて、私はそろそろ寺へ戻るが、あつしも一緒に来てみるか?まぁ、面白い事など何も無いが、暇つぶしくらいにはなると思うぞ。」
「お寺?」
座ったまま、不思議そうに見上げるあつしに、僧侶は優しく微笑みかけ、手を差し出した。
「さぁ、一緒に行こう。」
あつしは、誘われるままに、その手を握る。
「うん。」
僧侶に手を引かれ、あつしは山の中へと入って行った。
まもなく、その小さな体は緑の中に完全に飲み込まれて、消えた。
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