第5話 火の国の戦い

 火の国に入ると辺りは闇が行き交い避難所へ逃げる人々を襲っている真っただ中だった。サクラとヤシャは逃げる人々の援護をしながら避難所まで進んでいく。どうにか避難所入り口に来ると、入り口の前で光王や風王にヨウエンの精霊達も協力して闇と戦いながら避難所の人々を誘導していた。そして風王ヴァンと一緒にいたヘンゼルがサクラ達に気付く。


ヘンゼル「サクラ‼︎無事に戻ったんだね、良かった。」


サクラ「ヘンゼル、もうこんなとこまで闇が進行して来てたのね・・・」


ヘンゼル「あぁ、それでも応援に来てくれたヨウエンの精霊たちのおかげで闇の攻撃を防げているよ」


琥珀と瑠璃は知り合いの精霊を見つけ話しかけた。


ルリ「柘榴!!あなた達も手伝いに来てたのね。ヨウエンは大丈夫なの?」


柘榴「うん、ヨウエン全体を光のドームで覆ったから大丈夫だよ。ここの人たちもヨウエンに移動してもらってるんだけど闇の攻撃がすごいから精霊達で護衛してくれって火王スサノに言われたんだ」

 

すると、柘榴は他の精霊に呼ばれ『またね』と言って去って行った。


ヘンゼル「サクラ、もうすぐここの人たちの避難も終わる。君は先に火の塔へ向かうんだ!俺達もすぐに合流するから」

 

サクラはうなずくとヤシャと火の塔へ向かった。

ヘンゼルはサクラの後ろにいたピーター達に気付くと、


ヘンゼル「ピーターきみは正気に戻ったのか?」

 

笑いながら冗談ぽく聞いた。


ピーター「あぁ、色々とすまなかった」

 

恥ずかしそうに返すピーター、すると後ろから


光王ライト「おい、ピーターなのか?」


ピーター「父さん?…」

 

光王ライトはピーターの所までドスドスと重い足取りで寄って行くと『ガツっ』と殴り倒した。


光王ライト「話は聞いた、おまえ自分が何をしたかわかってるのか!」

 

物凄い剣幕にピーターは何も言えず黙っている。


風王ヴァン「まぁまぁライト殿、今は緊急事態ですよ」

 

闇と戦闘中な割には冷静に話す余裕のある風王、


光王ライト「ヴァン、こんな事になっているのはウチのバカ息子のせいでもあるんだ」


風王ヴァン「それでもピーター君にはそうする理由があったのでしょう。今は人々のヨウエンへの避難が先です。この戦いが落ち着いた後ゆっくり親子でやってください」


光王ライト「ああ、そうだったな、今は一刻の猶予もない。ここが終わったら急ぎ火の塔の応援に合流する。ピーター自分のしたことを詫びる気があるならここの闇を払うのを手伝え!」


ピーター「はい!!」

 

そう言ってピーターは剣を取り闇を払いながら人々をヨウエンに避難させた。


 ヨウエンへの避難がほぼ完了したのを見届けると。光王ライト、風王ヴァン、ヘンゼル、ピーター達は部隊を連れて火の塔へ急いだ。


同じ頃、

火の塔の破壊のため火の国に入った闇の女王の軍団について来たグレーテは、


ハイド「グレーテさん、あなたは戦闘には向きません。足手まといになるので来なくて良いですよ」

 

とハイドから戦力外通告されてしまったため、火の国に避難したタオに会うため避難所まで来ていた。


グレーテ「まったく失礼しちゃうわね、ま、戦闘向きじゃないのは本当だから仕方ないけど・・・それにしてもタオはどこかしら?」

 

近くの警備をしていた火の国の兵士に尋ねた。


グレーテ「あのすみません、避難所の人たちはどこに?」


兵士「皆ヨウエンに避難しましたよ。あの山の向こう側です」


グレーテ「ありがとう」

 

そう言ってグレーテはヨウエンに向かった。

 グレーテがヨウエンに到着すると入り口付近で座っているタオが見えた。グレーテの気配を感じ取ったタオはグレーテに気付き近寄って来た。


グレーテ「タオ、良かった。祈りの塔から解放されたのね」

 

嬉しそうに微笑むグレーテはタオに駆け寄って行く


タオ「グレーテ、あなた自分が何をしたかわかってるの?」

 

すごい剣幕で詰め寄るタオを見て後ずさる


グレーテ「だって、あのまま塔に閉じ込められたらあなたが可哀想だと・・・」


「パンっ!!」タオはグレーテの頬を叩いた。


タオ「私をなんだと思ってるの?あなたの所有物じゃないのよ」

 

そして、グレーテを連れて近くのベンチに腰掛けた。


タオ「私は巫女の仕事に誇りを持っていたわ。巫女になるために努力もしてきたのよ・・・。グレーテが私の事を思ってしてくれた気持ちは嬉しいけど、こんなやり方間違ってる。私は守るべき誇りを守れなかったの。今はとても不幸で悲しいわ」

 

するとグレーテの目にはみるみる涙が溜まり次第に大粒の涙が頬を流れた。


グレーテ「知らなかったごめんなさい。私はタオの大切な物を壊してしまったのね…本当にごめんなさい」

 

グレーテは自分の間違いに気付き心から後悔と反省をした。

 

 その頃サクラはヤシャと塔の近くまで来ていたが、闇に道を塞がれて逃げ遅れた人々の避難を手伝っていた。


ヤシャ「ここを通って真っ直ぐ進めは安全にヨウエンまで行けます」


サクラ「皆さん、気を付けて避難してくださいね」


火の国の民A「サクラ姫、ヤシャさん、本当にありがとうございます」

 

そう言って火の国の民たちは頭を下げてヨウエンへの道へ入って行った。すると後ろからヘンゼルたちがやって来た。


ヘンゼル「サクラじゃないか、良かった思ったより早く合流できたみたいだな」


サクラ「ヘンゼル、人々の避難は終わったの?」


ヘンゼル「あぁ、もうほとんど完了した、後は精霊たちに任せてこっちに来たんだ」


サクラ「そうだったのね。とにかく心強いわ。ありがとう」

 

そう言いながら火の塔に向かおうとした時、サクラ達は嫌な予感がして空を見上げた。すると光の国のある北の上空から火の塔に向かって黒い闇の群れが広がっていく。その闇の先頭の中には見覚えのある顔があった。


ヤシャ「あいつは確かハイドとかいう奴だ!」

 

その顔は光の国で会ったハイドだった。しかしそれを先導している一番前にいる女の顔を見た瞬間、その場にいた者達の背中に悪寒が走った。


サクラ「あれは何なの?なんだかすごい威圧感だわ」


光王ライト「まずいな、あれは闇の女王だ!」

 

空を見上げたまま告げる光王に


サクラ「え!!あれが闇の女王なの?」


光王ライト「あぁ、闇の女王はまだ完全ではないはず、まさかもう出て来るとは」


風王ヴァン「とにかく早く火王達に合流しないと火の塔が危ういですね」

 

そう言って襲ってきた闇を大きな鎌で払い前進した。


光王ライト「サクラ姫、火の塔を守るためには君の力が必要だ。急ごう!!」


 火王スサノ、カエン、ラセツたちは部隊を組んで火の塔を守るように、ぐるりと囲み闇と応戦していた。その後ろで火の巫女であるハナも強大なバリアを張り闇の攻撃を払い戦闘に参加していた。


火王スサノ「ハナ、大丈夫か?」

 

妻のハナを心配気に見る火王スサノに対しハナは、


ハナ「当たり前でしょう。スサノ私を誰だと思ってるの?」

 

ハナはスサノににこやかに返した。


火王スサノ「そうだったな、それにしても楽しそうだな。生き生きしてるぞ」


ハナ「そうよだって3年ぶりの外よ。スサノやカエンに久しぶりに会えたし♪それに

もうすぐサクラも来るんでしょう?早く会いたいわ♪」

 

そう言って嬉しそうにウキウキしながら、襲ってきた闇を盾で弾き返す。


ラセツ「相変わらず火の巫女様は楽しそうですね」

 

背中を任せているカエンに向かって言った。


カエン「ほんと、期待を裏切らないぶっ飛んだ母君だよ」

 

やれやれと飛んでくる闇を大剣で弾き飛ばした。

火の塔の戦いは火王たちの強さに闇も圧倒されこのまま圧勝かと思われた。

が、北から闇の大群が火王達の前に降り立った。その中心にいる者を見て火王達は息を飲む。


火王スサノ「まさか、こんなに早く現れるとは」


ハナ「あれは闇の女王。これは本気で行かないとマズイわね」

 

さっきの楽しそうな雰囲気から緊張に変わる。


カエン「ラセツ、いよいよ本番らしいぞ!」

 

火王達の軍勢に緊張が走る。


闇の女王「ふふ、みんなでお出迎えかい?関心だね」


火王スサノ「闇の女王か?こんなに早く現われるとわな、相当たくさんの闇の力を蓄えていたんだな」


闇の女王「ゼノテイルは平和の裏に溢れるほどの闇があるんだねぇ。塔の巫女達が日々たくさんの闇を私に向けて送り続けてくれたから餓死することもなかったよ」


火王スサノ「で、ここへ何をしに来た?」


闇の女王「わかっているのだろ?火王スサノよ。私は全ての塔を破壊し完全復活する。その前に一番厄介な火の塔とヨウエンを破壊しておかないとね」

 そう言って火の塔に向かって闇の霧を吐いた。カエンはその霧を大刀で切り飛ばす。


カエン「バカにすんなよ、火の国の民は簡単にやられねーよ!」


闇の女王「ふん、元気だけは良さそうだが最後はみんな闇に飲まれるんだよ諦めな‼︎」


ハナ「申し訳無いけど、ウチの人達は諦めが悪いの。それに貴女にはもう破壊行為はさせないわ」

 

そう言ってハナは守りの盾に力を込めた。


闇の女王「そろそろ片付けを始めるよハイド」

 

横にいるハイドに指揮を任せ前線に向かう闇の女王


ハイド「かしこまりました女王様」

 

そう言ってハイドは右手を上げ合図する。合図を待っていた闇達は一斉に火の塔へ襲い掛かった。

 

 闇の軍勢との戦いが始まったが、闇の女王が加わったことで闇の者達の勢いも増してしまい、火王軍は劣勢に陥り苦戦していた。


火王スサノ「さすがに闇の女王は手ごわいな」

 

火王軍はジリジリと火の塔へ押されていた。


ハナ「スサノ頑張って、火の塔は絶対に守らなくちゃ」

 

そう言ってハナは精霊の力を最大にして更に大きな盾で闇を防御した。


 闇が今にも火の塔に手をかけようとした瞬間、闇の女王たちの目の前を強い閃光が走り闇の者達は怯み後ずさりした。そして、大軍を連れて光王ライト、風王ヴァンが現れた、その中にはヘンゼルやピーターもいる。


光王ライト「スサノ、遅れてすまない!」


火王スサノ「おぉ!ライト、ヴァンよく来てくれた、助かる」


風王ヴァン「うーん、これはかなり手ごわそうですね」


光王ライト「思った通り、闇の女王はここに全戦力をつぎ込んでるな。サクラ姫がこの闇の者達を一気に月の扉で封印する準備をしてる、その時間を私たちで稼ぐぞ、スサノもう少しの辛抱だ」


火王スサノ「聞いたかハナ。サクラのためにもう一頑張りするぞ!」

 

ハナは隣でうなずいた。


風王ヴァン「それともう一つだけ、ここに来る前にサクラ姫が言ってたのだが・・・『月の扉だけでは闇の女王を完全に封印できない今回の封印は一時的な物だと、闇の女王を完全に封印するためには封印の鍵になる道具が必要で、それを早急に見つけなければならない』と」


ハナ「なるほど、それは簡単じゃないわね、闇の女王と共に月の扉の向こうのブラックブック世界に行き、闇の女王の過去から封印の道具を探し出す、って言うのが早いのでしょうが、危険すぎるものね、あとはゼノテイル内の本をすべて漁って探すしかないわよ?」

 

気の遠くなりそうな提案に王達はため息をつく。それを脱するように火王スサノが言う


火王スサノ「どちらにせよ、今のこの状況を脱するために一時的でも封印するしかない。後のことはこれが落ち着いたら考えることにしよう」

 

光王・風王たちは戦闘モードに入った。闇たちは体制を整え再び火の塔目掛けて攻撃を仕掛けてきた。


闇の女王「あぁ、忌々しい!さっさと諦めな!!」

 

なかなか攻めきれない事に苛立ちを露わにする。


カエン「物語で敵同士の俺たちが一緒に戦えるなんてさ、楽しいなラセツ!!」

 

元桃太郎のカエンは元鬼ヶ島の頭領ラセツに言いながら、嬉しそうに闇を弾く。


ラセツ「うん、本気で倒していい相手だから力が湧き上がってくるよ」

 

先頭で闇の女王を相手に戦っていたカエンとラセツも更に士気を高め闇の女王の行く手を阻む。


火の塔周辺での一進一退の戦いを反対側の丘に回ってサクラは見ていた。


サクラ「琥珀、瑠璃そろそろはじめるよ!!」


琥珀・瑠璃「「はーい」」

 

琥珀と瑠璃はキレイな光を纏いサクラの両脇に立った。

 サクラは大きな深呼吸をすると、琥珀と瑠璃を使い大きな円を空に描いた、そして大地をポンと叩き魔法陣を作るとそこから闇を封印する月の扉を引き出し、戦場の真ん中に『ドンッ』と置いた。位置についた月の扉は徐々に開いていく、そして弱い闇の者達はわずかに開いた扉の中へ吸い込まれていく。


サクラ「さぁ、行くよ!!」

 

そう言って闇を月の扉に向かって弾きながら、火の塔に向かって行く。


ハナ「サクラ、やっと来た♪それにしても随分魔力が成長したわねー!」

 

ハナは久しぶりに会う娘の姿を見て、嬉しそうに微笑んだ。


サクラ「父さま母さま間に合って良かった、これから闇の女王をあの月の扉に封印するけど・・・」


ハナ「聞いたわよサクラ、あなたが悪いわけじゃない、一時的な封印でも考える時間があって良かったと思いましょ」


その言葉にサクラはうなずくと、


サクラ「母さま、とにかく今できることをしてきます」


そう言って月の扉の封印に向かった。


 闇の女王は向こうから光の精霊を纏い近づいてくるサクラに危機を感じていた。


闇の女王「来るな!!!」

 

しかしサクラはどんどん近づいていく。


サクラ「あなたはここに居るべきではない、破壊が目的なら今すぐ消えて!」

 

闇の女王と対峙していたカエンとラセツにサクラは闇を払う力を増強する月光の力を送る。するとカエンとラセツの一撃が闇の女王を月に扉の中に押し込んだ。


闇の女王「このままでは終わらせない!!ハイド一旦引け!次こそ必ず私を完全復活させるのだ」

 

そう言って月の扉の中に闇の女王と闇の者達はすべて吸い込まれた。

それを見たハイドたちは瞬く間に黒い煙を纏って退散していった。


 月の扉を閉めるためにサクラは扉の前に立つ、そしてサクラが扉に向かい手をかざすと静かに扉が閉まり始めた。すると後ろの方からピーターが走って来て扉の前に立った。


サクラ「ピーター?何をしてるの?」


ピーター「サクラ、俺は間違ってたよ今回のことは本当にごめん。これもまた間違ってるかもしれないけど、俺に今できることは月の扉の向こうのブラックブック世界に行って封印の鍵を探してくる事だと思う。だから行かせてくれ」

 

そう言って閉まる寸前の月の扉の中に入って行った。


サクラ「ピーター行っちゃ駄目よ!危険すぎるわ。戻って来て!!」


光王ライト「サクラ姫、すまながピーターの好きなようにさせてやってくれないか?この戦場を経験してピーターもいろいろ考えて決めたことだろう。わたしはピーターが必ず封印の鍵を探してくると信じたい」


ヤシャ「サクラ、彼の意志は固いと思う、彼一人じゃ危険だ、俺も一緒に行ってくる」


サクラは「フーッ」とため息をつくと、気持ちを切り替えて


サクラ「ほんとピーターっていつも勝手なんだから。わかったわヤシャ気を付けてね、ピーターのこと頼みます」

 

そして隣にいた瑠璃にサクラは


サクラ「瑠璃、ヤシャと一緒に行って二人を守ってあげて」

 

その言葉を聞いたルリは嬉しそうにサクラに向かって、


瑠璃「うん、サクラ二人のことは任せて!!じゃ行ってきます!」

 

意気揚々とヤシャに付いて、月の扉の中に入って行った。


琥珀「瑠璃がんばれよー!!」

 

月の扉の向こうに消えていく後ろ姿に向かって琥珀は大きく手を振った。

 ヤシャ達が中に入ったあと月の扉は完全に閉まり、今までの激しい戦闘が嘘のように静かな空気が火の塔のまわりに流れていた。

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