第4話 サクラ救出

 ヤシャ達は光の国の手前まで来ていた。

光の国は闇に飲み込まれ、国境の橋は半分から向こう側が、真っ暗で先が見えなくなっていた。


琥珀「ねぇヤシャ、あの先にサクラがいるの?」


瑠璃「あんな闇の中にいたら普通の人なら闇に堕ちてしまうわ」


ヤシャ「これは深い闇だな、まぁサクラなら問題ないだろうが」


琥珀「そうそう、なんせサクラはオレ達精霊と同等の、闇を弾く力を持ってるんだからさ」


瑠璃「でも闇がどんどん深かくなってる、このままじゃサクラは大丈夫でも、一緒にいる人達は危ないわ」


ヤシャ「あぁ、どちらにしてもサクラを早く救出した方がいいに越したことはないってことだな」


瑠璃「ヤシャは鬼種だから、闇の影響を受けやすいんでしょ?気を付けてね、私たちから絶対に離れないで」


ヤシャは心配そうに覗き込む瑠璃の頭をクシャっとすると


ヤシャ「あぁ、俺が闇に飲み込まれないように守護を頼むな」


瑠璃は嬉しそうに「うん!!」とうなずいた。

そしてヤシャ達は闇の中へ入っていく。


 橋を渡り切った岩の上に精霊が座っていた、その精霊は琥珀と瑠璃を見て寄って来た。


翡翠「なんだ琥珀と瑠璃か?おまえらこんなところに何しに来た?」


琥珀「ん?おまえ翡翠か?おまえこそこんなところで何してるんだ?」


翡翠は光の巫女マリと契約した精霊だった。

翡翠がこんなところで一人でいることに、違和感を感じた琥珀は翡翠に問いかける。


翡翠「光の塔が破壊されたから、巫女との契約が切れて自由になったんだよ!」


瑠璃「それで、なんでこんな所にいるの?ヨウエンには戻らないの?」


翡翠「叶えたい願いがあるんだ!光の塔が破壊されて巫女との契約は切れたが、代わりに望みを叶えてくれる人がいる、オレはその人を待ってるんだ」


琥珀「翡翠、おまえの望みって何なんだよ?」


翡翠「闇の塔で眠る巫女を目覚めさせるんだ、それをハイドが叶えてくれるって」


瑠璃「闇の塔の巫女?彼女を目覚めさせるって、そんなの誰かが簡単に叶えられる願いじゃないでしょう?」


ずっと話を聞いていたヤシャが、火王と風王の話に出てきたハイドという男のことを思い出し、


ヤシャ「なぁハイドってやつは本当に信用できるのか?」


琥珀「翡翠お前騙されてるんじゃないのか?こんな状況の中で難しい願いを叶えてくれる、なんて美味しい話あるわけないだろ?」


翡翠「あぁもうウルサイな!オレの邪魔をするならここで倒すよ?」


翡翠は刀を出し、琥珀たちに殺意を向け戦闘態勢に入った。


琥珀「はぁやんのか?いいじゃんやってやろうじゃん」


琥珀は翡翠の挑発に押され応戦態勢に入る。

今にも戦闘が始まりそうな緊張感の翡翠と琥珀の間に黒い煙が雷のように落ちその場所にはハイドが立っていた。


翡翠「ハイド、遅いじゃないか!!」


ハイド「すみません、いろいろと立て込んでしまって・・・」


ハイドは翡翠の反対側にいるヤシャ達をみて


ハイド「翡翠さんのお友達ですか?」


翡翠「友達なんかじゃない、ただの顔見知りだ、さっさと行こう」


ハイド「そうですか。では皆様これで失礼いたします」


ヤシャ達に頭を下げて翡翠を連れて黒い闇の中へ煙になって消えて行った。


琥珀「おい、待てよ!!逃げんな」


叫びながら追いかけようとする琥珀をヤシャは静止して


ヤシャ「あのハイドという男は気になるが、とりあえず今はサクラの救出を急ぐぞ」


ヤシャ達はサクラのいるストラナ学園にたどり着く。学園を囲む高い塀の中は昼間とは思えないほど真っ暗で何も見えなかった。


ヤシャ「やはり正面からは無理そうだな」


瑠璃「どうするの?ヤシャ」


正面に広がる闇の者達を怪訝そうに見ながら瑠璃が言う


ヤシャ「この辺りに生徒会室への隠し通路の入口があったはずなんだが・・・」


ヤシャは通路の入り口らしい扉を見つけると、静かに扉を開けて入っていった。


ヤシャ「この通路を使えばサクラのいる部屋までは直通だが、中の様子がわからないから入ってすぐに戦闘ってこともあり得るな」


琥珀「いいじゃん!!」


翡翠と戦いそびれてスッキリしていない琥珀はやる気満々だったが、


ヤシャ「サクラを拘束してるのは闇に操られたサクラの友人たちだ、できれば戦わずにサクラを連れて帰りたい」


それを聞いた琥珀は「ちぇっ」っと不満そうに舌打ちした。


瑠璃「ヤシャ、闇がどんどん深くなってるわ。盾になるから待って」


瑠璃はキレイな青い光の盾になりヤシャの前に立ち闇を払った。


ヤシャ「ありがとうルリ」


瑠璃は嬉しそうに「うん♪」と答えた。


生徒会室の中も闇が深くなってきていた。

サクラのまわりはサクラ自身が発する力が闇を払っていたが、サクラのそばで闇を避けているローズやゴクウはこのままここに居続ければいずれ闇に堕ちてしまう。サクラは大きな窓から闇の塔を見ているピーターの背中に向かい、話しかけた。


サクラ「ねぇピーター、いつまでここに居るつもりなの?」


ピーター「・・・・・」


ゴクウ「ピーター、僕達もそろそろここを出ないと闇に飲まれちゃうよ?」


しかしピーターは何も答えない。


ゴクウ「ピーター、聞いてる?」


そう言って肩に手をかけるとピーターは無言でゴクウに襲い掛かった。


ローズ「会長!!何やってるんですか!!やめてください!!」


そう言って止めに行こうとしたローズを


サクラ「ローズ行っちゃダメ!!ピーターはもう闇に浸食されているわ!!」


すると、ピーターと応戦していたゴクウも徐々に闇に浸食され始め、最後に二人は無言で殴り合いを繰り返していた。


ローズ「会長、ゴクウやめてください!ねぇ・・・お願い」

 

ローズが声をかけるが今の二人には全く聞こえていない様子だった。


サクラ「ここは闇が深すぎるの。闇に少しでも触れたらあっという間に侵食されて闇に取り込まれてしまうわ、ローズ私から離れないで」


サクラに寄り添いながらローズはうなずいた。

 すると殴り合いをしていたゴクウがバランスを崩してサクラとローズの方に転がってくる。

ピーターの目にサクラ達が入った、そしてピーターとゴクウの標的は闇に堕ちていないサクラ達に切り替わってしまった。


サクラ「あらあら、これはちょっとまずいわね」


そう言ってローズの前に出て盾になる。

ピーターとゴクウはサクラとローズの前に立ちはだかり殺気立った形相で威嚇している。

ピリピリとした緊張感できっかけさえあれば今にも飛び掛かってきそうなピーターとゴクウ。

身構えるサクラ達の後ろの本棚が横にずれ出した。


サクラ「えっ?なに・・・」

 

すると隠し通路からヤシャが現れた。

それを合図にピーターとゴクウがサクラに向かって飛び掛かって来た。


瑠璃「サクラ危ない!!」

 

サクラの前に瑠璃が盾になり立ちはだかり、その盾に弾かれたピーターとゴクウ。


琥珀「まったくサクラはオレたちがいないとほんとダメなんだから」


瑠璃と琥珀の闇を払う力に怯み、ピーターとゴクウの動きが一瞬止まっている。


サクラ「琥珀、瑠璃待ってたよ、ヤシャいいタイミングで来てくれたね」


瑠璃の盾の影で琥珀がサクラを拘束していた闇の輪を無効化する。その間にヤシャはサクラのそばにいたローズを通路の安全な所に避難させた。


ヤシャ「まったく来て早々これは戦闘必須だな」


目の前にいるピーターとゴクウを見た。


サクラ「ピーター達は闇に浸食されているけどまだ引き戻せるはずだわ。ヤシャ手伝って!!」


ヤシャ「あぁ、わかった。二人を抑えればいいんだろ?」


サクラはコクリと頷く。


琥珀「よーし!さっそくオレの出番だな」


琥珀は意気揚々と槍に姿を変えサクラの手に


サクラ「琥珀頼むね、でも私の大事な友達だから傷つけないで闇を取り除いて」


琥珀「うん、物足りないけどサクラがそう言うなら傷つけないよ」

 

サクラは槍で空に大きな円を描きながら闇を封印する魔法陣を作っていく。

その間ヤシャは瑠璃と一緒にピーターとゴクウの攻撃を防いでいた。


サクラ「よし、できた!」


サクラが出来上がった月の扉を槍でつついて開くとそこら辺を覆っていた闇はその扉の向こうに吸い込まれて行く。

ヤシャに攻撃を仕掛けていたピーターとゴクウの背後に回ったサクラは、二人の背中に琥珀の槍を当てる、槍が当たった所が眩しく光り出すと、二人の動きが止まり苦しそうに悶え始めた、すると黒い煙が抜け出て月の扉に吸い込まれピーターとゴクウはその場に倒れた。


ヤシャ「今のうちだ、闇の塔がある限りすぐにまた闇に覆われる、早く出るぞ」


ヤシャはピーターとゴクウの二人を軽々担ぎ上げると足早に本棚の隠し通路に向かった。サクラもローズを連れてヤシャ達の後について学園を脱出した。

 

国境の橋を渡り光の国を出たところでピーターとゴクウは意識を取り戻した。


ピーター「あれ、ここは?俺は何をしてる?」


ゴクウ「なんだかあちこち痛いんだけど」

 

あざだらけの体を見回した。闇に飲み込まれてからのことを覚えていないピーターとゴクウに


ローズ「あなた達は闇に浸食されてサクラ達を襲ったのよ!」


ピーター「えっ!!そんな・・・まさか、うそだろ?」


ローズ「嘘なんかじゃないわ。サクラがあなた達から闇を取り除いてくれなかったら今頃どうなっていたか」


ゴクウ「そんな・・・サクラごめんね僕達は君を傷つける気なんてなかったんだよ」


ローズ「ピーター私たちはハイド先生に利用されたの。闇の女王を完全復活させて闇を自分の都合のいいように利用するための道具だったんですよ」


ピーター「そんなことわかってたさ、それでも俺はマリを助けられればそれでいいと思ってた。ただ、サクラを危険な目に合わせるつもりはなかったんだ・・・本当にすまない」

 

そう言ってピーターは頭を下げた。


サクラ「ピーター、あなたがマリを思う気持ちはわかった。でもね闇が解放されたらゼノテイルはあっという間に破壊されてしまう、闇はそんな簡単に思い通りに動かないわ。破壊は沢山の悲しみや憎しみを生みまた闇を作る。だからこそ代々祈りの塔の巫女達は自分たちの時間を犠牲にして、ゼノテイルの平和と幸せを祈っていたの。母たち巫女が長い年月守ってきた平和を、あなたの身勝手な思いのために破壊した事を忘れないで」

 

ピーターとゴクウは申し訳なさそうにうつむいた。


ヤシャ「サクラとりあえず火の塔を守りに火の国へ急ぐぞ」


サクラはそれを聞いてハッと思い出したように


サクラ「そうだわ、急がなきゃ!!」

 

そしてみんなで火の国へ向かった。

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