第3話 闇の女王

 ハイドは破壊された光の塔の跡地に立っていた。


ハイド「いよいよですね。この日のために私はストラナ学園の教師になり研究を続けてきたのですから」


そう言って自分が作り上げた資料を確認する。


ハイド「光の塔が無くなったおかげで繋がれた祈りの力が弱まった、しかも巫女達が駆除し続けた闇をこの地下に送り込み闇の塔に吸収させていたおかげで闇の女王もだいぶ力を蓄えているはず、もうすぐここに闇の塔が現れる」


ハイドは光の塔の跡地に魔法陣を作った。すると地響きがゴゴゴゴゴゴゴ・・・・と唸りだし、下から突き上げるように黒い塔が出現した。


ハイド「では早速、闇の女王に会いに行きますか」


そう言ってハイドは闇の塔の中に入っていった。

 塔に入るとかなりだだっ広い広間の正面上方に封印された闇の女王の石像があった。


ハイド「これは、たまたま拾った闇の女王の物語のかけらです。全部ではなくて済みませんがお土産です」


ハイドはその石像に解石の魔法をかけ、石像の胸に破れた紙を吸収させた。

すると、その中から黒いモヤモヤっとした煙がハイドの目の前に出てきた。


闇の女王「ふぁぁ・???お前はだれだ?」


ハイド「女王さま、お待ちしておりました。私はハイドにございます」


闇の女王「ハイド?初めて聞いた名だな、まぁ何でもいい。どうやって私は目覚めたのだ?」


ハイド「あなた様の物語の切れ端を見つけ、お返ししたのです」


闇の女王「私の物語?よく覚えてはいないが、私が封印されていた間の憎悪や恨みはハッキリ覚えているよ。さぁ私が目覚めた証に、私を封印したゼノテイルの者達にお仕置きしなきゃね。そしてゼノテイルの人々をひれ伏せさせるよ」


ハイド「わたくし達は、あなた様の命ずるままに動きます、何なりとお申し付けください・・・」


闇の女王「そうだね先ずは、私の闇の力を完全に復活させるため、他の塔をすべて破壊しようか」


ハイド「かしこまりました」


 グレーテとピーターたちは光の塔のあった方を見ていた。闇の塔が出現したのを確認したグレーテは


グレーテ「はじまったわね、私はそろそろハイド先生に合流するわね」


ピーター「あぁこっちは任せてくれ。それとマリに合ったら『落ち着いたら必ず会いに行く』と伝えてくれ」


グレーテ「了解。じゃぁヘンゼル、サクラ、レインまたね」


ウィンクしながら手を振り、来た時のように黒い闇を纏うとそのまま煙のように隙間に消えて行った。

 その後ピーターはゴクウとローズに奥の倉庫から準備していた食料を持ってくるように指示をした。

 二人が食料を取りに行った後、サクラはピーターに向かって


サクラ「ねぇピーター、私ちょっと・・・言いにくいんだけど」


と言ってもじもじして見せるサクラ。


ピーター「あぁ、トイレ?」


サクラ「ちょっと、言わないでよ!!(怒)」


ピーター「あ、ごめん・・・オレが着いてくことになるけどいいか?」


サクラ「もう、急いでるんだから何でもいいわよ!早くしてよ!!」


サクラの剣幕に押されたピーターは


ピーター「あぁ、わかった・・・じゃぁこっち・・・」


と慌てて二人で闇の中に消えていく。


ヘンゼル「行ったみたいだ、急げレイン」


ヘンゼルはピーターとサクラが見えなくなったことを確認すると、先にサクラが解いておいてくれた闇の輪を体から外し、急いで本棚の影に隠されていた小さなレバーを引いた。すると、本棚は静かに横にずれて隠し通路が現れた。


ヘンゼル「わぉ、本当にこんな物がここにあったんだな!」


レイン「サクラのために早く行きましょ」


ヘンゼルとレインは走ってその入り口をくぐる


レイン「サクラ無事でいてね・・・」


すると本棚は元に戻り何事もなかったように通路がふさがれ生徒会室は元の部屋に戻った。

 しばらくしてピーターがサクラを連れて戻って来た。すぐにヘンゼルとレインがいないことに気付く。


ピーター「おいサクラ、他の二人はどこだ?」


サクラ「さぁ?」


と首を傾げて返した。そこに食料を大量に持ったゴクウとローズが戻ってきた。


ピーター「おい、ヘンゼルとレインが消えた!二人を探せ!!」


ゴクウとローズは慌てて周りを探す。しかし二人の姿はどこにもなかった。

 ヘンゼルとレインは生徒会室の本棚の隠し通路から学園の外に脱出していた。本棚の隠し通路の存在はサクラが幼いころに学園生だった兄のカエンが友人のヤシャと話していたのを思い出し、ヘンゼルとレインに伝えたのだ。闇を封印できるサクラにとってヘンゼルとレインの闇の輪を外すのは簡単だった、ヘンゼルは三人で逃げることを選択したが、短時間で通路を使って逃げるには囮が必要だと言ってサクラが残ることになったのだ。


 学園を脱出して安全なところまで来ると、ヘンゼルは風の国へ、レインは水の国にそれぞれの国王に事態の報告と対応をするためにわかれて戻ることにした。


レイン「とりあえず水の国と西側王国への報告はこっちに任せて。ヘンゼルは風の国と火の国を」


ヘンゼル「わかった。レイン気を付けて行けよ」


そして学園の方を見上げると


ヘンゼル「サクラ、必ず助けるから待っててくれ」


そう言ってヘンゼルとレインは分かれて光の国を出た。


 完全に闇に包まれた光の国、そしてストラナ学園。ローズが食料を持ってサクラのそばに来る。


ローズ「サクラ大丈夫?苦しいとことかない?」


そう言いながら手の輪を外し自由にして食料を渡した。


サクラ「うん、大丈夫」


食料を受け取ると黙々と食べ始めた。


ローズ「光の塔の後、砂と風の塔も破壊されたわ」


サクラ「えっ!!そんな・・・」


動揺を隠せないサクラにローズは続ける。


ローズ「最初は水の国に攻撃を仕掛けたらしいの。でも水の国は水のバリアを張ってあって入れなかったって。それで隣国の砂の塔が攻撃されて砂の国が闇に落ちたみたい。風の国は塔の破壊はしたらしいんだけど、風王はすぐに闇を弾くドームを張って、闇が進行できないように食い止めているって」


サクラ「風の国が完全に闇に堕ちたら、次は火の国ってことよね・・・」


ローズ「うん、ヘンゼルたちが間に合うといいわね」


物静かだが常に冷静に物事の分析をするローズが、『塔のあり方に疑問を持っているから』と言う理由で闇側についている事に疑問を持っていたサクラは、


サクラ「ねぇ、ローズ、なぜあなたはそちら側にいるの?」


ローズ「わたしは・・・元々祈りの塔の必要性に疑問は持っていたけど、闇の力を使って破壊する方法には大反対だったのよ。ただ、それよりも私たち6人が敵味方に分かれることが一番怖かった。誰も傷つけずに解決する方法を探してたんだけど、間に合わなくて・・・ごめんなさい」


ローズはピーターやグレーテの話を聞き、サクラやヘンゼル、レインは絶対に賛同しないと思ったこと、このままではピーター達が暴走して3人を傷つけてしまう心配があったこと。彼らや闇側の者達の動向を見張りながら、その中で問題を解決できるように模索するため闇側にいたことをサクラに伝えた。


サクラ「そうだったの、でもこれはローズ一人で背負えることじゃないわ」


ローズ「もっと早くサクラたちに伝えられれば良かった・・・本当にごめんなさい」


サクラ「大丈夫よ、きっと6国王達も対策をしているはずだわ。とにかく今はヘンゼルとレインを信じて待ちましょう」


そう言ってサクラとローズは食事を続けた。そして各地に闇の深さはどんどん広まっていく。


 光の国から脱出し、車を走らせ風の国へ戻ったが、風の塔は破壊され闇の雲が上空を覆っていた。


ヘンゼル「くそっ、遅かったか・・・」


ヘンゼルは城付近で、火の国の方へ向かう警備兵を見つけた。警備兵はヘンゼルに気付き、


警備兵「ヘンゼル王子、光の国から戻られたのですね、ご無事でよかった。猛烈な闇の攻撃で風の塔を破壊されてしまいましたが、科学者たちが風の国全体に闇防御のドームを張ったので、かろうじて闇に飲み込まれるのは防げています。ただこれもいつまでもつか・・・」


そう言って空を見上げた。


警備兵「風の国の人々は皆火の国に避難しております。ヘンゼル様もお急ぎください。」


ヘンゼル「さすが国王たち、仕事が早いな」


ヘンゼルは父である風王が、風の塔の崩壊後すぐに隣国の火王と連携して、人々の避難先を用意した事に感心していた。ヘンゼルは警備兵から風の王が火の国の入り口で避難誘導をしていると聞き急いで風王ヴァンの元に行った。


ヘンゼル「父上!!」


風王ヴァン「おぉ、ヘンゼル無事だったか良かった。」


ヘンゼル「闇の女王が目覚めたんです!光の国は完全に闇に落ちました。そして・・・・・」


ヘンゼルは学園で起きた事態を風王に話した。


風王ヴァン「なんてことだ、闇の女王が目覚めるなんて・・・しかもグレーテが関わっているのか・・・」


風王はグレーテが関わっている事を知り膝をつき肩を落とした。が、すぐに我に返り、首を横にふりヘンゼルをみつめ、


風王ヴァン「とにかく今は光の国で捕まっているサクラ姫のことを火王スサノに伝えねば」


そう言って立ち上がり、今後の対策を練るためサクラの父である火王スサノに会いに行った。


風王ヴァンとヘンゼルが火の国に入ると入国者の案内を手伝っていたサクラの兄カエンが遠くから声をかける。


カエン「おーいヘンゼル、サクラは一緒じゃないのか?」


ヘンゼルが風王をみると、


風王ヴァン「火王への報告と今後の対策は私たちに任せなさい」


そう言って火の城の方に向かい去っていった。


ヘンゼル「カエンさん、聞いてもらいたいことがあります」


ヘンゼルは事情を話すため、火の国の入国待ちフロアにある小部屋にカエンを呼んだ。ヘンゼルの真面目な顔色に何かを察したカエンは、


カエン「ラセツお前も一緒に来い」


近くにいた鬼の角を生やした青年も呼んだ。ヘンゼルは部屋に入ってきたカエンとラセツに光の国での出来事とサクラが捕まっていることを話した。


カエン「闇の女王が目覚めた?そんな馬鹿な!」


そう言ったカエンの驚きを上回る大声で隣で聞いていたラセツが、「ガシャン」とテーブルを倒して立ち上がった、


ラセツ「カエン急がなきゃ!!サクラを早く助けに行こう!」


ラセツは慌てて、部屋にある武器になりそうなものを担ぎ、部屋を出ようとする。


カエン「いや、ラセツちょっと待て、気持ちはわかるが一旦落ち着いて、ヘンゼルの話を最後まで聞こう」


そう言ってラセツを座らせた。


ヘンゼル「現在、光の塔と風の塔の二つが破壊されて、闇の女王の力が高まってます。奴らの今の目的は、6つの塔すべてを破壊し、闇の女王の力を完全に復活させること。闇の力を抑え込むには、サクラの封印の力はいずれ必要になりますが、残った塔も守らなければなりません」


カエン「風の塔が破壊されたなら、いずれは火の国の塔が攻撃されるってことだよな?」


ヘンゼル「そうです。これから火の塔を守る準備と、サクラの救出を急がなければなりません」


カエン「わかった、サクラの事は父上に頼もう。俺たちは火の塔を死守する準備だ、ラセツは部隊を集めててくれ」

 

ラセツはコクリとうなずき急いで部屋を出て行った。

 カエンは火の塔と母である火の巫女ハナ守るため部隊を使う許しをもらいに火王の元に行った。


火王スサノ「闇の件は風王に頼み他の国王とコンタクトを取ってもらった。これから今後の対応について6国王たちでリモート会議だ。闇がこの国に来るのも時間の問題だろう。カエンは火の塔の応戦準備と万が一の時の指揮を頼む」


カエン「父上、サクラ救出は?」


火王スサノ「サクラの救出はヤシャに頼んである。彼ほどの強者は塔の護衛にも必要だろうが、急ぎで単独で動ける人材は彼しかいないからな」

 

ヤシャはラセツの弟でカエンの幼馴染でもある。普段はヨウエンの精霊に囲まれて読書をする物静かな青年だが『ゼノテイル最強の剣豪』と呼ばれるほど武術に長けている。幼い頃からサクラの武術指導をしている師匠でもある。


カエン「ヤシャが行ってくれるなら俺も安心だ。塔の方は任せてくれ!!」

火王スサノ「私も他の王達と対策を練ってくる。私の留守の間に火の塔への攻撃が始まったらカエンすまないがハナを頼む。できるだけ早く合流する」


カエン「あぁわかった、では」

 

そう言って頭を下げてすぐに火の塔へ向かった。カエンが部屋を出ると同時にヤシャが扉から入って来た。


カエン「ヤシャ、サクラの救出引き受けてくれたんだな!」


首を縦に振りヤシャは静かにうなずいた。


カエン「そうか、ヤシャが行ってくれるなら安心だな。サクラのこと頼んだぞ!」


ヤシャ「はい、もちろんです」


その背中を見送ったヤシャは火王の前にひざまずく。


火王スサノ「ヤシャ、もう準備はできたのか?」


ヤシャ「いつでも出発できます」


火王スサノ「知っているとは思うが闇の女王が目覚めた。女王の完全復活を阻止するために、一つでも多くの塔を守らねばならない。それを確実にするためにはサクラの力が必要になる。ヤシャ、急ですまないがあまり時間がない、今すぐにサクラ救出に出発してほしい」

 

火王スサノの真剣な瞳にヤシャは「御意」と頭を下げた。


火王スサノ「闇の者があちこちで発生している。サクラの救出には琥珀と瑠璃が必要になるだろう、一緒に連れて行きなさい」

 

火王スサノはサクラと契約を交わした精霊の琥珀と瑠璃を呼んだ。

すると奥の方からキラキラした二つの光が飛びながら入って来て、火王スサノの前で人型に変わった。


琥珀「ねぇ本当に火の国の外に行けるの?」


琥珀色の瞳を輝かせワクワクした様子の琥珀。その隣では


瑠璃「火王様、サクラが闇側に捕まったって本当なの?サクラは大丈夫なの?」


こちらは瑠璃色の瞳をウルウルさせていた。


火王「サクラはきっと大丈夫だ。琥珀と瑠璃は早くサクラのそばに行って助けになってあげてくれ」


琥珀・瑠璃「「うん、わかった(よ)(わ)」」


元気よく返事をした。ヤシャは火王スサノからサクラの精霊をあずかり、火の国を出発し学園へ向かった。


 そのころヘンゼルは、火の国の避難所で風の巫女タオを見つける。


ヘンゼル「タオ、大丈夫だったか?」


タオ「あ、ヘンゼル様、私は大丈夫です。でも塔が破壊されてしまったわ」


とうつむき、『ハッ!』と何かを思い出したように、


タオ「あの、グレーテは?一緒じゃないんですか?」


ヘンゼルの顔色が変わったのを見て


タオ「今回のことにグレーテ関わってないですよね?」


ヘンゼル「タオ、グレーテから何か聞いてるの?」


タオは首を横に振りながら


タオ「まさか!あれは冗談だと思って本気じゃないと・・・。少し前に塔から休暇をもらって久しぶりにグレーテに会ったとき『必ずあなたを塔から解放するから』って・・・だから私は『塔の巫女でいることに不満は無いわ』って言ったの。そしたらグレーテが『塔の巫女のシステム自体が間違ってる、あなたは気にしないで待ってて』って、でもまさか塔を破壊して闇を使うなんて・・・知らなかった、どうしよう私のせいだわ」


そう言ってうつむき顔を曇らせた。


ヘンゼル「いまのグレーテは正気じゃ無いだけだ、きっと間違っていることに気付くさ!!」


タオ「そうだ、あの時グレーテは『あなたが塔から解放されたら必ず会いに行く』って、きっとここに来るはずだわ。グレーテに会ったら私が説得してみます」


ヘンゼル「あぁ、タオの話しなら聞いてくれるだろう。グレーテに会った時は頼む」


そう言ってヘンゼルは避難所を後にした。

 ヘンゼルは火の塔の防御準備をしているカエンに合流し、サクラの救出にはヤシャが向かったことを聞き。


ヘンゼル「良かったヤシャさんが救出に行ってくれたんですね。それなら俺はここに残ってカエンさん達を手伝います」


カエン達を手伝うために火の国に残った。

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