第2話 生徒会分裂

 チンとアースラが出て行った扉から入れ替わりに入って来たのは、ストラナ学園の制服を着たヘンゼルとサクラだった。ストラナ学園は光の国にあり、ヘンゼルとサクラはこの学園の生徒会の副会長だった。


サクラ「トンさんこんにちは、また学園の図書に闇の精霊が出たの、捕獲してきたからこの本の補修と処理をお願いします」


そう言ってサクラは受付台の上に紺色の古びた本と、月の魔法にガードされキラキラ光る小さな籠を置いた。


 このサラサラの黒髪が印象的な色白美人のサクラは、火の国の王女でかぐや姫の主人公である。真っすぐ生真面目な性格でテキパキと仕事をこなす、ストラナ学園では生徒会の副会長を務めている。また武術や舞踏など体を動かす事が得意で運動神経抜群の少女である。


トン「かしこまりました。ここ最近、闇の精霊の発生率がかなり増えているようで、本当に困りましたわね」


ヘンゼル「ポートルームでも増えていますか?」


サクラの隣にいたヘンゼルに声をかけられたトンは一瞬見惚れてしまう。


 この誰が見てもうっとりするような緑髪の美少年はヘンゼル。風の国の王子で童話ヘンゼルとグレーテルの主人公。サクラと共に生徒会の副会長で、頭脳明晰かつクールで冷たい印象だが実は優しく紳士的。

※さぼり癖のあるストラナ学園生徒会の会長には厳しい喝を入れているらしく「影の生徒会長」とも呼ばれている。


トン「ええ、カン達が早急に駆除はしていますが、このまま増え続ければ追い付かなくなってしまいますわ」


すると、本棚の奥の方からカンが走ってくる。


カン「トン、また出たわ、1日で闇の精霊がこんなに出たんじゃ追いつかないわよ、人手も足りないわ。応援を要請して!」


トン「わかったわ。ギルドに連絡しておくから、到着したら案内をお願いね」


そうカンに言うと、トンはヘンゼルとサクラを見ながら、


トン「なんだかバタバタしてしまい申し訳ありません。こちらの本と闇の精霊はちゃんと処理しておきますね」


と言って、会釈してギルドに電話をかけ始めた。


ヘンゼルとサクラはトンに会釈を返して入ってきた扉に向かった。


サクラ「やっぱり最近なんだか変よね、闇の精霊が増えてるなんて、今までなかったもの」


ヘンゼル「あぁ…、何か悪いことが起きる前触れじゃないといいんだが…」


サクラ「学園の図書にも被害が出てるし、学園に戻ったら会長に調査するように進言した方がいいんじゃないかな?」


ヘンゼル「そうだね。帰ったらピーターに相談してみよう」


2人はストラナ学園へ向かった。



ストラナ学園〜


ヘンゼルとサクラは学園の生徒会室に向かった。

生徒会室に入るとサクラは会長のデスクに座る端正な顔立ちの赤髪の少年に向かって切り出した。


サクラ「ねえ会長、やっぱり最近のゼノテイルは変だわ。さっきポートルームに闇の精霊を届けに行ったんだけど、ポートルームにも闇の精霊が多発してるみたいで、バタバタしてた」


ピーター「うん・・・そうか・・・」


うわの空気味で書類の山に目を通す彼は、光の国の王子でピーターパンの主人公ピーター。ストラナ学園の生徒会会長をしている彼は兄貴肌で面倒見が良くみんなのリーダー的存在。たまに熱血過ぎて暴走することもある。日頃からピーター会長の暴走のストッパー役をしているのが、副会長でもある親友のヘンゼルと、従兄妹のサクラ(ピーターの母とサクラの父が兄妹)だった。


奥で書類整理していたレイン、ゴクウ、ローズも集まってきた。


レイン「そうだったのね、実は先週、水の国の図書館にも闇の精霊が出たんだ。こんな事未だかつて無い大事件だって、水王も大忙しだったよ。」


小麦色に焼けたこのスタイルの良い美人はレイン、水の国の王女で童話人魚姫の主人公。明るく活発、体育会系の情熱を持っている。ストラナ学園生徒会、会計担当。


ヘンゼル「ゼノテイル全体に今までに無い何かが起きてるって事だよね?」


ピーター「あぁ、そうだな…」


心ここにあらずなピーターの返事に痺れを切らしたレインが、


レイン「ちょっと会長さん、さっきから空返事ばっかりして、普段からきちんと書類整理しないからこんなに溜まるのよっ」


そう言って重なる書類の上に「ドンっ」と更に大量の書類を置いた。


ゴクウ「仕方ないよ、会長は普段は運動部の指導なんかもやってて忙しいんだしさっ。ほらお茶入れたからみんな休憩しよう!」


そう言って天使の微笑みで場を和ませた。


この可愛い少年の名はゴクウ生徒会の雑務担当をしている。砂の国の王子で西遊記の孫悟空である彼は、物語とは正反対のおっとりした性格。アイドル並みのかわいい顔をした癒し系美少年のため、学園にはファンクラブもある。


ローズ「会長が忙しいのはわかりますが、ヘンゼルさんが切れる前にちゃんと自分の仕事と両立してくださいね。」


そう言いながらお茶菓子をテーブルに置く。


この赤いフードを被った小柄な少女はローズ、森の国の王女で赤ずきんの主人公。コンピュータでの分析や解析が得意で、ストラナ学園生徒会の情報処理担当。


ピーター「おぅ…そうだな、すまん…」


サクラ「まあまあ、なんだかんだ言ってもちゃんと仕事こなすのがウチの会長だから、ねっ?」


とサクラはピーターに向かってウインクした。


ピーター「あぁ、まあな」


そう言ってゴクウの入れた紅茶をゴクッと飲むピーター。


6人はひとときのティータイムを過ごすと、再びそれぞれの仕事を始めた。

 

作業をはじめてしばらくすると、ヘンゼルとサクラは窓の外の異変に気づく。


サクラ「ねぇちょっと、何あれ?」


和やかに作業していた生徒会室の窓の外に見える隣接した光の塔に向かい、真っ直ぐ黒い雲が稲妻とともに轟音を鳴らし近づいていく。すると、あっという間に光の塔が黒い雲に吞み込まれ、辺りは暗闇に閉ざされた。


バリバリバリドーン・・・・・「キャァーーー!!」誰かの悲鳴が聞こえる。ゴゴゴゴゴ・・・・・、それからしばらくして揺れも収まった。


真っ暗になった部屋の中で、サクラは手元にあったライトをつけて辺りを照らす


サクラ「みんな、大丈夫?」


そばにはヘンゼルとレインがいた。


ヘンゼル「俺は大丈夫、レインはケガはない?」


レイン「うん、大丈夫。ほかの皆は?」


ピーター「こっちも皆大丈夫だ。ゴクウとローズも一緒にいる」


レイン「なにが起きたのかしら?」


相変わらず外の方は真っ暗で雷のような物が落ち続ける音がしている。サクラはライトで部屋の中をグルっと照らすと入り口の扉の方は瓦礫に埋まっていた。


ヘンゼル「この部屋に閉じ込められたみたいだな、外の様子もわからないし今はここにいる方が良さそうだ」


ピーター「あぁ、そうだな・・・」


生徒会室で外の様子を観察しながらサクラとレインは脱出できそうなところが無いか探していた。


レイン「うーん、やっぱり出られそうなところは今のとこなさそうね」


サクラ「あ、そうだわ!!・・・・」


サクラが思い出したように言いかけると、それを遮るような雷音と共に真っ黒な闇を纏った煙のような物が外から入ってきた。その煙は部屋の中で一つの塊になると、纏っていた闇が晴れてゆき、中から人が現れた。

それを見たヘンゼルは驚きで目を見開いた。


ヘンゼル「おまえっ・・・?グレーテ?」


入ってきたのはヘンゼルの双子の妹グレーテだった。


グレーテ「ヘンゼル、無事だったようね良かったわ」


ヘンゼル「お前、今どうやって入ってきた?」


ヘンゼルはいつもの冷静な、それより少し冷たい感じで警戒するように続けた。


ヘンゼル「助けに来たってカンジじゃないな、どうゆうことだ?」


奥で出口を探していたサクラとレインがやってきた


サクラ「あらグレーテ?どうやってここに来たの?」


声をかけられたグレーテは、サクラに手を振り微笑みかけるが、すぐに真剣な顔つきでヘンゼルと見合った。ヘンゼルとグレーテのただならない雰囲気にサクラはヘンゼルを覗き込む。


 ヘンゼルはここ最近グレーテの様子がおかしかったことを思い出していた・・・。

人見知りで友達が少ないグレーテにとって風の塔の巫女タオは幼いころからの大親友だった。

代々祈りの塔の巫女を出している家に生まれたタオは、12歳で巫女に志願し試練を受ける事ができた優秀者だった。そして13歳の時に風の塔の巫女に選ばれ塔に入った。


 ゼノテイルの祈りの塔には伝説があった。今は平和なゼノテイルにも大昔は戦いや争いが絶えなかったという。

このゼノテイルは最初は一つの国で、人々が平和を求めながらも争い戦っていた。しかし人々の努力で争いや戦いを無くし平和になりかけた。が、その平和は闇の女王によって破壊されかけていた。その時、光火砂水森風の各地にいた6勇者が集まり闇の女王と戦ったが、強大な力を持つ闇の女王を倒すことができなかった。そして彼らはゼノテイルを6つに分け国を作り、各国に祈りの塔を建て巫女を置き、その巫女の力で闇の女王を封印したのだ。そして現在の平和は、今も各国にある6つの祈りの塔で、日々祈り続ける巫女達によって保たれているのだった。

祈りの塔は、ゼノテイルとは切っても切れない平和の象徴になっているのだが、年々塔の封印の力が弱くなってきているらしく、現在の祈りの巫女達の中には3年以上も塔から離れられない者もいた。そのためグレーテは、「いつかタオとも会うことができなくなってしまう」と気にしていたのだ。


 数日前の食事の席でグレーテは父である風王に言った。

グレーテ「お父様、いい加減タオが可哀想だわ。ゼノテイルは平和と平等なんでしょ?あれじゃ巫女たちには自由な選択もないじゃない!」


風王ヴァン「タオを思う気持ちはわかるが今は仕方ないんだ、巫女がいなければ闇の封印が解けてしまう」


グレーテ「仕方ない?そんな簡単に切り捨てないでよ」


そう言って出て行くグレーテを風王は心配そうに見つめた。


その日の夜遅くに、風の塔に向かうグレーテを見かけたヘンゼルは静かに後を追った。

グレーテは風の塔に着くとタオのいる部屋に向かって


グレーテ「もう少しだからね待ってて、タオ・・・」


とつぶやいていた。


 あの日のグレーテの言動を思い出したヘンゼルは問いかけた。


ヘンゼル「あの光の塔を壊してここを闇にしたのはお前なのか?」


グレーテ「まぁね。私はゼノテイルのすべての塔を壊して巫女を解放するわ」


ヘンゼル「そんなことしたら闇の封印が解けてしまうだろ!」


グレーテ「いつまでも祈りの塔に頼っていられないのよ。それに闇を開放してあげたら闇の女王は味方になるって、そうすれば問題は無いってハイド先生が言ってたもの」


ヘンゼル「ハイド先生が?闇の女王を味方につける?何馬鹿なことを言ってるんだよ」


サクラ「グレーテ・・・そんなこと・・・闇に落ちた者が味方になるなんてありえないわ」


部屋の中まで入ってくる闇の力を感じたレインが割って入る


レイン「ヘンゼル、サクラ、今はそれどころじゃないみたい。だいぶ闇が深くなってきてるわ、とりあえずあの闇を抑えないと飲み込まれてしまうわ」


ヘンゼル「グレーテお前との話はあとだ。サクラ、これを抑えることはできそう?」


精霊だった火の巫女ハナを母に持つサクラは、闇を弾く【精霊の力】と、物語の『かぐや姫』が使うことができる光の魔法【月光の力】の2つの魔力を持つ。【精霊の力】と【月光の力】を合わせると魔法陣が使えるようになり、闇を抑えることもできる。


サクラ「力を拡大してくれる精霊のコハクとルリがいないから封印は厳しいけど、抑えるくらいなら私一人でも大丈夫よ」


そう言って窓側に立ち両腕で大きな円を空に描いた。その円を実体化しようと力を注ごうとした瞬間、その両腕をピーターが抑えた。


サクラ「え?ピーター?どうしたの?」


ピーター「サクラ、ごめん・・・封印はさせられない」


サクラ「ちょっと離して、このままじゃここにいる皆が闇に飲み込まれてしまうわ」


ヘンゼルたちの方を見るとゴクウとローズが闇の輪でヘンゼルとレインを拘束していた。


レイン「闇の輪?あなた達こんな物どこで?」ヘンゼルはグレーテを睨みつけた。


グレーテ「ヘンゼル悪いけど、その3人もハイド先生の賛同者よ」


ゴクウとローズは申し訳なさそうに下を向いている。


ヘンゼル「ピーター、何を考えているんだ?サクラを離せ!!」


ピーターは「わかった」


ヘンゼル達に戦う意思が無いことを示すために両手を挙げて見せた後、ヘンゼルとレインのところにサクラを連れてきてサクラの体と手足に闇の輪をかけた。そして、ピーターは話し始めた。


ピーター「ヘンゼル申し訳ないが、オレも今の祈りの塔の制度には反対だ。ハイド先生の話を俺も聞いた。確かに闇の解放は危険を伴うがきちんと処理をすれば問題ない、そうすれば巫女たちを解放もできるんだ。オレはこの方法でマリを救いたかったんだ」


レイン「マリって確か体が弱くて重い病にかかってるって子でしょ?それでも頑張って巫女になったって『悲劇の巫女』なんて呼ばれてたよね。・・・って、その光の塔は今さっき攻撃されたじゃない、中にマリがいたんじゃないの?」


ピーター「光の塔は確かに破壊されたが、その前にマリは脱出して、安全な場所に避難させる手配をしてあるから大丈夫だ。光の塔が無くなったおかげでマリも巫女から解放された。あとはサクラをしばらくここに拘束できればいいんだ、それがハイド先生との約束だ」


サクラ「ねぇピーター、ハイド先生のような人が、塔の巫女達への情に流されてそんなことするとは思えないんだけど?」


ピーター「塔を無くしても平和を保つことが可能だと、ハイド先生は証明したいんだよ」


レイン「ばかなの?要するに、『祈りの塔のシステムはゼノテイルの平等に反して不平等を作っている。だから祈りの塔を破壊して巫女を救う、塔を無くしても平和を保てるように闇の女王を解放してその力を利用してこの世界を変革する』ってゆうハイド先生の話を信じて、闇を使う側に協力しているっていうことよね?」


とレインは嫌味っぽく言葉を放った。それに対しピーターはうなずいて、


ピーター「なかなか理解できないかもしれないだろう・・・でも可能性に掛けたいんだ!!だから、お前たちも一緒に・・・」


ピーターが最後まで言わないうちにヘンゼル、サクラ、レインは声をそろえて


3人「「「NO(だ!)(よ!)」」」


と答えヘンゼルが続けた。


ヘンゼル「冷静に考えればわかるだろう、闇の女王が都合よく動くとは思えない。それにハイド先生がそんな馬鹿な話をするわけないだろう、その人物は本当にハイド先生なのか?」


ハイドは風の国出身の研究者である。理論的で真面目な教師であることから『闇を味方につける』なんて妄想を言うことがヘンゼルには信じられなかった。

 グレーテはやれやれと呆れたようにピーターに向かって


グレーテ「だから言ったでしょ、頭の固いヘンゼルはもちろん生真面目なサクラもレインも断るって」


ピーター「それなら仕方ない、しばらくここに居てもらうさ。元々オレたちの役目はサクラが闇を封印できないように抑えることだしな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る