ゼノテイル♯1~闇の女王~
虹桜
第1話 ゼノテイルワールド
ここはゼノテイル、異なる物語が折り重なる世界・・・、
様々な童話の登場人物たちが休息を取り、自由な暮らしを選択することができる世界。
あの有名な悲しい物語の主人公マッチ売りの少女は、このゼノテイルでは、大きな屋敷に住み何不自由なく、夢のような楽しい毎日を送っている。怖い魔女で有名なマレフィセントは、実はとても優しい女性で、親友の白雪姫とケーキの美味しいカフェを開き、このゼノテイルで出会った青い鳥のチルチルと結婚し、三人の子供に恵まれ幸せに満たされた日々を過ごしてる。
『ゼノテイル内ではどんな差別も争い事も許されず、そのルールを破り重罪を科された者は、ゼノテイル追放や北にある灰の山の窪みで浄化される』と言う厳しい罰則がある。しかしその罰を受けた者は長い歴史の中で数回ほどだ、それは光火風水砂森6つに分かれた各国の歴代の国王たちが協力し合い、常にゼノテイルの平和のために追力していること、各地にある祈りの塔の巫女たちがゼノテイルの平和たのめに闇を浄化し祈り続けていてくれるために、ゼノテイルの人々は争い事も無く、自由な選択と平和で平等な生活を維持できている。
ゼノテイルは6つの国から成っており、都心部は北側に位置し「光の国」と呼ばれている。
西洋の古い城下町風の街並みだが、首都ということもあり町には老舗の高級商店街や高級飲食店などが立ち並び、各地のセレブ達がショッピングに集まり賑わっている。そして、この光の国には様々な年代の子供が、自分に合った勉強をするために通うストラナ学園がある。
北西には「森の国」がある。木々に覆われ緑が豊富な場所で、ここには闇を浄化する灰の山もある。酪農や農業を主とする働き者たちが国を支えている。
西南には「砂の国」、灼熱の砂漠の中の岩山の連なる場所にあり様々な種類の鉱石や鋼鉄が採取できる鉱山が豊富だった。採掘業が盛んで一獲千金を求めて冒険者が集まる場所である。
南には「水の国」、きれないな珊瑚礁の海があり、水中都市やショッピングモール、アミューズメントパークがある。小さな島々が点々としていて、観光やマリンスポーツができる若者たちに人気のリゾート地になっている。
東南には「火の国」、和の町並みで屋台がたくさん並んでいる日々お祭りのように賑わっている町。火の国の奥地には精霊の生まれる万年桜の咲くヨウエンがある。
北東には「風の国」、ここにはポートルームがあり科学者や研究者がポートルームの研究や、闇の精霊の調査をしたり、また近代的な建物の中に研究室を作り様々な便利道具を作り出していた。
そして、ゼノテイルに来た者は、この6つの国から住む場所を自由に選べるようになっている。
この世界に来る方法はいくつかある。もっともオーソドックスな方法として、ポートルームと言う大きく広い図書館のような場所から入国する方法。
広いエントランスにはポツンと受付台があり、巨大な壁にある小さな本が光を放つと、受付台の向かいの扉が開き、物語の登場人物がやって来る。
物語の登場人物達は長期間その物語の役をこなし、その物語から休息を取りたくなった時に扉は開き、ポートルームに来ることができる。
登場人物が抜け出した物語の本は、2種類に分けられポートルームで管理されている。
管理の一つ、物語の欠けた登場人物がすぐに補充され、元通りに物語が展開される、通常の本は生きた物語として『カラーブック』と呼ばれる。
もう一つは、登場人物が欠けて、止まってしまったモノクロの本を『ブラックブック』と呼ぶ。
また、ゼノテイルの外の世界、童話や物語を作り出す創造主の住む現実世界を『リアムンド』と呼んでいる。
そしてこの広いポートルームを管理しているトン、チン、カンの3人、元々は三匹の子豚の姉妹だった。彼女たちはポートルームに来た者達がゼノテイルでどのような暮らしをしたいのかの希望を聞き、各地へ振り分けたり、別の物語への移動の手伝いや案内、管理などを担当している。
更に特殊な仕事として、ごく稀に物語の登場人物で無い者が時空の隙間から迷い込んでくるが、ほとんどの異者はトン、チン、カンによって記憶を消されて元の世界に戻される。
また、ゼノテイルで生まれる者もいる。それはゼノテイル内で結婚した父母の間に生まれる者。
そして、火の国の奥にあるヨウエンで精霊として生まれ変わった者。精霊自体は体を持たないが特殊な場合や、物語の登場人物を受け継ぐと人になる事ができる。
ゼノテイルでは、人、人狼、鬼、獣人、人魚のほか、妖精や幽霊と言ったものでも姿形に関係なく、実体があるものは人と呼ばれる。
精霊は基本的には実体を持たず光の玉であるが、稀に強力な力を持って生まれた精霊や、人と契約した精霊は、実体化し人を助けたり自由に行動することができる。
また精霊との契約は契約者と精霊の間で対価を自由に決める事になっている。このような形でゼノテイルには平和と自由を求め様々な人々が暮らし、日々入国してくる。
そして今日もまた・・・。
天井が見えないくらい高い本棚の壁に囲まれたポートルーム、パァっと一部が光ったかと思うと、奥にある扉が開き1人の女性がおどおどした様子で真ん中のテーブルに座るトンの前に来た。
トン「いらっしゃいませ、こちらの入国名簿にお名前をお願いします。」
女性が入国名簿にアースラと書き込むとトンはそれを確認し、
トン「『人魚姫』のアースラ様ですね」
アースラ「ええ、そうよ。あの、ここに来れば私のような者でも平和で幸せな暮らしができますか?」
トン「もちろんです。アースラ様のご希望に沿う形で暮らせるよう、お手続きさせて頂きます。ご希望はゼノテイルへの入国でよろしいですか?」
アースラ「お願いします。それと、いままでずっとしたくも無い意地悪ばかりして怖がられて生きてきたから、本当の私らしく静かに過ごせるような、できれば田舎で農作業とかやりながら穏やかに暮らしたいのだけど…」
トン「かしこまりました。ここは自由に選択できる世界です。そうですね、アースラさまの願う形でしたら、ゼノテイルの北西にある森の国はどうでしょう?まわりは緑豊かで酪農や農園を中心に暮らしています。近隣の皆様は穏やかで優しい方ばかりですから、和気あいあいと一緒に畑仕事をしながら楽しく生活できると思いますわ」
アースラ「そうね・・・あっあの、それと・・・私がいなくなった人魚姫の世界はどうなるの?黙って出てきてしまったから、残してきた皆に申し訳なくて・・・」
トン「ご安心ください、登場人物の抜けた物語は新しい登場人物が現れるまで時間が止まります。止まった物語は、ゼノテイル内の図書館やこのポートルームで、中の様子を定期的に調査、管理し、物語の中の方々の安全にも配慮しております」
アースラ「そう、安心したわ。それでは森の国を一度見学させていただいてよろしいかしら?」
トン「もちろんでございます」
トンは奥でハシゴに上って本棚の整理をしているチンに向かって。
トン「チン、アースラ様を森の国にご案内して差し上げて。アースラ様がお気に召したようなら、早急に森の国で入国と居住手続きも済ませて来て下さいね」
チン「はーい、ではアースラ様こちらへどうぞ」
そう言ってチンはアースラを連れ受付の後ろにある扉から出て行った。
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