第10話
「最近、そと呑みしてないよねー」
「ハハハ、まぁこのご時世ですから」
テレビ会議の合間に上司がため息とともに呟いた。いや脈絡はあったのだ。予算は縮小の一途をたどる接待費だとて気を使う一献、そこから開放されて帰りに引っ掛ける本当の一杯をここ数年、本当に味わっていない。
自宅だけに定時の晩酌は保障されているものの、店先を巡る楽しさも無い。ここは串焼きだ、今度は鶏肉を揚げる音がする……と。冷蔵庫に特別なものがあるわけじゃあ、ない。
「さて、次の事案だが……」
会議は続く。だけど、頭の中は自宅では食べられない酒の肴が次から次へと浮かんでくる。
たとえば大根おろし、口に入れるのはスルスルと入る。だけど皮を剥いておろし金でガシガシやると普段鍛えていない腕が、つる。
ネギを刻んでみようか、一度には使いきれずに三日忘れて若干、しおれる。
一事が万事、そうなっていく。外食は高いというが、必要経費と思うべきだ。立ち飲み屋でいい。生を二杯に一品か二品。三〇分でさっさと帰る。このスタイルが忘れがたく行きたいという衝動が時折、おこる。
「おーい、きいてるか」
「あ、ひゃい! 回線が……」
現実にひき戻れた。
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