第7話 熱は伝播する
「はぁ……はぁ……」
意識が朦朧とする中、ほんの少しヒンヤリとした手に支えられて放課後の保健室へ運ばれた所までは覚えている。そこから先は学校に親が迎えに来るまで寝ていたらしい。
目が覚めたのは自宅の自室。
熱っぽさはまだ残っているけどだいぶんマシになった。服装は部屋着に着替えている事から、お母さんがしてくれたのだろう。起き抜けの私はお腹が鳴く音で夜ご飯を食べていないのだと気づく。
「……お腹すいた」
時刻はまだ夜の9時。
随分長く寝ていたような気もするけれど体調不良の時は時間が長く感じる不思議。
「ふぅ……まだ関節が痛いや」
どうやら相当熱が高かったらしく体の節々が悲鳴を上げている。それでも空腹の方が勝ってしまうのもまた不思議。
「……お母さん。お腹すいた」
リビングの明かりが灯っていたので入るなりそう声をかける。そこには案の定お母さんとお父さんがチョコレートを食べながら楽しそうに話していた。
「お父さんおかえり。ごめんね出迎え出来なくて」
「ただいま
サラリーマンの父はだいたい8時頃に帰ってくる。なるべく家族皆でご飯を食べる習慣の私達は自然と仲が良かった。
「さっきよりいいかも。でもまだ熱っぽい」
お父さんは心配そうにしながら私のおでこに手を当ててくれる。
「ふむ。確かに熱いな……明日も学校を休むといい」
「うん……そうする」
1日で治る類の熱じゃなさそうなのでお父さんの言うように明日も休む事にしよう。お母さんはキッチンへ行き、夕食の残りをお粥にしてくれてるみたい。
「……ねぇ雛」
「なにお母さん」
土鍋がグツグツ煮えている。
「……鴒くんってどんな子?」
「ゴホッゲホッゴホッ」
顔がグツグツ燃えていく。
「大丈夫かい雛? 無理してないかい?」
お父さん、今気にする所はそこじゃないと思う。
「な、なんの話かな……お母さん」
疑心暗鬼な私は精一杯誤魔化そうとするけれど話は私の想像の斜め上を行っていた。
「私が学校に雛を迎えに行くとね、真っ先に男の子が走って来たのよ」
「…………」
黙って聞こう。今喋ったら墓穴を掘ってしまう。
「てっきりハナちゃんが診てるんだろうなって思ったんだけど……まさか男の子とはねぇ」
落ち着くのよ雛。まだ何も事件は起きてない。
「そしたらその男の子が”
鴒くん……アウトです!
「それからお母さん鴒くんと色々話たわぁ。いやぁ高校生男子ってあんなに純情なのねぇ……私はてっきり若いエネルギーが弾けてるものだとばかり」
「か、母さん?」
お父さん……その反応は正解です!
「お母さんっ! 何か変な事言ってないなよね? よね?」
具合が悪いのも忘れて母親に言い寄る。しかし当の本人は何も言ってないと言う。
「はぁ……それならよかっ……」
「あっ! でもでも、鴒くんが親御さんと一緒に謝りに来るって言ってたわ」
「………………はい?」
もう一度ゆっくりお願いします。
「雛ちゃんが風邪を引いたのは自分のせいだから責任を取りたいって。だから菓子折り持ってウチに来るのよ」
風邪をひくのに責任なんて、娘の自業自得もあるんじゃないかって言ったんだけど、と母さんは続ける。
「でも、あんなに真剣な瞳で見つめられたら……母さん……ポッ」
私の熱は本当に風邪なのだろうか?
この親にしてこの子あり。
真の恋敵は身近にいた。
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