治安が壊滅的な街に生まれ育った少年の、幼少期から中学の頃までのお話。
現代ファンタジーです。登場人物の名前や生活様式等は現代日本そのままでありながら、治安だけが異様なまでに悪化した社会(街)を舞台にした掌編。ただ淡々と過去を並べるかのような形式で、この語りの無機質さそのものが、作品世界を表現しているところが魅力的でした。
身近にはありえないレベルの無法地帯、と言っていいと思うのですが、しかし世界のどこかにはこれくらいの(あるいはそれ以上の)スラムもあるのだろうなあ、と思うと、なんともやるせない気持ちになります。
あるいは、作中に描かれるひどい出来事の、そのひとつひとつを個別に見たなら、こういう目に遭っている人もいるはずのお話。今の私たちはたまたま「こうではない」だけで、きっと地続きなのだと思わせてくれる作品でした。