第17話 発注と両替
翌朝。起きてすぐ作務衣の上に半纏を羽織ってわくわくしながら喫茶室へ転移すると、キッチンにコンテナが置いてあった。
「おおっ、届いてる!」
コンテナの中には、昨夜『発注』した物が入っている。食パン、レタス、トマト、卵、苺、りんご。全て日本産で、日本円で支払った。
売店も喫茶室も価格表示は日本円のみだ。
まだ日本円の貯金に余裕があるし、魔法に夢中になってアプリの『両替』機能のことをすっかり忘れていたけど、円を新たに手に入れる手段は両替しかない。いずれ円の貯金が底を突けば両替しなくてはならない。
そこで昨夜、試しに1000ゼニーを円に両替してみた。
すると、アイテムボックスに入れていた銀貨が1枚消えステータスの所持金欄と家計簿のゼニー残高が1000ゼニー減り、日本円の残高が500円増えた。
えっ、こんなレート? 手数料?
ニドゥ町の平均的な食堂のランチ2食分のゼニーで500円。
物欲無いし稼ぎはそこそこでいい、とか思ってたけど、やっぱりゼニーはいる。
(今日の朝食は久しぶりに卵かけご飯にしよう)
こちらの卵は菌が怖くて、生卵はずっと食べていないから。
喫茶室の発注画面は売店の画面とほぼ同じだ。売店と違うのは品揃え。喫茶室の方には生鮮食品や業務用冷凍食品、キッチン用品等がある。
ただ、どうやら発注できるのは喫茶室で使われている品だけのようだった。
例えば食品だと、納豆や蕎麦、
この喫茶室は温泉宿の宿泊客と日帰り入浴客が利用するくらいで、食事がメインじゃないからな。
種類が少ないのは残念だけど、品種改良された農産物や馴染みの食品が手に入るのはすごくありがたい。特に今は冬だから、新鮮な野菜や果物が不足してたんだ。
次に確認するのはパントリーだ。
「あー、やっぱり補充はなしかー」
缶詰がストックされていたスペースは空いたままだ。
宿代に含まれるティーバッグとは違うもんね。欲しい物は発注してお金を払って手に入れるとしよう。
次は、昨夜あえて放置していた汚れた食器やテーブル等を確認する。
「きれいになってる」
食器や鍋は棚に片付けられ、シンクやテーブルに汚れはなく、ゴミ箱は空になっている。ふきんやランチョンマット等のリネン類も新しい物に交換されていた。
喫茶室も掃除してもらえるみたいだ。キッチンの後片付けが不要なら消費MP増くらい安いものである。チャラ男神にしては気が利いている。
朝食はカウンターで食べた。卵かけご飯ってこんなに美味しかったっけ。
デザートはりんご。異世界にもりんごはあるけど、日本の品種の方が何倍も美味しい。
食後は電動コーヒーミルで豆を挽き、ハンドドリップでコーヒーを入れた。水はパントリーにたくさんあった軟水のミネラルウォーターを使った。
(いい香り。挽きたては香りが違うな)
窓際のソファに座って、歌詞にコーヒーマシンが出てくる有名な映画音楽を聴きながらコーヒーを飲む。
音楽がここを異世界と切り離してくれる。
歌声に聴き入っていると、視界の隅で何か動いた気がした。
窓ガラスの向こうにこちらを覗き込む小さな白い動物が。
目が合って、お互い固まった。
(…オコジョ?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます