第18話 オコジョ(仮)

「……」

「……」

 見つめ合う私とオコジョ(仮)。


 曲が終わった。

「あっ」

 音が止むと同時にオコジョは身を翻し、森へ消えた。慌ててマップを開く。


 現在地周辺にマークは表示されなかった。

 現在マップに表示される生物は、人間(こけし形、通常は青、危険人物は赤)、危険生物(三角形、赤)、狩りの獲物(コイン形、黄色)だ。人間以外の無害な生物は表示されない。


 離れと同様に、ここにも危険生物は近付けないんじゃないかと思う。


 喫茶室が入っている建物は、離れの玄関からは木々が邪魔で見えなかったが、日本で本館が建っていたであろう位置にある。

 マップには喫茶室が開放されてから現れた。現在は喫茶室以外の場所に立ち入ることはできない。

 そのうち、大浴場が開放されてほしい。だって私、大浴場に入る前にチャラ男神に異世界送りにされたからね!


(さっきの子、可愛かったなぁ)

 真っ白な体、丸い耳と黒いつぶらな瞳。

 また来てくれないかな。


 ◇◇◇


 10時をだいぶ過ぎた頃、サントロ町の冒険者ギルドにミラがやって来た。


「モモ、久しぶりー」

「ミラ、久しぶり。良かった、会えて」


 町の人は鐘の音で時刻を知る。鐘が鳴るのは朝6時から夕方6時まで3時間毎。時計や手帳を持つ人は少ない。

 元々定刻に来ると期待していないから遅刻にイライラすることもないけれど、スマホ無しでの待ち合わせは不安だ。


 今日のミラは髪を下ろしスカート姿で、冒険者には見えない。私も似た格好だ。

 

「町の案内は私に任せて。行きたい所とか買いたい物とかある?」

「ありがとう。町庁舎と教会は昨日見たから、お店を教えてほしいな。毛糸を売ってるお店と、あと美味しいパン屋さんとか」


 喫茶室に編み物の本があったから編んでみたくなった。欲しいのはマフラーと帽子、上達したらセーターやカーディガン、手袋も。


 手芸用品店では編み棒と、一番手触りが良かったベージュの毛糸を買った。結構高かったが、領都で買うより安いと店員さんに言われてまとめ買いしてしまった。

 昔マフラーは編んだことあるから全くの初心者ってわけじゃないし、大丈夫。きつく編みすぎてすごく固いマフラーだったけど。

 ……挫折したら毛糸は領都で売ろう。


 12時の鐘が鳴り、ミラの行きつけの食堂に連れて行ってもらう。

 裏通りの小さな店だ。お客さんで賑わっている。テーブル席に座り日替わりのランチを注文した。500ゼニーを先払い。


 ミラが両手を擦り合わせている。私は軍手をしていたけど、ミラは手が冷えてしまったみたいだ。


「これで手を温めて。お湯だから」

 ミラの前に温泉ボールを浮かべた。

「わ、お湯も出せるんだ。ありがとう、温まる〜」

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