第14話 物欲

 HPが回復しなかったミラを魔物避けがある街道まで送って、彼女とは別れた。

 倒した魔狼は2頭ずつ分けた。途中から助けに入った場合の取り分は貢献度によることが多いらしい。でも余計なお世話って場合もあるし、トラブルを避けるため次からは助けが必要か確認してから戦闘に加わった方がいいと助言された。


 ミラは他にも色々教えてくれた。どうも私を世間知らずのポーション詐欺被害者(14、5歳)と思ったらしい。こちらの常識を知らないのはそのとおりなのでありがたい。


 24歳と告げたら驚いていた。ちなみにミラは18歳。

 こちらに来てから、全回復温泉のおかげで肌トラブルとは無縁だ。お肌がツヤツヤで毎朝気分がいい。

 温泉宿の売店には宿泊客向けの化粧品が最低限揃っているが、使っているのは化粧水、保湿液、日焼け止めとリップクリームくらい。

 10代に見えるのはこの若返った肌のおかげだろう。あとは身長とか…胸とか。



 ◇◇◇


 こちらの世界に来て約一か月。新しいブーツを履き、カイロを腰に当て、転移を繰り返しながらサントロ町に向かっている。


 ニドゥ町〜領都ゴタル間の街道には乗り合い馬車が走っているが、利用する気はない。だって、トイレ休憩どうしてるの?


 この辺りの平地はあまり雪は降らないらしいが、冬の間は晴れた日に少しずつ進もうと思っている。

 別に急いで商人にならなくていい。冒険者としての稼ぎでも食べ物や安い衣類くらいは買えるし、たまに外食を楽しむ余裕もある。宿代と光熱費はMPで賄える。


 温泉宿ポーションで大儲け計画がボツになった時は意気消沈したが、儲けても今のところ買いたい物は防具だけだな、と気付いた。

 ニドゥ町が小さい町だからかもしれないが、物欲を刺激する店がないのだ。


 ニドゥ町の防具屋で商品を見せてもらったのだが、革製は匂いがきつくて、金属製は重くて無理だった。

 その店には在庫がなかったが、魔物の殻や鱗を使った防具は軽いそうだ。非力な魔法使いは特殊なローブを着ていたりもするらしい。まあ、お高いようなので当面は買えない。

 どうせ遠距離攻撃しかできないし、格上の獲物を狙う気はない。危険生物接近アラームが鳴ったら転移で逃げるので、防具は無いなら無いでもいいかなとは思っている。


 道具屋は面白い。何のための道具かわからない物や、昭和家電みたいな物が並んでいる。

 でも温泉宿の売店と貸し出し物品で事足りているので、買いたいってほどじゃない。


 本屋にも行ってみたがいまいちだった。領都に図書館があるといいんだけど。


 目覚ましのアラームに起こされることもなく、時計もスケジュールも見ない日々。


 素晴らしい。ただし娯楽はない。


 ◇◇◇


 ミラはサントロ町を拠点にしている。あの日は初めてのソロ活動だったそうだ。これまでは恋人を含む4人で組んでいたが、相手が浮気をしたのでパーティを抜けたとのこと。

 ソロはやはり危険なので良かったらお試しで組んでみないかと誘われたが、領都に行く予定だからと断った。

 断っても気分を害しはしなかったようで、サントロ町に着いたら彼女が町を案内してくれることになっている。

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