第13話 冒険者ミラ

 次の目的地、サントロ町はニドゥ町の南。

 道には魔物避けが施してあるので、狩りをするためにあえて迂回し山の麓を進んでいる。麓にいるのは弱い魔物で、強い魔物が出ることはあまりないらしい。


 サントロ町には、ブーツを受け取ってから入るつもりだ。

 靴はオーダーメイドなので、前金が貯まってすぐ注文した。靴屋の職人は私の長靴を見て素材は何だと食い付き、知らないとの返しにがっかりしていた。

 こっちにゴムってないのかな。魔物素材で似たようなのありそうな気もするが。


「ん?」

 マップを見ると、300m程先で青い人間マークをコインマーク4つが囲んでいる。


 マップは、危険生物の他に人間も表示するよう変更してある。人目を避けて転移するためだ。

 人間はこけし形のマーク(危険人物は赤、通常は青)、危険生物は赤い三角マーク、狩りの獲物はコインマークにしている。


 助けは不要かもしれないが、一応確認することにした。



「ぐっ!」

 女の子の足に魔狼が噛みついている。

 私は慌てて温泉ジェットで魔狼の背中を切りつけ、魔狼が女の子の足を離したところで、温泉水饅頭でその頭を包んだ。


 ◇◇◇


「ありがとう、助かった。私は冒険者のミラ」

「モモです。冒険者になりたてです」


 魔狼のうち2頭を私が温泉水饅頭で、2頭をミラが剣で倒した。

 ミラはオレンジに近い茶髪に茶色の目。長い髪を一本の三つ編みにしている。年齢は20歳前後かな。


 ミラは足の傷にポーションを掛けている。ポーションは飲めば体力が回復し治癒力を高め、傷に掛ければ傷口が塞がる。


「体力を使い果たしちゃった。今ので手持ちは最後なの。予備のポーションがあれば売ってもらえない?」

 私の手持ちは温泉宿ポーションしかない。剣士ならMP回復効果はわからないだろうから、あげても問題ないか。


 魔法を使える人間は少ないらしい。それに、ゲームみたいに能力を数値化する魔法や技術はない。ポーションを飲んでも私みたいに何%回復ってわかるわけじゃなく、感覚的に力が戻ったと感じるだけだ。


 温泉宿ポーション、こっちの人の反応も見たかったからちょうどいい。


「どうぞ」

「? これポーション? 透明だけど」

 普通のポーションは緑色だ。売るなら着色した方が良さそう。


「試作品らしいので、試飲ってことでお代は結構です。毒見に私一口飲みますね」

 よくわからない物を口にするのは抵抗があるだろう。少しコップに注いで私が先に飲んでみせた。


 残りの温泉宿ポーションを受け取って飲んだミラが首を傾げる。

「これ失敗作じゃない? 回復した感じがしない」

「え?」

 そんなはずはない。少し減っていた私のHPとMPは今の毒見で全回復した。


 先日検証したところ、温泉宿ポーションの回復量は、市販のポーション瓶一本の容量で、私のHPとMP共に50%だった。ナイフで付けた傷も治った。


 ミラの手の甲に擦り傷があったので、もう一本開けて傷に掛けてみる。

「……」

「……」

 変化がない。


(…温泉宿ポーションは私にしか効かないってこと? 売れないじゃん…)

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