第3話 衣食住

(おやつにしよう)

 食べ物を手に入れる手段が見つかったので、ひと息入れることにした。

 この異世界転移という事態からいったん逃避したい。


(部屋に置いてある飲み物は、緑茶、ほうじ茶、紅茶、コーヒー…)

 チョコレートはアイテムボックスに入れ、温泉宿のお着き菓子を食べることにする。栗餡のお饅頭で美味しそうだ。


 緑茶のティーバッグを湯のみにセットし、お湯を湯沸かしポットで用意する間に、小型冷蔵庫の中をチェックした。水、お茶、スポーツドリンクや、ビール等の酒類が入っていた。


「はぁ…。美味しい」

 趣のある和室で味わう和菓子と緑茶。旅先での非日常。

 …非日常っていうか、これは非現実的っていうか。


(日常には……戻れないんだろうな)

 元凶である神が無理と言っていた。

 

 美味しいお饅頭で小腹が満たされたので、お茶を飲みながら現状と向き合うことにする。


(水と電気、普通に使えてるな。助かるけど、どこから来てんの? 謎)


 日本で自分の扱いがどうなっているのか気になるが、スマホは圏外だし知る術がない。おそらくもう戻れない日本のことより、まずはここでの衣食住だ。


 衣類は、一泊二日分と、温泉宿の作務衣さむえ半纏はんてんが2セットある。靴はスニーカーと、温泉宿の下駄2足、スリッパ2足。鞄はリュックと斜め掛けのバッグ。

 売店には、種類は少ないが下着やTシャツ、靴下、靴の中敷き、雨合羽、長靴、防水スプレー、トートバッグがあった。


 食料は、持参したお菓子が少しと売店の商品、ルームサービスの料理。

 売店は、飲み物は種類が多いが、食べ物は品揃えが偏っていた。お菓子やおつまみ、カップ麺や味噌汁などのインスタント食品がほとんどだ。調味料は基本的な物は一通り揃っていた。容量が少ない商品で割高だけど。

 ルームサービスはすごく高いのであまり利用したくない。

 栄養のためにも節約のためにも、外で食料を探した方がいいだろう。幸い、マップと鑑定は使える。


 部屋には、オーブンレンジ、コーヒーメーカー、コップ、皿、箸、カトラリーがある。

 調理道具は大抵、温泉宿の貸し出しにあるようだ。レンタル代は無料。卓上IHクッキングヒーターや鍋、包丁、まな板などの他、バーベキューセットというのもあった。


 住居は、この温泉宿の離れ。水や電気が今後も供給されることを祈る。トイレはまだ使っていないが、下水も都合良く処理されてほしい。


(…まさか、売店での買い物みたいに、宿代が残高から引かれたりしないよね?)

 もし宿代を払わなきゃいけないなら、あっという間に貯金が底を突く。ここに長くは住めない。

 いずれにせよ、今晩は他に泊まる所もないし、宿代についてはいずれわかることだ。今はいい。


 周辺の探索は明日以降にする事にして、とりあえず今日は、部屋の物品と、売店、貸し出しの品揃えをもう一度確認しよう。


 それから夕食にカップラーメンとアイスを食べて、温泉に入って、お酒を飲んで寝る。


 当初の予定では、今夜は大浴場と豪華なコース料理を楽しむはずだったのにな。


 明日起きたら、変な夢だったと笑えるかもしれない。ハハ…。

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