第4話 送迎

 窓を開けると、朝の冷たい空気が入ってくる。

 温泉宿で目覚める5回目の朝。温泉宿のベッドは自宅のベッドより寝心地がいい。昨晩もぐっすり眠れた。

 日中森の中を歩いているせいか、夢も見ない。異世界転移は現実だ。


 朝食は、売店で買った栄養補助食品のシリアルバーとコーヒー。日本でも平日の朝食はこんな感じだった。


 日本の暦では10月下旬。ここの季節がどうなっているのかわからないが、日中の気温は日本と同じか少し高いくらいじゃないかと思う。


 外に未知の生物がいるかもと思うと怖くて、異世界初日の夜は内風呂にしか入れなかったし、2日目の朝は窓を開けられなかった。


 しかし2日目に異世界人アプリを色々使ってみて、マップの設定を変え、危険な生物の位置が赤い点で表示されるようにしたところ、温泉宿から半径50mの範囲内には侵入できないらしいと気付いた。

 温泉宿を中心にぽっかり空いた円。ここは安全だ。私は神に感謝した。が、すぐに奴が元凶だと思い出し感謝は取り消した。


 アラーム機能もあったので、危険生物が接近したら音が鳴るように設定して、早速2日目から円の外に出ている。

 集落がある西に向けて森の中を進みながら食材を取る。鑑定を使って、食べられる山菜やキノコ、果物などを取るのは楽しい。採取ポイントはマップにマークを入れたりして、それも楽しい。

 動物性タンパク質も欲しいが、狩りはもちろん釣りもしたことがない。温泉宿の貸し出しに釣り道具一式があったので、釣りには挑戦したいと思っている。


 この森には野生動物の他に、魔物がいる。

 サイズがおかしい虫や鳥が飛んでいたり、あり得ない造形や色の獣がいたりする。


 魔物であっても、私に危害を加える恐れがないものは赤い点で表示されないようだ。

 採取中に、風魔馬という風属性の魔物が数頭近くを通ったことあったが、赤い点は出ずアラームも鳴らなかった。

 風魔馬は、シマウマを大きくして黒い部分をミントグリーンに変えたようなメルヘンな見た目で、すごくかわいかった。

 魔物でなくても、熊や狼、毒蛇、恐らくだが人間でも盗賊なんかは赤い点で表示されるんじゃないかと思う。


 マップ上の赤い点を避けながら移動しているが、念のため、接近アラームが鳴ると同時に転移で温泉宿に戻る設定にしている。


 温泉宿への転移は、『温泉宿』メニューの中の『送迎』によるものだ。


 これは温泉宿の外に出て初めて表示された機能で、『迎え』を使うと一瞬で温泉宿の玄関に戻り、『送り』を使うと前回迎えを使った地点に一瞬で送られる。

 ショートカットできてすごく便利。

   

 避けまくっているので、まだ危険生物に遭遇したことはない。

 ナイフは持ち歩いているが、危険生物にナイフが届く距離まで迫られたらもう駄目だと思う。

 一応、攻撃手段として殺虫剤と一味唐辛子も携帯している。使えるか不明だが。


 MPがあるから魔法が使えるんじゃないかと、体内の魔力を探ってみたり、「ファイヤー!」と手を前に出して叫んだりしてみたが、何も起こらなかった。

 誰も見てないけど、恥ずかしかった。

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