第29話 寿司政が・・・
全速力で駆け抜けた僕が寿司政についたとき・・・・
玄関は全開で、扉は店の中へとばらまかれていた。
竜巻が、店を直撃したのだろうか。
そんな、ばかな感想が頭に浮かぶ。
そんなばかなことがあるか!
大将は?女将さんは?
店の中は壊滅状態。
が、人は、いないか?
閉店時間だったのだろうか、物は散乱するも、人的被害はなかった。
だったら二人も無事か?
僕はちょっとだけ、息をつく。
ガッシャーン!
そのとき2階の方から、何かが壊れる音が!
僕は、階段を駆け上がる。
2階に上がると、まずはその黒い塊が見えた。
天井にまで届く、黒い巨体。
猫背気味のその大きな体は、黒い障気を纏わせている。
アパートで遭遇したタールのように激烈な臭気はしない。
しかし、ビンビンと感じる存在の力は比べものにならない。
人型。しかし大きな胴に対して、長く細い手そして、手の半分ぐらいの長さの細い足。あの巨体を支えられるとは思えない体型。
それが何よりも強く存在を主張している。
その化け物の足下を見た。
僕は、頭が沸騰した。
足下には折り重なる大将と女将さん。
「何をやっている。」
今まで出たことのないような、低く冷たい声が、僕の口から溢れた。
そいつは、ゆっくりとこちらを見た。
首をまわしたが、そこに目も鼻も口もなかった。つるんとした頭。マンガのモデル人形みたいだ。
が、今の僕にはそんなことは気にはならない。
強そう?
ああ、だけど、許さない。
奴の周りの障気がギュッと固まって、一回り小さく、でも何か凶悪なものになるのが分かった。
僕は、きっと赤い目をしているんだろう。
牙も生えているかも知れない。
爪だって、間違いなく尖っている。
そうさ、おまえを屠れるように。
僕はひよっこだろう。
パパみたいに強くない。
おまえは強いか?
だが、やられてなんか、やらない。
そいつは、僕を見て歓喜した。
うまそう、よこせ、よこせ、力をよこせ・・・
生意気に僕をくらおうというのか?
反対にくらってやるよ。
僕は長く鋭くなった自分の爪を、ゆっくりと舐めた。
ギョアーーーー
そいつは、音にならない雄叫びを上げて、僕へと躍りかかってきた。
遅い!
僕は床を蹴って、奴の頭を飛び越えざま、長い爪を振るう。
◇*!!!
音にならない叫びを上げる化け物。
悲鳴を上げながら狂ったように、その長い腕を振り回す。
長くて細い腕をまるで鞭のように振り回すも、僕にはあたらない。
それにいらだってさらに狂ったように両手を暴れさせる化け物。
おい、何をする!
狂ったように振り回す腕は所構わず切り裂き、大将達のところにも迫った。
僕は慌てて、二人のもとへ飛ぶ。
間一髪、体をねじ込ませて、二人に覆い被さった。
バシュッ
化け物の腕が僕の背中を削る。
ッ!!!
背中が焼けるようだ。
僕を傷つけた化け物は歓喜の雄叫びを上げる。
その隙を見て、二人を倒れかけたタンスの後ろへ!
「ナ・ル・・・?」
その時、殺されている、と、思っていた大将が言葉を発した。
「大将!」
「ナル・・・どうして、・・・帰ってきた?」
「大将!」
「馬鹿だなぁ、何を泣いているんだ。変身までして・・・」
「あ・・・大将、僕、怖い?」
「ハハハ、何が怖い、だ?ああ、きれいだぞ。赤く輝いて、女神様みたいだ。」
「やだなぁ、僕、男だよ。」
「そうだったな・・・俺の自慢の息子だ。」
大将は息も絶え絶えにそんな風に話しかける。
その時、僕の頬を撫でる優しい手が・・・
女将さんが、息も絶え絶えに、僕にほほえみかけた。
「かわいい、ナルちゃん。ああ、八重歯もすてきよ。すてきなチャームポイント。あなたのかわいいところをもう一つ知れて、私は幸せよ。」
ケホッ、と血を吐く二人。
「もうしゃべらないで。絶対に助けるから。」
「俺たちはもうダメだ。いいか、ナル、よく聞け。おまえは優しい子だ。人間じゃなくても、誰よりも人間だ。だから自分を責めるな。自分を愛せ。俺たちが愛せなかった分もしっかり自分を愛してやれ。自分を愛せない奴が本当に人を愛することは出来ない。人に成れ。人に成ろう、そうやって名付けられたように、おまえは誰よりも人に成るんだ。人は一人じゃ生きていけない。いいか。自分を愛してくれる人をしっかり頼って、しっかり愛し返せ。俺が、俺たちが出来ないことを、おまえにしてくれる人をのがすんじゃないぞ。」
僕は、ただ泣きながら、頷くしか出来なかった。
大将も女将さんも、もうどうやって生きているか分からない状態で・・・
それでも、僕のことばかり心配して・・・
僕なんか、全然優しくないのに・・・
僕の周りの人はみんな僕より優しいのに・・・・
ああ、行ってしまう。
大将が、女将さんが・・・
僕にほほえみと愛を残して、
逝って、しまう・・・・
ああ、うるさい!
大切な時間なのに。
やめろ!
僕の背中を障気が打つ。
狂ったように、嬉々として。
何が嬉しい?
おまえの相手なんか、してる暇はないんだよ。
打つ、打つ、打つ・・・
いい加減にしろ!!
僕は、その鞭のような障気の手を、背中越しにがっしりと掴んだ。
そしてゆっくりと、そいつに振り向く。
僕は掴んだその手に力を入れた。ちぎれる障気。
ギャーーー!
そいつは悲鳴を上げた。
うるさい!
僕はやつに爪を振るう。
縦に、横に、斜めに。
振るっても振るっても、奴からは血が出ない。
ただただ障気が、障気のかけらが飛び散る。
タ・タ・タ・タ・・・・
どのくらい爪を振るったか。
突然、この均衡を打ち破る音。
誰かが階段を駆け上がってくる。
「ナル!」
走り込む黒い影が二つ。
なんだ、倫久と桜宮か。
邪魔をするな。
チラッとそちらをみた隙に、奴の腕が僕を襲った。
それは直撃し、僕ははじき飛ばされる。
「ナル!」
「ナル君!」
二つの影は、僕と化け物の間に飛び込んできた。
二人とも、キラキラと光る粒子をまとわせて。
同じく光る粒子でできた刀を構えている。
邪魔をするな。そいつは僕の敵だ。
そう思って、立ちあが・・・る・・・・?
あれ?立ちあがれない?
「ナル、無理はするな。おまえはもう限界だ。」
「ナル君、ひとりでよく頑張りましたね。後は任せて。」
言うやいなや、二人は刀で化け物に斬りかかる。
斬る度に、光の粒子に触れて消える障気。
目にもとまらぬ早業で、化け物を切りつけ、削り・・・・
あっという間だった。
僕が何回斬っても、飛び散るだけだった障気が簡単に消されていく・・・
あー、何だったんだろう、僕のやったことって・・・
「よくやりましたね、ナル君。あなたがここまで削ってくれたから、簡単に倒せましたよ。」
小さな塊になった障気を倫久に残し、涼しい顔でこちらにやってくる桜宮。
「おや?自分でやっつけたかったですか?でも、もう限界でしょう?」
そう言って、僕の前にしゃがむ桜宮。
「ふふふ、かわいい牙ですね。その爪、そして瞳。発する気といい、やはりそうでしたか。あなたは、ヴァンパイア、いえヴァンピールでしょうか。」
僕の胸がドクン、と鳴った。
コロサレル?
「あ、怖くないですよ。あなたを害するつもりはありません。あなたのご両親、どちらか分かりませんが、相当に上位の存在じゃないですか?」
・・・・
「天草四郎。」
僕は目を見開いた。
「やっぱりね。」
フフフ、そう言うと、桜宮は、立ちあがった。
桜宮が退くと、化け物退治を終えた倫久が、じっと僕を見ているのが目に入った。
いつも以上に冷ややかで感情を見せない目で、立ちあがれない僕を見ている。
ああ、僕を殺すのはこいつか・・・
まぁ、それもいいかな。
僕は、なぜか達観した気持ちで、そう思った。
僕を表情のない目で見た倫久は、その無表情のまま、桜宮の姿を目で追う。
桜宮は、大将と女将さんの様子を見ると、タンスの後ろから、畳の上へ、無残に壊されていない場所を選んで寝かせてくれていた。
二人を寝かせると、丁寧に頭を下げ、手を合わせている。
ああ、お葬式、出してあげれなかったな。
ごめんね。
でも、僕も今からそっちに行くよ。
倫久におとなしく殺されよう。
僕は、覚悟を決めて、倫久を見上げた。
倫久も、すでに視線は僕に戻していた。
僕は静かに目を閉じた。
・・・・・・
・・・・
?
僕はそおっと目を開ける。
倫久はまだじっと僕を見ていた。
「何をやってる。帰るぞ。」
え?
「なんだ立てないのか?ヴァンパイアのくせになさけない。さあ。」
倫久が、僕に手を差し出した。
・・・・
僕は、ゆっくりと、その手を掴んだ。
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