第28話 走れ!

 走れ、走れ 

  

 走れ!


 マンションを出ると、そこは見たことのある景色だった。

 出前であちこち走り回って3年。

 この町をしっかりと知れていたことを今ほど感謝することはない。


 走れ、走れ、走れ!


 僕をこの町で一番愛してくれているのは?


 瞼の裏に、ちょっといかついけど、暖かい大将の顔。

 優しげに、大将の横で微笑んでいる女将さんの顔。

 惜しげもなく僕に笑顔を向ける二人の顔がちらついている。


 ああ、3日も眠り込んで・・・

 ああ、きっと心配してる。

 碌な挨拶もなく、慌てて飛び出した、あの日。

 ちゃんと出前用のスマホを持たないか、と声をかけてくれたのに。

 あれを持っていれば、少なくとも居場所は教えれた。


 僕に対していっぱい思っている人が、あの二人ならば、

 今一番危険なのはあの二人じゃないか!


 ああ、無事でいて。


 何を慌てて帰ってきたんだ、と、ガハハと笑ってください。


 若い女、そんなことに惑わされてた。


 奴にとってのごちそうは、僕への強い思い。


 丸山だって食ったんだ。


 ああ、無事でいて。


 なんで、なんで、僕の足はこんなに遅い?


 車を抜いて、電車を抜いて、僕は一直線に走る。


 どうか、神様、二人を守って。


 僕は、本当のおじいさん、ママのパパが祈った神へと祈りを捧げる。


 ハハハ、だめだな。おじいさんは救われなかったじゃないか・・・


 ああ、パパ、ママ、どうか二人を守って・・・

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