第24話 報告

 僕は車を下ろされると、スマホを持って、店に戻った。

 今からでも仕事をするつもりだったけど、店は臨時休業をしていた。

 なんで?

 僕は閉まっていた鍵を開けて、中に入る。

 

 店は閉まっていたけど、上に上がると、大将と女将さんが、居間でくつろいでいた。

 「おう、帰ったか。」

 「ご飯はまだでしょ?」

 僕は、二人に

 「ただいま。ご飯はまだ食べてない。」

 と言った。

 「どうだった?」

 「うーん、怪しい人が見つかった。」

 「ほー、それはすごいじゃねぇか。」

 僕も座って、預かってきた写真を見せる。

 「おや、こいつは。」

 「知ってるの?」

 「2度ほど見たな。ナルと魚市場に行ったときと、正雲寺に行ったときだ。」

 「え、気づいてたの。」

 「まぁ、いやぁな目でおまえをみてたからなぁ。」

 「全然知らなかった。」

 「そりゃ、マリア様の加護があるからな?」

 「マリア様の加護?」

 「我が子が悪意にさらされませんように、幸せに愛されますように、と、産まれたナルに加護を願ったと聞いてるよ。悪意から遠ざけて、ナルが笑って過ごせるように我々がいるんだからな。」

 「マリア様って僕のお母さん?」

 「ああ、キリシタンには多い名だけどな。」

 「・・・そっか。あの人の言ってたとおりだな。」

 「あの人?」

 「桜宮っていう弁護士。幸徳井の顧問弁護士だって。」

 「ああ、あれか。桜宮って言えば、幸徳井の分家筋の一つだな。きっとそれは守人だろう。」

 「守人?」

 「本家の人間には、産まれた時にその子の少し上の子供達が守人としてつくらしい。まぁ世話係みたいなもんだな。将来的には、一人に絞られ、一生補佐として仕えると聞く。」

 「なんか、全時代てきだねぇ。」

 「まあ、古い家だしな。」

 「本家の子が成人するまでは、各有力な分家から一人ずつつくはずだ。成人と同時に、一人を選ぶ。まぁ成人と言っても15歳かなんかだから、今もくっついてるんなら、その生涯の右腕、というところだろう。」

 「なんか、わかんない世界だね。」

 「ああ。それで、その桜宮はなんと言っていたんだ。」

 「僕は、術かなんかで、視線をスルーするようになってるかも、て。」

 「さすがは幸徳井、簡単に見破るか。」

 「感心してていいの。」

 「まぁ、どうしようもないしな。それで、ナルはどうするか決まったのか。今後の身の振り方だが。」

 「うん。」

 「幸徳井の下に行くのか?」

 「ううん。なんかやっぱりあの人達にはついて行けない気がして。僕は、一度山に戻ろうと思ってるんだ。」

 「山?しかしあそこは・・・」

 「危ないかも、とは思うよ。でももう100年以上も前の話だし。おじいちゃんがどうなったか知りたい。もしかしたらお母さん達もふらっと寄るかもしれないし。」

 「ついていこうか。」

 「それはダメ。ハハ。大体大将の足じゃ、あの山は登れないよ。」

 「フン、人を年寄り扱いししやがって。」

 「ハハハ。今までありがと。まだもうちょっとお世話になるけど、本当に今までよくしてもらって。」

 「それが生きがいだからな。まぁ、一度出国して、また戻ってこい。何百年でもおまえさんの受け入れは準備しておいてやる。」

 「・・・」

 僕は、何も言葉に出来なくて、黙って頭を下げた。

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