第23話 捜索5

 「後はおまえの知り合いか。」

 帰りの車で、倫久は言った。

 「これだけ出没していて、この丸山という男は本当に見たことがないのか?」

 「そんなこと言ったって、知らないよ。」

 「一般人でも視線で不審者と分かる程度です。ナル君、ひょっとして君は視線をはじいてます?」

 「視線をはじく?」

 「ええ。今日の聞き取りだけでも、あなたが目立つのは否定できません。実際にかわいらしい容姿をしていると思いますよ。それに、若に対してはあれですが、他の人に対して、当たりは柔らか、誰からも好かれる、と言っても良いでしょう。常に人の視線にさらされて、そのように、言っては何ですが、のほほんと暮らしていけるものなのか、私はそう疑問に思ったんです。」

 「こいつが底抜けの馬鹿だというだけだろう。」

 「若、ちゃかさないで。おそらく彼が幼体なのは、人の庇護欲をくすぐるためなのではないかと。動物の赤ちゃんは、庇護欲をくすぐって生存率を上げる、なんていう説もありますからね。あなたの場合、そのように愛されるように術でもかけられているんじゃないか、そう勘ぐりたくなる。何か、心当たりはないですか、ナル君?」

 「・・・わかんないよ。」

 「そうですか。分かりました。それは追々調べるとして、私の推測が正しいとしたら、若、彼は自分を守るために、視線をスルーするという技を無意識に身につけているんです。本人に自覚のない防衛本能です。それを責めるのは筋違いというもりですよ。」

 「そんなことは、わかってる。」

 「わかってるなら、よろしい。次は若の言うように、ナル君が本当に知ってる人たちです。隠し撮り、とかの話は実は入ってきてません。当日にナル君の写真を撮った、という共通項は後の二人には当てはまらないんです。」

 「それは、警察の情報?」

 「そうです。だとしたら、当日会ったとは限らない、と言うことです。当日会いましたか。」

 「会ったよ。由梨恵さんは、飲み会の時間にまだあるからって、中休みにおしゃべりしていったし、未来ちゃんは、僕が最後の目撃者だって知ってるでしょ。」

 「由梨恵さんの話は初耳です。」

 「だって、聞かれなかったし、忘れてたよ。」

 「おまえってやつは・・・」

 「若、気持ちは分かりますが、今日の所は。ナル君、明日、私は丸山卓也の所在を調べさせます。できれば接触をしようと思います。あなたは、商店街の人や常連客の人にこれを見せて、見覚えがないか聞いておいてください。」

 桜宮さんは、メイド喫茶でもらった丸山の写真を僕に渡した。

 「もうすぐつきますが、若はどうします。」

 「もう、夜の営業は始まってるだろう。今日の所はこいつを下ろして帰ろう。」

 「分かりました。」


 そうして、車は商店街の入り口付近、駅から言うと出口付近についた。

 僕が降りようとすると、桜宮さんがこれ、と、箱を取りだし、渡してきた。

 「何これ。」

 「スマホです。持ってないと必要なとき連絡できないでしょう。使い方ぐらいは分かりますね。連絡帳に私と若の番号、ついでに寿司政の番号も入れてあります。」

 「別に必要ない。」

 「必要だから、渡している。何かあったら時間はいいから、すぐに連絡しろ。」

 倫久はぶっきらぼうに言うと、僕を追い出し、車のドアを閉めた。

 僕は唖然として、スマホの入った箱をしばらく眺めていた。

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