第20話 捜索2
メイド喫茶。
第一の被害者がアルバイトをしていた店。
僕は、ここでメイド達と写真を撮った。
「成人、おまえの写真を見せてもらってなかったな。」
「写真?」
「撮ったんだろ?」
「僕は持ってないよ。スマホもないし。」
「おい、ケンコー。」
「はい。複数のメイドと写真を撮った、と調べがついているようですが。」
「写真は撮ったけど、それが作法なんでしょ?」
「・・・成人君、そんな作法は存在しません。私も調べただけですが、メイドとの撮影は、特別なサービスか商品だと聞いています。」
「そうなんですか?でもあのときは、写真に撮られるのが作法だから、と、僕、立たされて、メイドさん達が順番に横に並んで写真、撮ってましたよ。ここの店が特別なのかな?」
僕がそう言うと、何故か二人は僕の頭越しに目を合わせて、首を振った。なんだよ、ていうかやめて欲しい。僕と倫久はそりゃ頭一つ違うし、桜宮さんはさらに背が高いけど、僕を挟んで頭の上でこそこそやられると、ちょっとムッとするよね。
店の裏口で、そんなふうなやりとりをしていたら、中から扉が開けられた。さっきここについたときに、桜宮さんが電話をしていけど、中の人に開けて、と言っていたんだろう。なんか、アポはすでに取ってたみたいだし。
僕らは裏からバックヤードを通り、ちらちらとこちらを見るスタッフの人につれられて、お店まで連れて行ってもらった。
お店に入るとテーブル席の1つに案内される。
「成人様、成人様がたが座られた席は分かりますか?」
キョロキョロしてたら急に桜宮さんが僕に話を振ってきた。なんだよ成人様って、と思ったけど、そういえば刑事さんの時も様付けだったっけ?仕事モードの時はそんな敬称になるんだね。なんかむずがゆくて落ち着かないけど。
「あ、たぶん、アソコ。あのあたりのテーブルを2つ使ってた。」
僕は、いくつかある壁側のものでなく、フロアーを指さした。このお店、真ん中に4人~6人掛けの丸いテーブルが3つ、そして壁際にも2~6人掛けの席がいくつかあって、人数が多い客にはフロアーを使っている、と言っていた。
「フロアーでございますね。VIP様でございますか。」
スタッフさんが言った。
「VIP?」
「はい。特にお得意様にフロアー席は使っていただいております。具体的に申しますと、当店のスタンプカードを貯めた時の得点となります。ご来店の度にスタンプを押させて戴き、20個で満タンとなります。この満タンのカードをご提示戴きますと、フロアー席にご案内いたします。また、このカードを10枚集めた場合、スーパーVIPとして、永久にこのフロアー席をお使い戴けます。」
「あれ、でも、そんなカードを持っている人は、僕らの中にはいなかったと思うけど。」
「実はもう一つフロアーを使って戴く場合がございます。その日のメイド3名以上の合意です。フロアー席にVIP様をご案内するときに説明するのですが『キャッスル』が行われた場合、席を空けて戴くことになっております。」
「キャッスル?」
「メイド3名以上がお仕えしたい、普通の言葉で言いますと、担当したいと思う方がいらっしゃった場合、キャッスルは行われます。いわば福利厚生の1つですが、大抵は有名人の方とかが多いですね。少ないですが、いわゆるイケメン、と言われるような方でも、もちろんキャッスルをしてもかまいません。失礼ですが、お3人様でしたら、おそらくキャッスルが出るかと・・・」
「成人、心当たりは?」
「・・・僕はついてきただけだから。でも、そういえば、入るときに幹事の人に肩を抱かれて先頭で入らされたかな?それと写真をお願いしても?てメイドの人が聞いてきてた。何?て聞いたら、メイドさん達にお願いされたら写真を撮るのが作法だから、僕も機嫌良く撮ってねって言われたんだ。その後、お帰りなさいって並んで言ってたメイドさん達がバタバタといなくなったな、と思ったら、なんかここの席に座れれって僕だけ指定されて・・・」
僕は1つだけゴテゴテと飾られた席を指さした。
「そこはプリンスの席でございます。キャッスルが出た場合、該当のお客様にかけて戴きます。」
「おまえ、喜んでこんなところに座ったのか?」
「だって、大人の中に子供が入ってたら座る席だって言ってたんだもん。お酒の飲めない人が分かるようにするんだって言ってた。」
「それはうちのメイドが?」
「いえ、連れてきてくれた、幹事の人です。」
「それは良かった。メイドにはキャッスルシステムの説明をしてご納得戴けた場合行っていい、と申しつけていますので。」
「じゃあ、幹事の方が分かってて成人君を連れてきたのですね。なんか得点でもあるんですか。」
「この場合はプリンスですが、そのお客様は無料になります。また写真撮影がグループの方は無料。そのほか担当メイド1人に付1割引となります。」
「なるほど。」
「おまえ、いくら払った?」
「商店会費から出るって言ってたから払ってない。」
「分かりますか?」
「少々お待ちを。茜ちゃんが亡くなった日ですね。」
そう言うと、スタッフさんは席を立った。
「おまえ、本当にそんなシステムに入ってるの気づかなかったのか?」
「だって、こんな店初めてだし、なんか知らない人もいっぱい来て、パニックだったんだもん。」
「はぁー。よくだまされずにここまで生きてきたな。」
「なんだよ。」
「おまえに色々常識を教えきれるか自信がなくなってきた。」
「若が自信をなくす所なんて、激レアですね。成人君、君は本当にすごいですね。」
「おい、コーケン。」
「はいはい、そんなつもりはない、ですね。ほら、しゃきっとして。戻ってこられましたよ。」
「お待たせしました。あ、それと彼女当日フロアーに入っていた中山といいます。」
「中山彩野です。あの、覚えてます。ナル君ですよね。フフやっぱりかわいい。あ、こっちのお兄さん達もすごく良いです。スマート系にクール系ですね。でも私はやっぱりスイート系のナル君押しかな?」
「おい、お客様のまえだぞ。」
「てへ。」
あ、これが噂のてへぺろかぁ。でも、なにがいいか、よくわかんないな。
「ひょっとして、中山様も彼と写真を撮りましたか。」
「彩野って言ってくださいよぉ。もちろん、撮りましたよぉ。今、私の待ち受けですぅ。」
そう言うと、スマートホンを取り出し、僕らに見せた。あ、本当に僕の写真、待ち受けにしてる。それにしても、全然違うな。メイドさんと前の人、まるで別人だ。
僕が横目で見ていると、丁寧にお礼を言いながら桜宮さんは、スマホを返した。
「かなりのメイドさんが写真を撮ったとききましたが。」
「うん、あのときいた子全員。店始まって以来の美少年だって大騒ぎだったんだから。わざわざ厨房の人も見に来たり、シフトのない子もわざわざ来た子までいたよ。気づいてなかった?」
「あ・・・うん。」
「お話の途中済みません。当日のフロアーですが、これだと思います。ご本人様からはお金は戴いていませんね。当日フロアーにいたのは6名ですが、8名分の担当が記されています。先ほどシフト外の者がいた、ということですから、きっとその者でしょう。それに加え、他のお客様から写真料がかなり入っています。実質マイナスななっており、お代は戴いておりません。」
「他のお客様からの写真料、ですか。」
「はい。これもキャッスル時のイベントでして、お客様にはご了承戴いてるはずなのですが、当方、写真はメイド1名につき1000円を戴いております。取り直し自由で枚数も自由ですが、時間は5分とさせて戴いております。当然のことながら、本来グループの方以外の撮影はお断りしておりますが、プリンス、また年齢性別により、キング・プリンセスまたはクイーンと呼び名は違いますが、これらの方が撮影スポットにいる場合、同じお代を戴いて、他のお客様の撮影が可能となっております。そして、このお代の半額500円分はプリンス様のグループのお支払いに当てられるということになっておりまして、それが写真料となります。」
そういえば、なんか並んで写真撮っている人が自分の順番になると札を渡していたっけ。メイドさんをとっているとばかりおもってたけど・・・
う、なんか倫久のあきれたような目が怖い。
「では、うちの成人は食事代を自分の身を切り売りして稼いでいた、と。」
うわぁ、漫画ならブリザード吹いているよ。
「そんな言い方しないでください。ナル君はかわいいです。かわいいは正義です。正義はみんなのためにあるんです。ナル君の写真を撮るのは正義であり、義務であり権利です。お金をナル君のために使う。それは浄財です。あなた、さっきから何ですか。ナル君をいじめないでください。ナル君をいじめるのは悪です。あなたは魔王ですか?」
?
・・・・
何を言ってるか分からない。
けど、僕をかばってくれてる、のかな?
僕はそっと倫久をうかがった。はぁっとあきれたようにため息をついていた。
ぼん。
僕は頭に重みを感じて思わず見上げた。
所有権を主張するように、僕の頭に片手を置いて、倫久は意地悪い笑みを浮かべ、彩野さんをみた。
「別に意地悪をしているつもりはありませんよ。私はこの成人の保護者です。あなたが何を言いたいのか分かりませんが、この子が本人の気づかないうちに食い物にされるのは気に入りませんし、またそれに気づかないこの子にも一言あります。これはあくまで身内の話です。他人のあなたにとやかく言われる筋合いはない。」
「はぁ、何言ってんの?あんたは何様のつもり?とにかくその汚い手をナル君からどけなさいよ。あんたが保護者?どう見ても子供じゃない。そんな髪の毛伸ばしたちゃらちゃらしたガキのくせに保護者とか笑わせるな。だったら私がナル君の保護者になってあげようじゃない。ナル君だって、そんな横暴な奴より、優しいお姉ちゃんがいいに決まってるわよね。」
え?いや、その・・・どうしたらいいの?
「クックックッ、アッハッハッ、ああ失礼。倫久様、大人げないですよ。彩野様、誤解させて申し訳ありません。倫久様は成人様がかわいくてしょうがないんですよ。どうしても過保護になってしまって、端から見たらハラハラするでしょう。まだ彼もあなたの言うように子供です。どうか温かい目で見て戴けませんか。」
「おい。」
「黙っててください。どうでしょう彩野様。」
「うん。もちろん、良いわよ。私も大人げなかったわ。子供が一生懸命自分のだって言ってるだけなのよね。うん分かった。あなたみたいな大人が側にいるんなら安心して良いわよね。」
「はいもちろん。ところで彩野様。お話を伺っても?」
「ええ、なぁに?」
「その、彼らがお店に来たとき、何かトラブルはなかったですか?」
「トラブル?」
「たとえば、そのキャッスルですか、それが気に入らない人、とか。きっと騒がしくなるでしょうから、嫌がる方もいるでしょうし。」
「あ、そういえば。」
「そういえば?」
「うん、キャッスルをするんで席を空けてください、と言ったらまぁ皆さん素直に開けてくれたんだけど、その後で、自分のメイドがナル君に夢中になっているのが気に入らなくてごねてるスーパーの方がいましたね。」
「スーパー?」
「スーパーVIPの方です。普段は礼儀正しいのにってビックリして。でも、その後、写真の列に並んで押しの子は撮ってましたから、今まで忘れてました。」
「押し?」
「ああ、ひいきのことです。そういえば押しは茜ちゃんだったわ。」
「その方の写真とか、名前とか分かりますか。」
彩野さんはスタッフの方を見た。たぶん客の個人情報とか、そんなことを気にしてるんだろう。言動はあれだけど、ちゃんとしている人みたいで良かった。
彩野さんの様子を見て、桜宮さんが懐のポケットから名刺を取りだした。
「私は弁護士の桜宮と申します。守秘義務は絶対に守りますので、情報をいただけないでしょうか。」
名刺を見て安心したのだろうか。二人はお互い頷いて、スタッフの方は壁にいっぱい貼られた写真から一枚の写真を外して持ってきた。
小太りの男と、茜さんが手で半分ずつハートを作り二人でハートにして笑ってる。
「スーパーVIPの丸山様です。丸山卓也様。あくまでもご本人がスタンプカードに記載されているものです。ご住所等は伺っておりません。押しの茜ちゃんがいなくなってからは、来られていませんね。」
「写真を戴いても?」
「どうぞ。」
僕らはその写真をもらって次の現場へと向かったんだ。
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