第19話 捜索1

 翌朝、駅で待っていたら、電車でなく、車で奴はやってきた。

 促されて、車に乗る。

 運転席にいたのは、この前いた桜宮とかいう弁護士だった。


 「大将に聞いたのか。」

 しばらくして、奴が言った。

 「それだけ警戒されると落ち着かない。」

 ・・・

 「フフ、素直というか馬鹿というか。顔に出しすぎだ。少しぐらいポーカーフェイスを覚えろ。」


 「若、えらく楽しそうですね。」

 ミラー越しに僕らを見て、運転手をしている桜宮さんが言った。

 「別に。」

 「またまた。最近は『あの雛が』『あの幼体が』ばっかりですよ。」

 「ケンコー!」

 「やれやれ。成人君でしたか。先日会いましたが、わがまま上司のおかげで自己紹介がまだでしたね。私はその暴君の付き人件ボディーガードおまけに運転手までさせれらている桜宮兼行かねゆきと申します。実質は若のベビーシッター、ですね。ケンコーというのは、若が言い出したニックネームですが、今はこちらの方が通っておりますので、成人君もそう読んでくれても良いですよ。」

 「おい、ケンコー!」

 「ああこわいこわい。ハハハ」

 なんだろうこの二人。こうしてると、こいつも年相応の子供に見えるけど・・・

 「何を笑っている。」

 「いや、別に・・・」

 「ったく。まあとにかくだ。せめて動揺を隠すぐらいのポーカーフェイスは手に入れろ、と言ってるんだ、わかったか幼体。」

 「幼体って・・・僕の方がずっと年上・・・」

 「あのな、あやかしは見た目通りの精神年齢だ、というのは常識だろうが。何年生きてるか知らんが、おまえはどう見ても12,3歳がいいところだ。幼体で充分だ。」

 「そんなこと言われても・・・」

 「だいたい中身が幼いから見た目も幼くなる。悔しかったら成長してみろ。」

 ・・・・嘘ッ。中身が成長したら体も成長するの?大人の外見になったら、こんなに頻繁に場所を移動する必要なかったのに・・・

 「なんだ、まさかそんなことも知らなかったのか?」

 「うっ。だって、誰もそんなこと教えてくれなかったもん。」

 「はぁー。一体どんな教育してきたんだか。おまえ、いったいなんなんだ?何ができる?」

 「何が、って色々できるよ。通訳もやったし、パン屋で働いたこともあったから、パンも作れる。魚だってさばけるし、絵を描くのも得意だ。」

 ・・・・

 「なんだよ。」

 「はぁー。あやかしとして、何ができるか、と私は聞いているんだが?」

 「・・・・それは・・・わかんないよ。」

 「わかんない?」

 「だって、あやかし、とか言われても。僕は成長が人より遅くて長生きだし、体が丈夫で怪我もすぐに治るとか、人より運動神経がいいとか、そんなことは分かるけど・・・あやかしとしてできること、なんて分かるわけ無いじゃない。大体あやかしなんての、今まで聞いたことなかったし。」

 「・・・ケンコー、どう思う。」

 「いやぁ、想像以上の箱入り、と言いますか。」

 「できることも含めて、教育する必要もあり、か。先が思いやられるな。」

 「そう言いつつ、若、嬉しそうですね。弟でもできた感じですか。」

 「あやかし相手にそんなわけないだろ。しかし、成人、おまえ成長が遅い、と言ったな。産まれた時からそんな外見じゃなかったのか?」

 「はぁ?そんなわけないだろ。ちゃんと赤ちゃんからここまで育ったわ!」

 「知らんのか?あやかしの多くは産まれた時から外見は変わらない。時折変体するものもいるが。しかし、高度のあやかしには交配で産まれるものがいる、と聞く。ひょっとしておまえには、親がいるのか?」

 「そりゃ、いるけど・・・」

 「何者だ?」

 「・・・・言えない。約束だから・・・」

 「約束?」

 「僕を育ててくれたおじいちゃん。僕の両親を知っている者は信頼できるから頼りなさい。かわりに両親について知らない人に教えてはいけない。そう約束した。」

 「では、私がおまえの両親のことを知っていたら?頼るのか、私を。」

 「・・・・そうなるね。」

 「・・・まあいい。少なくとも、おまえの親が名のあるあやかしで、人間界にもそれなりに影響を持つものだ、ということが分かった。おまえは知らないかも知らんが、あやかしだからと何が何でも討伐対象になるわけではない。ある種のあやかしについては、共存を約しているものもいる。人間界に紛れて暮らしているものもそれなりの数いるんだ。」


 「若、その辺で。まもなく第一現場につきます。」

 「わかった。そうだ、成人。おまえの能力で何か障気を感知できるものはあるか?」

 「障気?」

 「赤い目で見えるもの、と言えば分かるか?」

 「視界を切り替えれば見れるけど。」

 「馬鹿か!いや、馬鹿だったな。気づかなかった私が悪かった。おまえの見た目が変わらずに、あれを捕らえることはできないか?」

 「見た目が変わるとか知らなかったから・・・でも、普通にすごしてて、匂い、なら分かるよ。由梨恵さんのご遺体から、その残り香を感じたから、魔素だまりか何かに触れたんじゃないか、と思って、事件からあまり時間がたってないあの公園に行ったんだ。」

 「匂い、か。よし、おまえはできるだけしゃべらずに、どこかにその匂いがないか、それだけに注意していろ。いいな。」

 「分かったよ。」


 ちょうどその時、メイド喫茶の前に到着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る