第16話 捜査会議

 『吸血鬼連続殺人事件』と世間で騒がれてはいるが、現場名は『山環沿線婦女連続殺人事件』である。

 俺は、ここ数日、この現場に警視庁捜査一課から参加している。

 先日、5人目の被害者、小林未来嬢の最後の目撃者として会った少年は、不思議な雰囲気を持っていて、38年の人生でも、特別印象深い日となった。あれだけべっぴんなら被害者の小学生が憧れるのはもっともだ、俺はそう確信し、また、彼の雰囲気や、店主なんかの態度から、犯罪者とはほど遠いと、脳内事件関係者リストから、とっとと外している。


 しかし、だ。

 今、会議室の前方モニターに、その少年がデカデカと映し出されて、俺は思わず口に入れていたコーヒーを吹き出した。


 「山田成人17歳。寿司屋店員。新たな共通点として浮かび上がった少年だ。」

 大写しにされたのはメイド喫茶での1枚か。照れくさそうにはにかむ山田少年に対し、一緒に映っているメイドは頬を赤らめ、幸せそうに笑っている。仕事、というより、趣味でとったみたいじゃないか、そう思っていると、その写真を小さくし、パンパン、と他に2枚、写真を並べた。


 他の写真はいずれも隠し撮り、というか、許可なく撮ったようで、ピントもぼけている。しかし、特徴的な髪型や雰囲気から、件の少年を隠し取ったものだ、と分かる。

 「このメイド喫茶の写真だが、メイドの格好をしている店員が第一の被害者佐藤茜21歳。大滝女子大の学生だ。そして、他の2枚だが、いずれも第2、第3の被害者のスマートフォンから見つかったものだ。ちなみに最初の写真も被害者本人のスマートフォンから発見された。これのそれぞれの撮影日が、各々被害に遭った日付と合致する。」

 ザワザワ、と、会議室がざわめく。今までは、山環沿線沿いで発見された若い女性、という共通点しかなかったが、新たな発見に、ざわめいたのだろうが。いや、それだけじゃないか。あるまじきことだが、かなりのざわめきが少年の面構えについてなんか言ってるみたいだ。


 「発言よろしいでしょうか。」

 そんなざわめきの中、隣でまっすぐ手を上げた奴がいる。相棒の地井刑事だ。

 「なんだ。」

 「はい、質問です。その2枚目3枚目の写真ですが、いずれも隠し撮りにと思われるのですが。」

 「その通りだ。正確には、ここに映した写真は殺害当日のものだが、この二人に関しては複数枚、別日に隠し撮りしたと思われる写真も見つかっている。」

 再びざわめきがわく。ストーカー?とかいう疑問も口々に出されている。

 「確か、彼には地井君、君が聞きとりしたと聞いているが。」

 「はい、吉田刑事と共に、聞き取りをしました。」

 「印象を聞いても?」

 「はい。とても素直で良い子でした。私の印象では、犯罪とは縁遠く感じました。」

 「それは女の勘、かね。」

 皮肉っぽく言う上司は、いまだに刑事が男の職場だと思っている化石だ。

 「いや、刑事の勘、だな。俺も同じ印象だ。」

 だから、俺も地井刑事に追随して、そう言ってやった。

 「本当に良い子ですよ。礼儀正しいし、誰にも優しいし、看板娘ならぬ看板美少年だと、評判の子です。」

 所轄の刑事が、どうやら普通に知っているようで、そんな風に発言した。何人かも追随して、エピソードらしいものを周りに告げているようだ。


 「いずれにせよ、数少ない手がかりだ。吉田刑事、地井刑事。二人でもう一度彼に被害者達との接点がないか尋ねてくれ。」

 「にんどう任意同行、かけますか?」

 「未成年だし、最悪現場での聞きとりでいい。聞き取りを拒否するようならにんどうも視野に入れる。」

 「「はい」」

こうして、俺は再び少年を訪ねることとなった。

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