第9話 小林さんちのお孫さん

 僕は、さっき出ていった刑事さん達の名刺を並べて、ため息をついた。


 吸血鬼連続殺人事件。ちまたを賑わすこの事件。

 もともと、この沿線で起こっていたけど、この駅近くで2件もの被害が出てしまっている。しかも、二人とも僕の知っている人で・・・

 大将いわく先代からの常連のお嬢さんのお葬式を手伝ったのは、先週の金曜日から土曜日にかけて。たった2日前の出来事だ。その時に、この事件の犯人を見つけて欲しい、なんていう無茶ぶりをされてはいたけれど・・・


 土曜日は忙しい日だった。

 お葬式が午前中に終わり、法事の用意・片付けで、僕がここに帰ってきたのは3時過ぎていたっけ。大将に、少し寝ろと言われて、店の上にある僕の部屋で1時間ほど仮眠をとった。前日は徹夜だったけど、僕なら体力があるし、全然平気。そう思いつつ、4時過ぎに店に降りてきたんだけど、その時に未来ちゃんを見つけたんだ。

 この店は、商店街の人とか常連さんが、仕込み中にでもけっこう自由に出入りしている。100年を超す老舗で、この商店街の中ではゆっくり腰をかけておしゃべりが出来る場所、として、一種のサロンみたいになっているんだ。だから、店に降りたときに誰かがいるのは珍しいことじゃなくて、まぁでも、土日は店が混むことが多いと知っている人たちは遠慮するから、そういう意味では人がいて、おや?と思うぐらいには、珍しいことだった。


 未来ちゃんは、僕が降りたことに気づくと、かわいらしい笑顔を向けてくれた。

 「ナルちゃん!」

 席から立って、慌てて駆け寄ってきた未来ちゃん。

 「来て!」

 そのまま、僕の腕を掴んで、店の外へ引っ張っていく。

 店の外には、真新しい自転車が置いてあった。ギアが付いている、なんだかすっごく走りそうな、立派な自転車だった。

 「いいでしょう。おばあちゃんに買ってもらったんだ。もうすぐ私、誕生日なんだよ。」

 へへへ、と笑う未来ちゃん。

 「そうなんだ。おめでとう。かっこいい自転車だね。」

 「うん。未来ねぇ、中学生になったら自転車競技やりたいんだ。」

 「へぇ。なんか、すごいねぇ。」

 「私の好きな漫画があってね・・・」

 未来ちゃんは、今のお気に入りの自転車漫画の話を嬉しそうにしていた。


 そういえば、雀の話もしたっけ?

 未来ちゃんは、店の横に置いてあった大破した自転車をめざとく見つけたんだった。ちょうど未来ちゃんが訪れている小林さんちの裏でのできごと。しかも小林さんちの木から落ちてきた雀をキャッチして事故っちゃった、なんて話をしたら、お庭に雀の赤ちゃんがいるの?と、目をキラキラさせていたっけ。

 「あんまり近づくと、雀が怖がっちゃうし、木の上で危ないから、見るならお父さんとかといっしょにね。」

 「うん、分かった!」

 そんなことを話して、バイバイして、きちんとヘルメットを被った未来ちゃんは、

 「ナルちゃん、もう自転車で手を離しちゃダメだよ!」

なんて、注意しながら、去って行ったんだ。

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