第8話 5人目の被害者
無事、お葬式も終わって、翌日曜日。
吸血鬼連続殺人事件の新たな被害者が発見された。
場所は、4人目の被害者と同じ町にある公園。
寺田由梨恵の発見現場からほど近い小さな公園で、被害者の少女はすべり台のてっぺんにぐったりした形で放置されていた。
そう、少女である。
若い女性ばかりが被害者となっていたが、その最年少被害者が更新された。小林未来10歳。小学5年生。週末、両親と共に父方の祖父母を訪れていたところ、土曜日の夕方に行方不明になったという。
小林未来は、土曜日の昼前に祖父母宅に到着。昼食後、今月末にむかえる誕生日プレゼントとしてねだっていた自転車を祖父母にもらい、試運転、と称して、出かけたまま夕食時にも帰宅しなかった。心配した、両親から警察に通報するも発見できず。翌日曜早朝、祖父母宅から2キロほど離れた、駅を挟んで逆側の住宅地にある公園で、犬の散歩に訪れた会社員に無残な姿で発見された。
そして、翌月曜日。
「では、君が彼女と話したのは、土曜日の4時過ぎ、ということでいいんですね。」
「はい。夜の営業のために店に降りてきた時だったから。」
「昼の営業が2時まで。夜が5時から。その間、店は閉めていたが、鍵を閉めてはいなかった、と?」
「誰かがいるときには、鍵は開いています。出入りの業者もいたり、片付けや仕込みで、仕事があるから。」
「彼女はその店が閉まっている間に入ってきて、君を待っていた、ということですが。」
「えっと、そうみたいです。自転車をもらったと見せに来てくれて。」
「彼女とは親しかったんですか。」
「特に親しいというわけじゃないですけど・・・」
そういうと、その少年は困ったような顔をした。
少女の初恋、というところか、と、質問をしていた吉田刑事は思った。
同僚の女性刑事は、発言を聞き取りながらも、頬を赤らめている。
生娘でもあるまいし、と彼は、心の中で吐きだした。
同僚は確か俺の3つ下だから、もう35歳は超したか。殺人課の刑事になるだけの能力もあれば場数も踏んでいる。イケメン、といわれるような男どもも随分見てきているだろうに。
俺は、その少年を見てため息をついた。
確かにこれはとんでもない美少年、というべきか。そんな性癖のない俺でも、思わず見とれてしまうだけの器量よしだ。まさか、女を捨てた、とか、事件が恋人、と言われるような堅物刑事の地井沙保里ともあろうものが、頬をうっすら染めて、中学生かよ、と、思うようなチラ見をしては、首を振っている姿を見ようとは・・・
いかんいかん。これはセクハラか?
しかし、きれいなもんだ。
外国人か、とも思ったが、はじめにビザを見せろ、と言ったときの店主の剣幕ときたら・・・
カウンターの奥で腕を組んで仁王立ちしている店主をみて、思わず苦笑いを浮かべた。
「そいつは、田中
いやぁ、長年この業界に身を置く俺ですら、一瞬ビクッとなるような啖呵だったな。
どう見ても日本人に見えない少年を見て、その刑事は首をすくめた。
「今のところ、彼女と最後に話したのは、君のようなんです。この後どこへ行く、とか、誰かに会う、とか、そんな話はなかったですかね。」
俺は、その少年のきらきら輝く瞳に吸い込まれそうになる錯覚にあらがいながら、そう質問をした。
「さあ。あのときは自転車の話ばかりだったから・・・」
「わかりました。では何か思い出したことがありましたら、こちらまで連絡いただけますか。」
俺は名刺の裏に、自分の携帯番号を書いて、少年に渡しながら、そう言った。なぜか相棒も大慌てで同じように携帯を書いて名刺を渡す。
俺はやれやれ、と思いながら、もう一度お願いをして、その店、『寿司政』を後にした。
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