第10話 夜の公園(前編)
その夜、深夜2時。
寿司屋の閉店は11時。居座るお客さんもいるし、片付けもあるから、大体毎日日付が変わる頃に上がる。営業中に順番にまかないで夕食は済ませているから、後は順番にお風呂に入って、自由時間。
家にいるのは、僕と大将に女将さん。他はみんな通いだ。といってもそんな大きな店じゃないから、みんなアルバイトとかパートだけどね。忙しいときに近所の人に来てもらってる感じで、常時には僕と大将夫婦がいる感じ。僕はホールと出前が仕事なんだけど、どこへ行ってもみんな親切で、これは大将夫婦が僕を大切にしてくれてるからだと思う。天涯孤独の、こんな僕を、そう思うと足を向けて寝られない。
そんな夫婦だけど、二人には子供がない。僕のことを本当の孫みたいなもんだ、なんて言ってくれるけど、じっさい70歳を超えて、この仕事は大変だろうから、二人を助けたい気持ちは強いんだ。だから、仕事が終わるとさっさとお風呂に入って寝てもらうように、常日頃から言ってる。
そんなわけで、いつも以上に、「早く寝て」攻撃をして、1時前には就寝してもらった。本当は、ここに来たかった、という親不孝。ごめんね、と廊下から二人の寝室にむかってお詫びをして、僕は深夜の公園へ向かった。
住宅街は、街灯に照らされているとはいえ、薄暗い。
深夜2時、ともなると、街灯と街灯の間には闇が出来る。
でも、僕は、けっこう夜目がきく。
だから、この道のりもまったく苦にならずに、公園までやってきた。
公園は小さいものだった。この辺りを出前で通ることはあっても、この中に入ったのは初めてだ。
住宅街の中には、小さな公園がいっぱい作られている。子供の足でも3つぐらいは歩ける範囲にある感じ。
そんな小さな公園の1つだけど、公園自体は土手に囲まれて、少し高い所にあった。1区画を公園にした感じか。
1メートルほど道路から高くなっているその公園に入ると、真四角になっていて、四角の頂点4カ所と、その各辺の中央に1つずつ、道路と同じ薄暗い街灯があるだけで、ほとんどに光源が届いていなかった。いわば、真っ暗な公園、というところか。
公園にはよくあるような遊具が隅の方に並べられていて、中央はグランドになっていた。
あるのは、鉄棒にシーソー、ブランコ、そして件のすべり台。
僕はすべり台の方にむかった。
すべり台は小さいもので、てっぺんでも僕の目線ぐらい。僕の身長は、残念ながらまだ160センチほど。そのうち伸びるとは思うんだ。記憶にない父が190センチ台の大男だったらしいし・・・
まぁ、それはいい。
今は、調査だ。
僕に調査なんてできるのか?
正直なところ分からない。
だって、そんなことやったことないから。
では、なんでこんな時間にこんなところにやってきたのか。
時間は深夜2時、丑三つ時。知っているかどうか、一番霊が活発になる時間帯なんだ。
僕には秘密がある。
その一角はちょっとばかり知られてる。
僕は霊が見えるし、話すことも出来る。
本当はこれは僕の秘密の片鱗というか、付随、というかそんなものでしかないんだけど。
僕は、血の繋がらないおじいちゃんに育てられた。
僕の秘密のこともあり、人里離れた山の中で育った僕は、他の人間を知らずに大きくなった。
で、大きくなった僕は、おじいちゃんに山を下りて人の中で暮らすことを勧められた。人の世界のことをおじいちゃんから学び、僕を助けてくれる人がいることを教えられ、その人達に可愛がられながら僕は今ここにいる。
その間に、人、だけではないけど、生物は生命活動を終えると、魂だけで生きる場合があることを学んだ。そして、そんな魂だけの生命を、生きている人は見えない場合があるんだ、と、最初は教わった。その後、実は見える人の方が少ないと知り、見えることを極力隠すように教わったんだけど・・・
この、母の国、日本に来て、「成仏」という概念を知った僕は、見えることを極力隠しつつも、育てのおじいちゃんの教え「人の助けとなる人になりなさい」を目標に、可能な限りで目の前のお願いを叶えるようにしてきたんだ。
そんなことをしていると、気づくと「霊感少年」とか言われたりするようになる。僕の経験では、これが広がると碌なことにはならない。
またお引っ越しかなぁ、と、ちょっと悲しくなるけど、この事件を解決するのに必要なら、それも仕方がないか。
僕は両手で頬を叩いて気合いを入れると、視界を切り替えた。
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