第2話
結局、僕の提案に2人とも乗った。
一切の会話もなく、僕達はただ屋敷を目指して歩いた。
20分程で屋敷に着いた。
辿り着いた時には、3人ともふうふうと息が切れていた。
周囲には人家はなかった。
この屋敷だけが、ポツンと建っていた。
2階建ての大きな洋館だった。
赤レンガで建てられ、年代を感じさせる作りだった。
外壁には緑のつるが幾重にも、覆うように延びている。
MASUDA、とローマ字で書かれた表札がかけられていた。
1階のリビングだろうか。明かりはついていた。
どうやら人は住んでいるみたいだ。
ほっとした。
ここから車へ引き換えすのは、うんざりだ。
僕は門にあるチャイムを押した。
1分は待った。
そこでようやく反応があった。
「……はい?」
年老いた男の声だった。
「あの……。東京からの旅行者なんですが」と僕は言った。
「ドライブ中に車が故障してしまったんです」
「で?」
何の感情もなく、相手は言った。
その反応に僕は一瞬たじろいだ。
だがここで引き下がれない。
「あ、そ、それで。厚かましいお願いなんですが。もう日も暮れるので、できたらお宅で一泊させてもらえないかと……」
「うちで?」
その声は明らかに嫌がっていた。
「はい。できたら……」
「……」
しばらく間があった。
「まあ、うちに泊めなかったから、あとで問題になったとか言われても困るしな。じゃあまあ上がりなさい」
「あ、ありがとうございます」
とにかく泊めてくれることになった。助かった。
門を抜け玄関に着くと、その重そうな白い扉が開いた。
増田氏が中から出てきた。
70歳くらいに見える老人だった。
薄くなった髪は、丁寧にセットされていた。
大柄だった。何かスポーツをやっていたことを思わせた。
グレーのガウンを着ていた。
僕達は簡単に自己紹介をしていった。
増田氏はちらっと僕達を見ただけだった。
増田氏に先導されて僕らは屋敷の中に入っていった。
屋敷には靴のまま入れた。
内部は白が基調となっていた。
回りはしん……としている。
この屋敷には、他に誰も住んでいないようだった。
板張りの廊下を進んでいく。
「わあ」と大塚が歓声を上げた。
廊下には絵画や彫刻品、それに貴金属がズラッと並んでいたからだ。
さながら美術館のようだった。
どうやら増田氏はかなりの資産家のようだった。
大塚は完全に心を奪われた。
目をキラキラと輝かせている。
すごいなあ、いいなあ、とブツブツつぶやいてる。
中でも大塚が一番惹かれたのが、ガラスケースに入った金のネックレスだった。
「これ、こんな山奥で眠らせておくなんてもったいないよね。アタシが欲しいなあ」
「きっと大塚なら似合うさ」と僕は言った。
「あら。お世辞でも嬉しいよ小杉君」
「ハハハ。お世辞じゃないって」
やり取りを見ていた増田氏が、イラっとしならが咳払いをした。
僕らは慌てて増田氏の後を追った。
廊下を進み食堂へでた。
食堂は広かった。
天井には豪華なシャンデリア。
10人座れるテーブルには、白いテーブルクロスがかかっていた。
「ここは食堂だ。台所も冷蔵庫の中の食べ物も好きに使ってもらって構わない。2階に6部屋ある。どこでも好きな部屋を使いなさい。ただ明日になったらすぐ出ていってくれ」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
この食堂の広さと、2階にある部屋数。
この事からこの屋敷には、かつて大勢の人が住んでいたことをうかがわせた。
「1つだけ注意がある。1階の奥にある私の書斎だけは絶対に入らないように。いいね」
念を押して鋭い目で増田氏が言った。
「分かりました」
増田氏は無愛想だが、親切だった。
「あ……あの……こんなこと聞くのって失礼ですけど、部屋って掃除してあります?」
本当に失礼なことを大塚が訊いた。
軽い潔癖症なのだ。
だがそんな失礼な質問にも増田氏は答えてくれた。
「週2回、通いの家政婦さんが掃除に来てくれているよ」
「そうなんですね。よかった」
大塚は喜んだ。
増田氏はああ言ってくれたが、さすがに食べ物までもらうのは気が引けた。
泊めてもらえるだけでありがたい。
3人ともそこまで腹は減っていなかった。
半日くらいならもつだろう。
ペットボトルのドリンクも持って来ていた。
増田氏は1階の他の場所も案内してくれた。
食堂の他に大広間、応接室、ホール、浴室そして長い廊下の先に、増田氏の書斎と寝室があった。
2階へは自分達で行くようにと言うと、増田氏は書斎へと行ってしまった。
僕らは2階へ向かった。
廊下を挟んで向かい合わせに3つの部屋が並んでいた。
僕らは北側のはじから並んで3部屋を使うことにした。
それぞれの部屋の前で分かれた。
6畳の部屋だった。確かにきちんと整理されていた。
僕は部屋に入り、ベッドに横になった。
「ふーっ」
一気に疲れがでた。
それは睡魔となって僕を襲い、そのまま眠ってしまった。
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