犯人は
空木トウマ
第1話
「ねえ、本当にこの道で合ってるの?」
不安そうに聞いたのは、大塚絵里だった。
大塚はポニーテールで、眼が大きく可愛らしい娘だった。
白いシャツを着ていた。
「だ、大丈夫だよ」
自信なさそうに答えたのは、高山翔太だった。
丸メガネに丸っこい顔立ちだ。真ん中に海と船がプリントされたTシャツを着ていた。
山道のハンドルを握るその顔は不安げだ。
大学生の僕らはお金もあまりない。
少しでも安く浮かせるために、カーナビのついてない車をレンタルした。
それが間違いだったのかもしれない。
僕はまあまあと、2人の間を取り持っていた。
初夏の山の陽は、どんどん暮れてゆく。
これも車内の僕達3人の不安をあおる原因になった。
僕達3人は大学の温泉同好会というサークルに入っていた。
今日も休みを合わせて、G県の温泉巡りをしてきた帰りだった。
楽しい旅行だった。
その帰りに道に迷うまでは。
「道には自信あるから大丈夫」と高山は胸を張った。
地図をじっくりと見た。
そして近道があると選んだのが、この道だった。
「小杉君はどう思う?」と大塚が言った。
「そ……そうだね。どうだろう?」
振られても僕はあいまいな返事をするだけだった。
元々僕は優柔不断な性格だ。
さらに不運なことにレンタカーのワゴン車はエンジンの調子が悪い。
ジージーと不吉な音をたてている。
「まずいな……」
高山は、一旦車を道から外した。
するとボンッと爆発したような音をだした。
「あ……、止まった」
高山は何度もアクセルを踏んだが、車は動かなかった。
それまで車がうるさかっただけに、止まってしまうとしん……と静けさに包まれた。
「どうするのよ!こんなところで止まって!?」
大塚のストレスが爆発した。
大塚は高山にかみついた。
「ロードサービスを呼ぶしかないな」
困った顔をして高山が言った。
「それまでずっとこの暑い車内に居ろっていうの?冗談じゃないわ」
エンジンが止まり、エアコンも効かなくなった。
すぐにムシムシと汗ばんでくる。
「それにロードサービスが来て、修理が終わったらもう真夜中よ?私、もう疲れたわ」
「文句ばかり言ってもしょうがないだろ?それに車が壊れたのは僕の責任じゃないよ」
高山もねちねち言われるのに、うんざりした。
さすがにちょっとキレながら言い返した。
険悪なムードだ。
僕は2人が言い争うのを見るのは嫌だった。
車から降りた。
そしてどこか休める場所がないか探してみることにした。
回りを見渡した。
「ん……あれは……?」
3km程先。
林の中に白い大きな屋根が見えた。
どうやら屋敷のようだ。
あそこなら誰か住んでいるかもしれない。
僕は車の窓ガラスを叩いた。
「少し先に屋敷を見つけたよ」
僕は2人に言った。
「このままここにいても仕方ない。今日はあそこで泊まらせてもらえないか、聞きに行かないか?」
2人は少しの間、顔を見合わせた。
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