帰りたくない

@a123456789

家帰ってもすることない

 あ、電車来ちゃった。

はやく乗らないと…。座れるとこ座れるとこ~、っと……。


ホームに着いた電車内は比較的、というよりかなり空いているほうで、立っている乗客を探す方が一苦労である。


あ~やばやば……電車行っちゃう…。どっかないかな~、っと。


乗車する意思が無いと判断されたらしく、彼女を一人ホームに残し電車は動き始める。


あはは…また逃しちゃった…。まあ、仕方ないよね。


この喧騒が、心地いい。誰が誰を認識するわけでもなく、その無名性の中に溶け込むことが許される。発言を強要されることもない、発言に注意を傾ける必要もない。ここでは、耳を澄ましていなくてもいいんだ。


あ、目合った。あの人には私がどんなふうに見えてるんだろう。少なくとも私のことを認識して、今から五秒間ぐらいは私のこと考えるんだろうなぁ。眠る前にふと私の顔が頭に浮かぶのかも。「なんであんな奴の顔が…」みたいな。

「あんな」奴?死ね。私の方が上だっつーの、人として。


お、かっけーイヤホン。なんか、あれ外で付けてるやつ大抵前髪長いよなぁ。ズボンすっげーきつそう。…あ、友達きた。ズボンきつくて、前髪長くて…ぷっ…あはははは…。やはりおめーもか。…あ、こっち向いた。…なんだ?


「ねね、お姉さん、今ヒマ?」

「ヒマだよ」

「まじ?じゃー俺らと一緒に…」

す~~~~~っ……

「…!?」

私史上最高の変顔、決まる。


ブーーーーーーッ

ブーーーーーーッ

カバンの中で、携帯が鳴っている。


…行かなきゃ。

トン、ドッ

肩がぶつかる。ぶつかる。ぶつかる。怒声が飛び交う。それもそのはずだ。扉の前で一人の女が立ち止まっている。それは私だ。

誰もが好き勝手に他人を飼い慣らし、生かし、生かされる。


電車が発車する。ベンチの感触が心地いい。

「まあ、まだ大丈夫だよね。」


もっとこいつらみたいに、汚くなりたい。

もっとこいつらみたいに、図太くて、盲目で、研ぎ澄まされた視界には、いくつかの大切な人。

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